暗部の一夏君   作:猫林13世

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織斑姉妹もこれで確信を持った


隙を生んだ原因

 寮長室に謹慎している織斑姉妹は、部屋の外に監視が付いている事に気付いていた。

 

「隠れてるつもりは無さそうだな」

 

「隠れる必要が無いんだろう。それくらい、わたしたちは信用されていないんだ」

 

 

 堂々と監視されていると言う事は、それだけ疑っていると言う事とイコールなのだ。これが侵入者とかの監視なら笊だと笑い飛ばせるが、自分たちが対象となるとその意味は変わってくる。

 

「監視されている事を自覚し、せいぜい反省しろと言う事か、小鳥遊……」

 

「仕方ないだろ。わたしたちが目を離した隙に一夏が襲われたんだから」

 

「だがあれは、束のやつが……いや、アイツも同罪か」

 

 

 確かに束からの連絡でオータムから目を離したのだが、責任が全て束にあるかと問われれば、そうとは言えないと自覚している。電話をしながら監視する事も十分出来たのだから、自分たちに落ち度があった事は認めなければないのだ。

 

「とにかく今は、大人しく反省してるべきだろう」

 

「外にいるのは、更識妹、布仏妹、そして四月一日か」

 

「マドカを監視につけなかったのも、身内の情に絆されて監視の目が緩むことを避けたのだろう。実に小鳥遊らしい考えだ」

 

 

 千冬と千夏に許されているのは、食事やトイレ、授業などと生活に必要な最低限と仕事の時だけで、それ以外の外出は今のところ禁止されている。これは更識からIS学園に厳重な抗議が来て、轡木が決定した学園からの通達。無視すればすなわち解雇される可能性があるのだ。さすがの織斑姉妹も、解雇されたら自分たちが生きていけない事を自覚しているので、大人しく謹慎しているのだった。

 

「抗議のスピードが早すぎる気もするが……」

 

「当主の娘が学園に在籍しているからだろ。それに一夏は、次期当主だと決まっているからな。すぐに抗議くらい出来るだろうさ」

 

「何時まで謹慎していればいいんだ、私たちは……」

 

 

 千冬の零した愚痴に、千夏は無言で首を左右に振った。そんなことは考えても分からないし、何時許されるかなんて、更識側の匙加減なのだから、考えるだけ無駄なのだ。

 

「一夏の容態くらいは知りたいがな」

 

「聞いたところで教えてくれるとは思えん。それくらい、私たちの信用は地に落ちたのだから」

 

「せめて無事かどうかくらいは知りたいものだ」

 

 

 そう愚痴を零したタイミングで、千冬の携帯に着信を告げるメロディーが流れた。表示された相手は、今回の一件の元凶の一人だった。

 

『もすもすひねも――』

 

「束! お前が監視衛星で見張ってるんじゃなかったのか!」

 

『ちーちゃんとなっちゃんが興奮してたせいで、束さんもモニターから目を逸らしちゃったんだよ。まさかその隙を突かれるとは思ってなかったんだよ~』

 

「待て、何でお前が監視モニターから目を逸らしたのがバレてるんだ?」

 

『……考えたくないけど、束さんの行動パターンを理解してる人間が亡国機業にいるんだと思うよ』

 

「お前の行動パターンなど、ある程度親しかったら理解出来るだろうが、お前が親しくしていたのは私たちと一夏と……」

 

『多分そう言う事だよ。ちーちゃんたちが興奮したら、すなわち束さんも興奮してるって知ってる三人以外の人物が亡国機業にいる。元亡国機業のまーちゃんを外したら、そんなの一人しかいない』

 

「つまり、そう言う事か……」

 

 

 サイレント・ゼフィルス強奪の際に目撃された少女の情報から、そうだろうとは思っていたが、これで千冬たちも確信した。

 

「あのバカ箒は亡国機業にいるのか」

 

『しかも、冷静にこっちの事を分析出来るだけの落ち着きを手に入れてるね』

 

「腐ってもお前の妹だからな。少し磨けば頭脳も光るものがあるのだろう」

 

 

 現在行方不明とされている束の妹、篠ノ之箒が今回の一件に絡んでいると三人は確信した。そして、自分たちが知っている箒よりも、大分冷静な分析が出来る事にも気づいたのだった。

 

「束、逃亡したヤツの追跡はどうなっている?」

 

『残念ながら振り切られてるね。これも箒ちゃんが助言したのかもね。束さんの行動パターンは、箒ちゃんには知り尽くされているから』

 

「ここ数年、まともに会っていなかったのに、何でバレてるんだ」

 

『ちーちゃんとなっちゃんだって、いっくんに行動パターンがバレてるのと一緒だよ。どれだけ否定しても、血のつながりはこういう時に役立つんだって』

 

 

 束の切り返しに、千冬も千夏も納得してしまった。自分たちもある程度なら一夏やマドカの行動パターンが理解出来るのと同じで、箒にもそれが可能だと言うだけの話だったのだ。

 

「まさかあの箒が束に一杯喰わせるとはな」

 

『束さんもびっくりしてるよ。まさかあの箒ちゃんにしてやられるなんて』

 

「最後のところで一夏誘拐は防いだが、今後バカ箒も敵として警戒しなければならないのか」

 

「戦力としてはどうか分からんが、アイツは我々の行動パターンをある程度理解してるからな。厄介になりそうだ」

 

『束さんの方でも、行動パターンを分析して、別のパターンを生み出せないか考えてみるから、二人は大人しく謹慎しててね』

 

 

 そう言い残して、束は電話を切ったのだった。

 

「箒が私たちの自由を奪ったのか……」

 

「見つけ次第血祭にあげてやりたいところだが、今はそれも出来ない状況だもんな……」

 

「とりあえず今は、一刻も早く信頼を取り戻さなければならないな」

 

「だが、どうやって」

 

 

 双子の妹の問いかけに、千冬は押し黙ってしまった。前に本音に言われたことがあるように、自分たちの信頼など、最初から底辺に等しいところまで落ちていたのだから……




知られてるというのは、こういう時に厄介になる

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