暗部の一夏君   作:猫林13世

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国家代表VS企業代表


実力者同士の模擬戦

 刀奈対虚の試合は、一夏の目論見通り大盛り上がりの様相を見せている。片や現日本代表であり、片や世界を代表する更識企業の代表だ。知名度で言えば、この二人の上をいくのは織斑姉妹と碧くらいなものだろう。

 

「凄い熱気ですね。モニター越しでも伝わってきますよ」

 

「世間では絶対に見られない戦いだからな。刀奈さんはともかく、虚さんは中継されるような試合には参加しないから」

 

「おね~ちゃんはあくまでも企業代表だからね~。企業間でのパーツ紹介とかのお手伝いがメインだからね~」

 

 

 更識の企業代表が何をしているのかイマイチ理解していなかったラウラたちに、本音が説明をする。間延びしているのにイマイチ重要さが伝わったかは微妙だが、とりあえずどんな事をしているのかは伝わったようだった。

 

「更識製の専用機同士の戦いも、滅多に見られるものではないからな」

 

「訓練で見るくらいだもんね。外部の人は見れないよね」

 

 

 ラウラとシャルの感想に、静寐と香澄も同意した。それくらいレアな組み合わせであり、注目を集めるには十分な組み合わせでもあるのだ。

 

「そういえば、生徒会の出し物が一位を取った場合、手伝いに駆り出された私たちにもご褒美はあるのかしら?」

 

「知らん。なきゃなんか作るさ」

 

 

 一夏としては、お礼として何かお菓子くらいは作るつもりだったので、なきゃ無いで問題ないのだが、一夏が何かを作ると聞いて、生徒会所属ではない面々の目が輝きだした。

 

「お兄ちゃんの手作りがもらえるのか」

 

「そういえば、一夏って家事も万能だったんだよね」

 

「一夏君の手料理が食べられるなら、気持ちいつも以上に頑張らなきゃ」

 

「でも、もらったって知られたら大変そうだね……」

 

「まだ一位に選ばれるとも決まってないんだが……」

 

 

 一夏のツッコミは、四人にはあまり効果が無かった。

 

「でもさ、一夏君たちが出てるんだし、一位は決まりだと思うけどなー。更識所属の面々の試合は、それが例え模擬戦だったとしても注目されるんだから」

 

「エイミィ、君だって更識所属なんだが? しかもフランスの代表候補生なんだから、注目されるのは当然だと分かってるんだろうな?」

 

「あ、あはは……考えないようにしてたんだけど」

 

 

 自分も注目されていると、エイミィは知らなかったわけではない。緊張するので考えないようにしていたのだが、一夏にその事を指摘され気まずそうに笑ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 観客が盛り上がっている中、虚は刀奈の強さを改めて実感していた。

 

「(さすがはお嬢様。腐っても国家代表ですね)」

 

『感心してる場合ではないですよ。このままならジリ貧ですよ』

 

「(分かってますよ、丙。ですが、このまま終わるつもりはありません)」

 

 

 専用機の性能は、自分と刀奈の間に差は無い事を虚は知っている。それでも勝てないのは、単純に刀奈の方がIS操縦の腕が上だからだ。自分は国家代表ではなく企業代表。戦う事が主ではなく、新武装などを世界にアピールするための存在だと、虚は重々理解している。それでもなお、無様に負けることには抵抗があるのだ。

 

「(お嬢様とて、この熱気の中冷静を保てているとは思えませんし、多少の綻びは必ずあると思うのですが、伊達に世界を制していないですね。まったく隙が見当たりません)」

 

『向こうには蛟がついていますから、それで冷静を保っているのかもしれませんね』

 

「(一夏さんがそういう風に調整していますからね。お嬢様や本音は、すぐに興奮してしまいますから)」

 

 

 先ほどから攻撃を仕掛けては捌かれ、仕掛けられては捌きを繰り返している虚は、何とかして刀奈の隙を見出そうとしている。

 一方の刀奈も、自分が有利だと分かっていながら決めきれない事にやきもきしていた。それでも、攻めが強引にならない辺り成長しているのだろう。

 

「(ハンディが無い分有利だって事は分かってるんだけど、イマイチ攻めきれないわね)」

 

『虚だって負けたくないんだし、簡単に攻め切れる相手じゃないって分かってるでしょうが』

 

「(でもさぁ、こっちは世界最強の称号を手に入れたんだから、少しくらいは楽が出来るって思うじゃない? それがこんなに苦戦するなんて……やっぱり虚ちゃん相手は骨が折れるわ)」

 

『それぐらいじゃなければ刀奈が本気を出せないと、一夏さんも理解しての組み合わせなんですから、文句言わずに頑張ってください』

 

「(蛟、なんかお姉ちゃんみたいね)」

 

 

 専用機に諭されながら、刀奈はそんなことを考えていた。もちろん、相手の攻撃には細心の注意を払っているし、隙あらば自分からも攻撃を仕掛けている。そんな中で余計な事を考えていられるのは、刀奈が実力者だからなのだろう。

 

『あまり時間を掛けると、外部から見学に来ている人たちに手の内を晒すことになります。多少強引にでも決めに掛かるべきだと思いますよ』

 

「(でも、強引に攻めて倒せる相手じゃないのよね、虚ちゃんは……仕方ない、ちょっと賭けに出ますか)」

 

 

 そう心の中で決め、刀奈は虚目掛けて突進を仕掛ける。

 

「(特攻!? いえ、お嬢様がそのような考え無しに突っ込んでくるとは……)」

 

「はい、残念」

 

「なっ!?」

 

 

 刀奈の狙いは、虚が自分の行動に裏があるのではと疑わせること。それによって生まれた若干の隙を突いて、刀奈は虚のSEをゼロにしたのだった。

 

『試合終了。勝者・更識刀奈』

 

 

 真耶のアナウンスが流れ、第一試合は終了となったのだった。観客からは万雷の拍手が送られるが、負けた虚はその拍手に応えるだけの気力が残っていなかった。




IS無しなら虚の圧勝ですけどね……刀奈は虚に逆らえない

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