暗部の一夏君   作:猫林13世

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久しぶりに喋らすと口調が分からなくなる……


専用機との会話

 一夏が保健室にいる為、美紀は部屋で一人になっていた。別段どうこう言う訳ではないのだが、普段二人で生活している空間に一人というのは、いささか心細くなったりするのだ。

 

『ミキ、寂しいの?』

 

「いえ、そういうわけではないのですが……」

 

『ゴメン、ボクがもう少し早く一夏お兄ちゃんのピンチに気づいてたら』

 

「金九尾が悪い訳じゃないですよ。私たちも一夏さんから意識を外してたのが問題なんですから」

 

『それこそしょうがないでしょ。美紀たちは試合が近づいてたんだし、相手が碧さんなんだから、そっちに集中しちゃうのも無理はないよ』

 

 

 金九尾に慰められ、美紀は苦笑いを浮かべる。一夏が造ったISは全機、所有者と一夏に話しかける事が出来るので、一人でも会話相手に困ることは無い。だが、こうして慰められる日が来るとは、美紀も思っていなかったのだった。

 これが本音とかならば、専用機である土竜に怒られたり注意されたり、アドバイスをされたりと色々あるのだろうが、美紀はその辺りはしっかりしているので、ISから指示されたりする事は無かったのだ。

 

『とりあえず一夏お兄ちゃんが無事だった事を喜ぼうよ』

 

「そうですね……意識もしっかりしてるようですし、記憶障害も特に無いのは、不幸中の幸いだったと喜ばなければいけないのでしょう。でも、一夏さんのあんな痛々しい姿を見るのは……」

 

『一夏お兄ちゃんの回復力は他の人より高いから、数日もすれば痣も消えると思うよ。後は闇鴉がどう動くかに寄るけどね』

 

「どういうことですか?」

 

 

 金九尾の含みのある言い方に引っ掛かった美紀は、答えてくれるか分からないが金九尾にその含みの部分の解説を求めた。

 

『ゴメン、これは一夏お兄ちゃんと闇鴉の問題だから、ボクからは何も言えないんだ』

 

「そうですか……でも、良い方向に事が進むと受け取っていいんですよね?」

 

『それはそうだと思うけど、闇鴉が何で一夏お兄ちゃんに今回の一件の記憶を与えたのか、それが分からないとどっちに事が進むか分からないよ……明日、面会の時に聞いてみたらいいよ』

 

「そうですか……ですが、明日の面会時間には、私は簪ちゃんと一緒に織斑姉妹の監視なんですよ」

 

 

 今の時間は碧が担当していて、学生である簪と美紀は部屋に戻っているが、基本的に放課後は美紀と簪が織斑姉妹の監視を担当する事になっている。だから当然、面会にはいくことが出来ないのだ。

 

『最強の姉妹も、さすがに反省してるんじゃないの?』

 

「一夏さんの沙汰が下るまで、大人しくしてもらわないと駄目なんですよ」

 

『お兄ちゃんはあまり興味なさそうだけどね。悪いのはあの侵入者で、織斑姉妹が完全に悪いってわけじゃないんだしさ』

 

「それは、そうですけど……ですが、一度引き受けたんですから、最後までしっかりと役目をはたしてもらいたかったです」

 

『大人だしね。それは確かにあると思うよ』

 

 

 金九尾に愚痴を聞いてもらってスッキリしたのか、美紀はそれから少したって眠りに落ちたのだった。所有者が落ち着いたのを確認して、金九尾も意識を閉ざし、休眠に入ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜にどこかに出かける習慣など無いのだから、監視する必要は無いと思われがちだが、織斑姉妹が何時何をやらかすのかが分からない以上、監視は必要なのだ。

 更識所属で唯一の大人である碧は、現在寮長室の前の廊下に座り込み、織斑姉妹が外出しないかどうかを見張っている。

 

『碧もご苦労な事していますよね』

 

「仕方ないでしょ。まさか虚ちゃんにお願いするわけにもいかないし」

 

『これが織斑姉妹なら、山田真耶にでも押し付けてますよ』

 

「織斑姉妹を監視するのに、織斑姉妹がするはずもないでしょ」

 

 

 木霊と小声で会話をしながらも、意識はしっかりと部屋の中へと向けられている。監視なら織斑姉妹よりスキルが上の碧を誤魔化す事など、彼女たちには不可能なので、今は大人しく部屋で何かしているようだと、碧は認識している。もちろん、窓から抜け出そうものなら、すぐさま回り込んで押し込める事も出来るので、いささかのんびりした空気が寮長室前には流れていた。

 

『犯人を取り逃がしたのは失敗でしたね。無理にでも追いかけるべきだったのでは?』

 

「あの時は、犯人より先に一夏さんと刀奈ちゃんの救助を優先するべきだと判断したのよ。一夏さんも刀奈ちゃんも、結構痛めつけられてたし」

 

『ISに対する恐怖心とかが芽生えてなければいいのですが』

 

「闇鴉が話しかけても大丈夫だったって虚ちゃんから聞いてますし、恐怖症とかは無いと思うわよ。まぁ、犯人と対峙したときに、トラウマが発動したりする恐れはあるけどね」

 

 

 一夏は元々持っているものだが、刀奈にまでそれが植え付けられていたら、亡国機業が攻めてきた時に大きな戦力ダウンになってしまう。後方で指揮を執る事も出来るが、刀奈は前衛にいてほしいと思える操縦者なのだ。

 

『その時には、さすがに織斑姉妹も専用機を持ち歩くようになってるでしょうし、刀奈さんが下がっても戦力は確保されてると思いますよ』

 

「あの二人は加減を知らないから、周りの被害を考えて行動できるのなら問題ないけどね。修繕費だってバカにならないのよ?」

 

『随分と経理の事も考えるようになったんですね。高校生の時はそんなことなかったのに』

 

「何時の話よ。いい加減大人なんだから、少しはそう言う事も考えるわよ」

 

 

 伊達に付き合いが長いだけあって、木霊は碧の成長をしっかりと理解している。碧も木霊に理解されていると分かっているのだが、改めて言葉にされるとむず痒い感じがして、会話を打ち切って織斑姉妹の監視に集中したのだった。




話し相手には困らないからいいんですけどね……

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