暗部の一夏君   作:猫林13世

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豪華なメンバーだ……


模擬戦直前の更衣室

 話し合いの結果、マドカとラウラペア対本音と香澄ペアの試合と、一夏とエイミィペア対静寐とシャルペアの試合が組まれることになった。

 

「最初は、私と虚ちゃんの試合なのね?」

 

「碧さん対簪・美紀ペアでも盛り上がると思いますが、目玉になるでしょうし最後で。同じく目玉になる刀奈さん対虚さんを最初に持って来れば、観客の心も掴めるでしょうし」

 

 

 ただの模擬戦ではなく、文化祭の出し物なのだから、観客の心を掴んでなんぼだと、一夏は計算してこの試合を組んだのだ。

 

「盛り上がれば優勝間違いなしだろうし、一夏君の休日を私たちが守ってあげられるもんね」

 

「そもそも、お嬢様が賞品を一夏さんにしなければ、守る必要も無かったのですが」

 

「こ、細かい事は良いじゃないの。それじゃあ、私は向こうのピットだから、またね!」

 

 

 逃げるように更衣室から移動する刀奈を、全員が生暖かい目で見送った。

 

「では私も、準備がありますので」

 

「おね~ちゃん、頑張ってね~」

 

 

 本音の気の抜ける応援に応え、虚もピットへと向かった。残ったメンバーはモニターでアリーナの様子を眺めていた。

 

「凄いな……モンド・グロッソ並みの熱気を感じる。やはり更識所属のメンバーの試合が見れるとあって、皆興奮しているのですね。さすがはお兄ちゃん」

 

「お兄ちゃんって言うな! でも、兄さんの目論見通りではありますね」

 

 

 ラウラとマドカが一夏を褒めると、一夏は微笑んでモニターに視線を戻した。

 

「これだけ多いと、緊張するかもな」

 

「それは私たちも一緒よ。候補生の皆は見られるのに慣れてるでしょうけど、私と香澄は候補生でもなければ、企業代表でも、ましてや国家代表でもないもの」

 

「私もどれも当てはまりませんが」

 

「マドカはほら、注目されるのには慣れてるんじゃない? 織斑姉妹の妹としてや、篠ノ之博士が選んだテストパイロットとして。そして、一夏君の妹として、今も注目されてるでしょ?」

 

「それだったら、静寐や香澄だって、更識縁者でもないのに更識の専用機を貰ったって注目されてるじゃん」

 

 

 簪の指摘に、静寐と香澄が居心地が悪そうに視線を逸らした。ここにいるメンバーはそうでもないのだが、心無い生徒は何処にでも存在して、陰で「一夏を籠絡したのではないか」と噂が立っているのだ。

 もちろんそのような事実は無く、むしろ政府から戦力アップをせっつかれた一夏が、手近にいた二人に目を付けて専用機を与えたのだ。

 

「ねぇねぇいっちー」

 

「何だ?」

 

「刀奈様とおね~ちゃん、どっちが勝つと思う~? 私は刀奈様が勝つと思うな~」

 

「ハンディが無いからな。虚さんも十分実力者だが、刀奈さんと比べると一枚落ちるから、その予想も仕方ないだろうさ」

 

「じゃあ、いっちーも刀奈様が勝つと思うの?」

 

 

 何だかつまらなそうな本音を見て、一夏はあることに思い至った。そしてそれは、暇つぶしにしても生徒会役員が率先してする事ではないように思えたのだった。

 

「本音、賭け事とは感心しないな」

 

「ほえっ!? 何で分かったのいっちー?」

 

「退屈だと思うのはまぁ、百歩譲っても、真剣勝負を賭け事に使うのは認められない。何で分かったのかは、お前の顔を見れば分かる。本音は顔に出やすい時が多いからな」

 

 

 本当にたまになのだが、本音が何を考えているのか読めない時が、一夏にもある。天然故に、本音はそれを常に使う事が出来ないのだが、碧でも心を読めない時が、本音には存在するのだ。ただし、本当にどうでもいい時にそれが発動する事が多いので、一夏も虚も、その事を嘆くのだが。

 

「じゃあ純粋に予想だけで。かんちゃんはどっちが勝つと思う?」

 

「お姉ちゃんが有利なんだろうけど、一夏がさっき虚さんに言ってたから、それにもよるんじゃない?」

 

「俺は何もアドバイスしてないぞ。公の場で刀奈さんを叱らないようにと忠告しただけで」

 

 

 仮にも日本代表である刀奈を、学園内とはいえ他所からも人が来ている前で説教するのは、刀奈的にも更識的にも具合が悪いので、多少羽目を外した程度ならば、口頭ではなく攻撃で諫めるようにと助言したのだった。

 

「刀奈お姉ちゃんならありえそうだから怖いですよね」

 

「まぁ、刀奈ちゃんも自分の立場を弁えてるだろうし、さすがに無いでしょうけどね」

 

 

 碧の言葉は、若干希望的観測に聞こえたのは、恐らく一夏だけではなかっただろう。彼と同じような表情を簪もしているのを見れば、それは明らかだった。

 

「ところで、僕は小鳥遊先生じゃなくってナターシャさんが参加するって聞いてたけど」

 

「ああ、それは山田先生の要請で代わってもらったんだ。碧さん、機械の操作得意じゃないし」

 

「そこまでじゃないんだけどな……まぁ、真耶と比べればね」

 

 

 そこで織斑姉妹に頼まない辺り、真耶がいかに楽をしたいかが窺えるのだが、教師をそんな目で見るのは一夏くらいなものだった。一夏以外の生徒は、碧のコメントで納得したようでそれ以上追及してくることは無かった。

 

「さて、そろそろ出てくるかな」

 

「……出てきただけで凄い歓声だね。やっぱり国家代表対企業代表の戦いは盛り上がるね」

 

「我々もこれくらい盛り上がってもらえる試合をしなければ」

 

 

 ラウラが零した、ちょっとズレた感想に、一夏と簪、美紀以外のメンバーは頷いて同意したのだった。

 

「一夏さん、ボーデヴィッヒさんは大丈夫なの?」

 

「まぁ、事情がありますからね……」

 

 

 碧は真剣にラウラの感性を心配しているようで、その事に一夏は苦笑いを浮かべて答えるしか出来なかったのだった。




ちょっとした賭け事なら、許容範囲だとは思いますけどね……金品じゃなければ、ですが

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