暗部の一夏君   作:猫林13世

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昨日は本当に申し訳ございませんでした


学園祭の裏で

 ダリルに招待券を用意させ、オータムは巻紙礼子としてIS学園に潜入していた。

 

「それにしても、餓鬼共が多いな。蹴散らしたくなるぜ」

 

「その恰好でその口調は、スコールに怒られますよ」

 

「お前が告げ口しなければバレないだろ。それじゃあ、私は更識一夏に接触出来ないか試みるから、お前は監視してるヤツをどうにかするんだな」

 

 

 ダリルを監視している碧には、声までは聞こえない。なのでオータムは表情は柔らかくして、口元は隠してダリルに話しかけているのだ。

 

「どうにも疑われているんですよね……あくまでも、私は更識一夏に興味を持っているお姉さんを演じているんですが」

 

「お前、レズだろ? そんなんじゃだませないっての」

 

「貴女に言われたくはないですよ。私はたまたまお付き合いしてるのが女子ってだけです」

 

「オレだってそうだっての!」

 

 

 ついつい口調が崩れ、普段の一人称が出てしまったオータムだが、それでも表情は渉外担当としての潜入の賜物で笑顔だった。

 

「お前と話してるとオレまで疑われそうだから、とりあえず行くぜ」

 

「お気をつけて。ちなみに、一年一組に潜入するのは無理ですよ。待ち時間が一時間を超えてるらしいですから」

 

「けっ、あんな男に群がる女の気持ちが分からないぜ」

 

 

 唾でも吐きそうな勢いで毒を吐いて、オータムは校舎内へと入っていった。そのオータムを見送ったダリルは、監視している碧に気づいていないフリをして、持ち場へと戻っていったのだった。

 

「やれやれ、気づかれる程度に監視しろだなんて、一夏さんも面倒な事をやらせますよ……」

 

「碧さんはダリル先輩を疑っていると知られてますからね。そのせいで私が駆り出されたんですから、文句言わずに監視してください」

 

「でもさぁ、美紀ちゃん。貴女だってあんなヒラヒラなスカートを穿いて接客したくなかったでしょ? だったらこっちのお仕事を手伝ってくれたっていいじゃない」

 

「私は午後から生徒会の出し物で模擬戦があるんですよ。だからあまり付き合っていられる時間は無いんです」

 

「午後はナターシャさんがお手伝いしてくれるらしいし、その点は抜かりないみたいよ」

 

「さて、それじゃあ私はダリル先輩を、碧さんはあの女性を追ってください」

 

「あっちは簪ちゃんが追ってるわ。そのうち刀奈ちゃんか虚さんが合流するでしょうし、ダリルさんの方は泳がせても問題なさそうよ。何かあれば、織斑姉妹が成敗するでしょうし」

 

 

 来客ではなく生徒ならば、織斑姉妹の指導の対象になるのだ。その事を鑑みて、一夏は今回ダリルの監視は片手間で構わないという指示も出しているのだった。

 

「一夏さんの護衛は本音に任せてきましたが、不安しかないんですけど……」

 

「まぁ、一夏さんの側には他の女の子もいるでしょうし、迂闊に手を出せば袋叩きにあう未来しか見えないんじゃない? 静寐ちゃんや香澄ちゃんもだけど、シャルロットちゃんやセシリアちゃん、ラウラちゃんにマドカちゃんだって専用機持ちなんだし」

 

 

 改めて言われると、一夏の周りには専用機持ちが多いのだと、美紀は今更ながらに実感したのだった。それでもなお、本音が護衛役だと不安が付き纏ってしまうのは、それだけ彼女がだらけているからなのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休憩時間に、本音とシャルを伴って学園内を散策していた一夏に、声を掛けてきた女性がいた。

 

「失礼ですが、更識一夏さんですね」

 

「そうですが、貴女は?」

 

「あっ、貴女はみつるぎの……」

 

「これはこれは、デュノア社長ではありませんか。ご無沙汰しております」

 

「あぁ、この人がこの間アポなしで訪ねてきたって人か」

 

 

 シャルにそう尋ねると、彼女は頷いて一夏の問いかけに肯定した。

 

「業務提携をお考えのそうですが、提携を結ぶ事でわが社にどのような利益が……?」

 

「いっちー、どうかしたの?」

 

 

 言葉の途中で首を傾げた一夏に、本音が首を傾げながら問いかける。

 

「いや、妙な寒気がしたから……失礼ですが、どこかでお会いしたことが?」

 

「いえ、貴方様とは初対面のはずです」

 

「ですよね……」

 

 

 しきりに首を傾げながらも、一夏は礼子から差し出された名刺を眺める。

 

「それで、巻紙さん。大変申し訳ないのですが、貴女方を調べさせていただいたのですが、みつるぎとはどのような会社なのでしょうか? 装備開発という名目で設立されたようですが、御社のお名前はお聞きしませんので」

 

「えぇ……弊社としましても、努力はしているのですが、やはり更識ブランドに太刀打ち出来るようなものを作ることは出来ませんでした。ですので、提携という名の吸収合併をお願いできないかと考えております」

 

「我々更識は、ついこの間フランスのデュノア社を吸収したばかりです。そのタイミングで今度は国内の企業となれば、各国のIS産業に携わる企業に、不必要な不信感を与えかねませんが」

 

「天下の更識企業が、今更一つや二つ疎まれたからといって、何か問題があるのでしょうか?」

 

「我々は世界各国に顧客を抱えておりますので、些細な事であれ、不信感を抱かせるような真似は避けたいと考えているのです。そして、みつるぎという企業を調べた結果、ペーパーカンパニーの疑いが高いという報告も受けております。そのような企業を吸収して、いらぬ誤解を植え付けたくないのです」

 

「そうですか……では、次回は弊社社長を同行させ、交渉の場を設けたいと思いますので、ご都合がよろしい日をお教え願えませんでしょうか?」

 

「私ではなく、本社代表である楯無にご連絡ください。本社へ連絡すれば通じるよう、こちらで手配しておきますので」

 

 

 それだけ言って、一夏は逃げるように礼子の前から姿を消した。そんな一夏を見て首を傾げながらも、本音とシャルも一礼して、礼子の前から移動したのだった。




サブタイ打っちゃうと、そのタイトルで確定されちゃうからな……何話も先までやってると分からなくなるんだなぁ……

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