暗部の一夏君   作:猫林13世

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しっかりと反省するように


襲われた原因

 一夏が襲われたと聞いた織斑姉妹は、急いで保健室へ向かった。だがその途中に立ちはだかった人物がいた。

 

「そんなに急いで、何処へ行くんですかね、織斑さん」

 

「そこをどけ、小鳥遊! 私たちは一夏の様子を見に行くんだ」

 

「そうだ! わたしたちは一夏の姉として、襲われた一夏が心配なだけだ」

 

「では、何故巻紙礼子から目を逸らしたんですか? あの時間は貴女たちが監視を担当していると聞いていました。だから私は真耶の手伝いを引き受けたんです。噂では、篠ノ之束も監視を手伝ってくれていると聞いていましたが、何故一夏さんは襲われなければならなかったのでしょうか? 貴女たちの監視が完璧だったのなら、そんな事にはならなかったと思うのですが」

 

 

 もちろんオータムもバカではないので、見られていると分かっていて一夏を襲ったりはしない。例え見ている相手を特定出来なくても、見られているという事実は分かっているのだ。当然後をつけられると理解した上で一夏に近づいたりはしない。

 だがそれが出来たと言う事は、監視の目に緩みがあった事をオータムに気づかれ、隙を突かれた結果が一夏と刀奈の負傷に繋がっていると、碧は怒っているのだった。

 

「束のヤツから電話がきてな。私も千夏もヤツの対処に追われていたんだ」

 

「アイツが衛星で監視しているとばっかり思っていたから、つい五分ほどヤツから目を逸らしたのは事実だ。だがたった五分だぞ」

 

「その五分で、一夏さんと刀奈ちゃんは巻紙礼子――亡国機業の人間に襲われたんです。完全に貴女たち姉妹が監視を怠った所為で、二人の生徒が襲われ怪我をしたんです。当然貴女たちに責任を負ってもらいますので、当分は部屋で謹慎していてください」

 

「ま、待て! お前に処分を決定する権利は無いだろ!」

 

「えぇ、ありませんよ」

 

「だったら――」

 

「これは轡木理事長の決定です。今回の一件の処分は、一夏さんに一任されました。その一夏さんが意識を取り戻し、貴女たちへの処分が決まるまで、必要以外の外出は禁止です。食事とトイレ、授業以外の間は部屋から一歩も出ないように」

 

 

 強い口調で告げる碧に、千冬も千夏も抵抗出来なかった。彼女が言っている事は正しく、自分たちが「ちょっとだけなら」と油断した結果、一夏が襲われたのだ。責任転嫁しようにも、束も同罪だと言わんばかりの目に、二人はお得意の言い訳も出来なかったのだった。

 

「今から貴女たちが監視される側ですから、くれぐれも監視者に手は出さないように。一夏さんが意識を取り戻す前に、学園から去ってもらう事になりますからね」

 

「くっ……分かった、大人しくしてよう」

 

 

 ISを使ってもだが、生身でも碧はかなり強い。それこそ、織斑姉妹に匹敵すると言われるくらいに。千冬も千夏もその事を十分承知しているので、ここで逆らえば本当に学園から追い出されると言う事を理解していた。

 千冬と千夏を部屋に追い返した碧は、かなり疲れた様子で保健室へと足を運んだ。織斑姉妹に説教など、一夏を除けばこの世界で誰も出来ないと思っていたのだから、疲れても仕方ないだろう。

 

「お疲れさまです、碧さん」

 

「虚ちゃん……状況は?」

 

「変化なしです。一夏さんもお嬢様も気を失ったままです」

 

「そう……刀奈ちゃん、これが原因で引退とかしなければいいけど」

 

 

 いくら頭に血が上っていたとはいえ、ISを使う事を思いつかなかったのだ。そのショックは結構大きいものだろうと、簡単に推測出来る。

 

「大丈夫ですよ。お嬢様の夢は、簪お嬢様と一緒に世界大会で優勝する事なんですから。美紀さんと二人で代表になって、次の大会で一緒に喜ぶんだって、ずっと言っていましたから」

 

「そうなの……素敵な夢ね」

 

 

 簪、美紀、本音、マドカは織斑姉妹の監視に、虚は保健室の見張りと分かれているが、これは単純に力の差で決まったわけではない。二人がパニックを起こした時、一番冷静に対処出来るのが虚なのだ。

 

「ですから、お嬢様がこの程度でISを諦めるはずはありませんので、碧さんもご安心ください」

 

「そうよね。刀奈ちゃんはそこまで弱くないわよね」

 

 

 誰よりも刀奈を近くで見てきた虚がそういうんだからと、碧は無理矢理納得する事にしたのだった。

 

「ん……」

 

「気が付かれましたか、お嬢様」

 

「虚ちゃん? ……そう、私は負けたのね」

 

「何があったのですか?」

 

 

 思いのほか冷静だった刀奈の態度に戸惑いながらも、きわめて冷静に虚は刀奈に何があったのかを尋ねる。刀奈も答えを渋ることも無く、本人が分かる範囲で話し始めた。

 

「みつるぎの巻紙さん、彼女が一夏君を痛めつけていたの。だから私は頭に血が上って、生身で彼女に攻めかかって……彼女のISの罠にハマったの」

 

「罠?」

 

「蜘蛛の巣よ。暗くてよく見えなかったけど、あれは蜘蛛だったわ。っ! 一夏君は!? 一夏君は無事!?」

 

「お静かに。一夏さんなら、お嬢様の隣で寝ています」

 

 

 落ち着いた声で、刀奈の隣のベッドを指差す虚。刀奈は一夏の姿を見て安堵し、そして自分のふがいなさを恥始めた。

 

「世界最強なんて言われてるけど、大切な人一人も守れないのね……私ってホント駄目だなぁ……」

 

「お嬢様はダメではありませんよ、まだまだ成長出来るんですから、これからも頑張りましょう」

 

「でも、一夏君がこのままだったら? 目を覚ましても記憶が無くなってたら? そう思うと、やる気も起きてこないのよね……」

 

「お嬢様……」

 

 

 目の前で一夏を痛めつけられたのは、刀奈にとって大きなダメージとなっていたのだ。虚は刀奈の弱音に、どう反応すればいいのか悩んだ。

 

「っ……ここは、保健室か?」

 

「「「一夏さん(君)!」」」

 

 

 そのタイミングで、一夏が目を覚ましたのだった。




碧の本気が垣間見えたような……

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