暗部の一夏君   作:猫林13世

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代償ってほどじゃないですけどね


それぞれの代償

 文化祭翌日、HRの為教室に集まった一年一組のクラスメイトたちに、一夏の容態が伝えられた。

 

「更識君は、今日明日は欠席しますが、それ以降は普通に登校しますので、皆さんは心配しなくてもいいそうです」

 

「マヤヤ、お見舞いとか行っちゃ駄目なの?」

 

「大事にしたくないそうですし、更識関係者の監視が厳しいので、簡単に面会は出来ません」

 

「ほえ~、いっちーに会うのは大変だったんだね~」

 

「本音は更識関係者でしょ? 何で会えないのよ」

 

 

 清香のツッコミに、本音が首を傾げる。本来なら護衛である本音が一夏の側にいるのは当然なのだが、何故か本音は一夏に面会する事が出来ていないのだ。

 

「美紀ちゃん、何で私はいっちーに会えないの?」

 

「本音は今、余計な心配をクラスメイトにさせないために明るく振る舞う必要があるって一夏さんは言ってましたけど、別に面会して本音が暗くなるとは私も思えないんです。ですが、一夏さんも思うところがあるのだと思いますよ」

 

「そうなんだ~。いっちーが考えてる事は難しいから、私には理解できないけど、美紀ちゃんにも分からない事があって良かったよ~」

 

「私なんかが一夏さんの考えを理解できるはずがないじゃないですか。一夏さんがいなければ、定期試験だって危ないんですから」

 

 

 常日頃から努力はしているが、美紀の成績は一夏抜きだと本音と同じくらいだ。だからではないが、美紀は自分が賢いと思われることを嫌う節が見られるのだ。

 

「とりあえず、一夏さんに簡単に会えるのは虚さんと碧さんだけです。簪ちゃんもその二人のどちらかと同伴じゃなければ会えないと言ってましたし」

 

「かんちゃんが無理なら、私が無理なのも納得だよ~」

 

 

 本当に納得しているのか、イマイチ分からない本音の態度に、美紀はため息を吐きそうになった。だが本当にため息を吐きたい人が教壇に立っているのを思い出し、寸でのところで堪えたのだった。

 

「それから、織斑姉妹ですが、当分の間は授業以外での部屋から出る事が禁止されていますので、質問がある場合は私か小鳥遊先生にするようにお願いします」

 

 

 疲れ切った顔でそう告げる真耶に、美紀は同情するのだった。

 

「織斑先生たちは何をしたんですか?」

 

「更識企業に喧嘩を売った、と言われても仕方ない事をした、としか言えません。それ以上は本人に聞くか、更識君が復帰してから聞いてください」

 

 

 これ以上は何も言えないと告げて、真耶は教室から職員室へと戻っていった。一時間目はその織斑姉妹の授業なので、遅刻しないようにクラス全員が急いで着替える中、美紀だけは着替えずに生徒会室へと向かった。 

 一夏、刀奈が負傷した今、生徒会業務が滞ってしまっている為、緊急措置として美紀は実習には出ずに生徒会業務をするように命じられていたのだった。

 

「それじゃあ本音、何かあったら電話してね」

 

「はーい。美紀ちゃんも頑張ってね~」

 

 

 本音に見送られ、美紀は生徒会室までの廊下を一人で歩く。普段用が無い為違和感を覚えながら、美紀は生徒会室で作業を黙々とこなすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 美紀が一人で生徒会作業をしている時、一夏と刀奈は保健室で安静にしていた。本人たちはもう大丈夫だと主張するのだが、虚と碧が後二日は大人しくしているようにと半ば脅しのように押さえつけているのだった。

 

「ねぇ一夏君、せっかく堂々とだらだらしてるのに、つまらないって思っちゃう私って贅沢なのかな?」

 

「俺もつまらないと思ってますし、それが普通なんだと思いますよ」

 

 

 手持ち無沙汰を解消する為には、何か本でも持ってきてほしいと頼んだ一夏だったが、その願いも却下されたため、ただ永遠にゴロゴロするしかなかったのだった。

 

「闇鴉、なんか持ってきてくれ」

 

「そうしたいのは山々なのですが、虚さんにきつく言われていますので……私もまだ、スクラップになりたくないですからね」

 

「そこまではしないと思うが、このままじゃ退屈で死にそうだぞ」

 

「そう簡単に人は死なないと思いますが……まぁ、お二人は忙しくしてるのが当たり前だったんですから、たまにはのんびりしたらどうです?」

 

「自分の意思でのんびりするならいざ知らず、こうも強制的にのんびりさせられてもな……全然嬉しくないし暇を持て余す」

 

 

 普段から暇という概念を持ち合わせていなかった一夏は、このままいけば何かしたくて発狂するのではないかと思うくらい、暇を持て余していたのだった。

 

「そんなこと言われましても、一夏さんに何か与えれば、それに集中して休むことをしなくなる、と碧さんに言われていますので」

 

「それはあるかもね。一夏君は何かに集中すると、そればっかりになるから」

 

「そんなことないと思うんですがね……」

 

 

 生徒会業務も、IS製造もかなりの集中力で素早く終わらせる事が出来た一夏だが、その間他の事をあまりしていなかったと自分でも覚えていて、語尾が消え入るように小さくなっていった。

 

「とにかく、今一夏さんと刀奈さんがしなければいけない事は休養。後一日は大人しくしててくださいね」

 

「読書くらいなら問題ないと思うんだがな……」

 

「一夏君が読む本って、もの凄く頭を使う本だからじゃない? 漫画とかなら虚ちゃんも許してくれるかもしれないわよ」

 

「漫画か……簪や本音が持ってるのを昔借りて読んだことがあるが、それ以外は無いな」

 

「じゃあ虚さんに聞いてみますね。許可が下りたなら持ってきますよ」

 

 

 闇鴉が保健室にいる理由は、虚が授業中だからに他ならない。だから今聞きに行くことは出来ないので、一夏は大人しくベッドに横たわったのだった。




暇を持て余す一夏たちと、一夏に会えないクラスメイトたち……

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