暗部の一夏君   作:猫林13世

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致し方ないですね


賞品変更

 結果的に逃げ帰ってきた状態だが、オータムはとりあえず満足そうな顔をしていた。

 

「IS学園に忍び込んだみたいですね」

 

「SHか……お前の言った通り、あの織斑姉妹とお前の姉貴が絡めば隙が生まれたな」

 

「あの人たちは昔からそうですから。個々では隙なんて絶対に生まれませんが、三人そろえば必ず隙は生まれます。そこに一夏が絡めばその確率はさらに上がりますから」

 

「そっちはどうにか出来たんだが、やはり更識所属の実力者はヤベェな。このオレがすごすごと逃げるしかなかったぜ」

 

 

 織斑姉妹も束も、オータムと直に戦えば追い返すくらいは楽に出来るが、この三人はオータムと絡むことなく今回の一件を終えている。それでもオータムが一人も攫ってこれなかったのは、碧の力が大きいのだと、箒にも分かっていた。

 

「小鳥遊碧は織斑姉妹と並んで、無傷で世界最強の地位に上り詰めた人ですから。いくらオータムでも荷が勝ちすぎてたんでしょう」

 

「お前に慰められるのは癇に障るが、確かにアイツは戦って勝てる相手じゃねぇな」

 

「あらあら、オータムがそんな調子じゃ、次の作戦は厳しいかもしれないわね」

 

「スコール!」

 

 

 箒と話していた時にスコールがやって来たので、オータムは少し慌てた様子になった。普段は箒との会話を終えてから出てくるのに、今回は違った動きを見せたからだろう。

 

「こんどは私たち三人でIS学園に特攻を掛けることになるわ。もちろん、内側からレインに手伝ってもらう算段になっているから、くれぐれも余計な事はしないで頂戴ね」

 

 

 レイン・ミューゼルことダリル・ケイシーにどうやって連絡をつけたのか、オータムも箒も気になりはしたが、余計な事なので口にはしなかった。

 

「それにしてもオータム、貴女随分と派手に暴れたみたいね。お陰でレインの監視もきつくなったってクレームが入ってるわよ」

 

「はっ、そんなの知ったこっちゃねぇよ。そもそも、アイツがしっかりとデータを送ってこなかったから、オレが細部の調査をする羽目になったんだろうが」

 

 

 そのせいで余計疑われたと言わんばかりの剣幕に、スコールは両手を出してオータムを宥めた。

 

「はいはい、そのくらいで止めてちょうだい。私に言われてもどうしようもないんだから」

 

「だいたい何でSHが詳細なデータを知らねぇんだよ。お前だって通ってたんだろ?」

 

「私は、更識関係者に近づくことも、機密データがあるとされていた場所にも近づくことが出来なかったからな。近づこうものなら、すぐに織斑姉妹の鉄拳制裁が下されたからな」

 

「どんだけ信用ねぇんだよ、テメェは……」

 

 

 オータムの同情的なコメントに、箒は本気で嫌そうな顔を見せた。それくらい同情されるのが嫌なんだと、スコールは心の中で箒に対する新たな情報を書き加えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局文化祭は午前のみで優秀賞を決める事になり、結果は一年一組の圧勝だった。だが今回の事件を鑑み、賞品は一夏を一日自由にできる権利から、食堂のデザートのタダ券半年分に変更された。

 

「あーあ、せっかく更識君とあんなことやこんなことが出来ると思ったのに」

 

「まぁまぁ、キヨキヨ。いっちーも大変だったんだから仕方ないよ~。それに、デザートをタダで食べられるんだから、文句言わないの~」

 

「そうだけどさ。まぁ、更識君の容態を聞いた時はクラス全員が焦ったけど」

 

 

 説明はマドカが担当したのだが、監視として本音があまりにも駄目だったので、本音もクラスメイトを落ち着かせる側に変更されたのだった。

 

「それで本音、姉さまたちはちゃんと反省してるんですか?」

 

「とりあえず、逃げ出すような事は無さそうかな~。さすがにいっちーが襲われた事に対して、責任を感じてるんだと思うよ」

 

「兄さま、早く意識を取り戻してもらいたいです」

 

 

 マドカと本音はまだ、一夏が意識を取り戻したことを聞かされていない。だから未だに一夏が意識不明だと思い込んでいた。

 

「あっ、おね~ちゃんから電話だ。もしもし?」

 

 

 本音が何を聞かされているのか、マドカや他のクラスメイトも真剣な眼差しで本音から聞かされるのを待っていた。

 

「……うん、分かった。それじゃあ、後でそっちに行くね~」

 

「本音、虚さんはなんと?」

 

「いっちーが目を覚ましたって。記憶障害も無く、とりあえずは大丈夫だって」

 

 

 本音から告げられた一夏無事の情報は、クラスメイト全員を歓喜させるに十分な事だった。

 

「良かった……一夏さんに何かあったら、私……」

 

「カスミンはいっちーに推薦されたんだもんね。いっちーに何かあったら、政府の言いなりにならなきゃいけなかったのかな~?」

 

「それは無いでしょ。日本政府が要請したといっても、準備から何からしたのは更識企業で、それの総責任者が一夏君なんだから。一夏君に万が一があったとしても、その時は更識先輩が引き継ぐだけでしょ」

 

「シズシズは冷静だね~。そもそも、いっちーに何かあったら、私たちの専用機のメンテナンスが出来なくなっちゃうから、大変だったんだよ~?」

 

「束様でも、更識製のISを弄る事は出来ないと言っていましたし」

 

 

 弄れないことも無いのだが、下手に弄って変になるのを嫌っているのだが、マドカはその事は告げなかった。特に今は、織斑姉妹同様束も更識所属の面々に近づくのを避けたい時期なのだから、メンテナンスを頼まれても断るしかなかっただろう。

 とにかく一夏が無事だと分かった面々は、祝勝会として学食に乗り出し、さっそくデザートのタダ券を使ったのだった。




ただで納得する女子たち

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