暗部の一夏君   作:猫林13世

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恋愛を抜けば、一番一夏と親しいのは彼女でしょう


中国からの転校生

 記憶を取り戻す事無く四年が過ぎた。一夏は相変わらず昔の事を思い出す兆候すら無く更識の屋敷で生活していた。通学の際は車で送ってもらっていて、今年から運転手が碧に変わった。

 

「モンド・グロッソで優勝したからといって、私はあの二人みたいにIS関連に就職出来ないですからね」

 

「碧さんだって誘われてましたよね? 楯無さんも別に構わないって言ってくれてたのに」

 

「だって木霊が一夏さんが造ったISだとバレたら大変ですからね。一夏さんの自由が無くなりますし、篠ノ之束博士が姿を晦ました今、コアを造れると知られたら大変ですからね」

 

 

 一夏が言うように、千冬と千夏は日本政府が作ったIS関連の企業に就職し、次期代表を育成する為に日々働いている。言動などはそのままなのだが、それが良いと指導される側から企業に要望があった為に、二人はのびのびと指導しているらしいと、噂で碧も知っていた。

 

「一夏さんも、篠ノ之箒が転校してくれてホッとしてるんじゃないですか?」

 

「転校じゃなくて、重要人物保護プログラムで何処かに匿われてるらしいですけどね」

 

 

 篠ノ之束が姿を消したタイミングで、楯無が日本政府へと掛けあい、篠ノ之家全員に保護プログラムが適応される事になったのだ。転校の際、箒は一夏に別れを惜しんでもらいたいと思っていたのだが、一夏は箒に興味も向けずに更識の屋敷へと帰ろうとしたので、最後の最後まで箒は一夏に殴りかかろうとしていたのだった。もちろん更識の従者に捕まり、最後まで一夏と話す事は出来ずに何処かに転校していったのだった。

 

「虚さんも中学生になりましたし、そろそろISに興味を持ち始めるんじゃないかな」

 

「虚さんは選手よりも整備士になりたいって言ってるようですけどね。虚さんの専用機は一応考えてますけど、まだ早いですかね」

 

「何でも政府は、『IS学園』なる物を造るとか何とか……噂の範疇ですけどね」

 

「織斑姉妹も何時までも代表でいるわけではありませんからね。後任を育成したいんでしょう」

 

「私は今回で引退しましたからね」

 

 

 碧は第一回モンド・グロッソを無敗で――無傷で制覇し、その場で引退を発表した。自分は更識で働く為、これ以上世界大会などで注目されるのはマズイ、との理由だったが、実に今更な理由だと世間では言われている。

 もちろん碧が言った理由は引退する為のものとしては十分だが、本当の理由は一夏の護衛が出来なくなるのが嫌だったからなのだ。合宿所などに強制的に滞在させられ、一夏と会う機会が減る事を嫌っての引退発表なのだが、それを知っているのは更識の人間だけだった。

 

「IS学園が本当に出来るのなら、碧さんは教員として採用してもらえるんじゃないですかね」

 

「私が教師を? 一夏さんも冗談を言うんですね」

 

「強ち冗談では無いんですけどね」

 

「それだったら一夏さんだって……教師より生徒ですね、一夏さんは」

 

 

 既に世界で通用する整備の腕を持っている一夏だが、それはあくまでも非公開の事実。教師として、整備士としてIS学園で雇ってもらえるのではと考えた碧だったが、一夏はまだ未成年であり、学園が完成したとしてもまだ生徒の年齢だと気がついたので途中で言葉を変えたのだった。

 

「僕はIS学園には入れないと思いますけどね。おそらく……いや、確実に女子高ですし」

 

 

 ISを扱えるのは女子のみで、男子には反応しない。これがIS界の常識であり、その事が原因で女尊男卑の風潮に拍車が掛かっているのだ。

 

「一夏さんは使えないんですか?」

 

「? 何をですか」

 

「ISをですよ」

 

「僕は男ですからね。声は聞こえても反応はしてくれないと思いますよ」

 

『そんな事無いと思いますけどね。一夏さんになら、反応したいと思ってるISは沢山いると思いますよ。各言う私もその一台ですけどね』

 

「木霊は碧さんの専用機でしょ。浮気はダメだよ」

 

 

 学校に到着して、一夏は木霊にツッコミを入れて車から降りた。碧に手を振って学校に入っていく一夏の姿を見て、碧は一人車内で悶えていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒が転校したおかげで、一夏の周りには平穏な空気が流れていた。箒が原因で距離を取っていた友人も、転校を機に一夏の周りに戻ってきたのだ。

 

「そういえば織斑、今日転校生が来るんだってさ」

 

「転校? 学年が変わったばかりなのに?」

 

「篠ノ之だって学年が変わるギリギリに転校したんだ。おかしくは無いんじゃないか?」

 

「……そうだね」

 

 

 箒が転校した本当の理由を知っている一夏としては、友人のように今回の転校を受け入れる事が出来なかった。箒がいなくなったのは嬉しいけど、今回の転校生にはどのような事情があるのだろうかと考えてしまったのだ。

 

「席についてください。転校生を紹介しますよ」

 

 

 担任の教師が教室に入ってきたので、一夏の周りにいた友人たちも自分の席へと戻っていく。一夏も視線を教卓へと移して担任の言葉を待った。

 

「中国からやってきた凰鈴音さんです。みんな、仲良くしてあげて下さいね」

 

 

 担任教師から紹介されたのは、中国人の女子だった。少し背の低い、だけど明るい印象を持たせる笑顔で挨拶をした女子は、授業終了のチャイムと同時に周りに人だかりを作る人物だった。

 

「凰さんって何で日本に来たの?」

 

「親の仕事でね。日本で中華料理店を開いたのよ」

 

「そうなんだ。でもその割には日本語上手だね」

 

「ISに興味があってね。それで日本語は勉強してたのよ」

 

「そうなんだ。でも、ISで言ったら織斑も関係あるんじゃないか? モンド・グロッソで優勝した日本代表に関わりがあるんだしさ」

 

 

 その言葉に凰鈴音は一夏に興味を持ったのだった。




そういえば、鈴ってクラスメイトだったっけ?

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