暗部の一夏君   作:猫林13世

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産業スパイは最低だ……


スパイの影

 順当に勝ち進む日本代表を見て、更識家では刀奈たちが大袈裟にはしゃいでいた。

 

「やっぱり篠ノ之博士が造ったISと、一夏君が造ったISは他の国のISよりも強いわね」

 

「操縦者の実力もだけど、ISの性能が格段に違うからね」

 

「個人戦の碧さんもですけど、ペアの織斑姉妹は二枚も三枚も上手ですからね。これは他の国の代表が可哀想に思えるくらいですね」

 

「思うだけで同情はしないんでしょ~? お姉ちゃんだって日本が勝てばうれしいんだしさ~」

 

「一夏さん? 何か気になる事でもあるんですか?」

 

 

 はしゃいでいる更識・布仏姉妹の横で難しい顔をしている一夏に気づいて美紀が話しかける。すると途端に明るい顔を見せて一夏は首を振った。

 

「別に大した事じゃないんだけど……この織斑姉妹って僕のお姉さんなんだなって思ってさ。全然覚えてないし、懐かしいとも思わないんだけど、何でか戦い方が雑なような気がするんだよね……この二人の本気なんて見た事ないのに」

 

 

 しきりに首を傾げながらも、織斑姉妹の戦い方に違和感を覚えたという一夏。確かに千冬と千夏が本気を出せばたとえISを纏っているとは言っても無傷では済まない可能性が大いにある。手を抜いているわけではないが、本気は出していないのだから、一夏が疑問を抱いても仕方は無いのだ。

 

「でもさっきからこの二人も無傷だよ~? 雑な戦い方をしてたら、さすがにダメージを負うよね~?」

 

「うん……だから不思議なんだよ。本気じゃなさそうなのに、それでも相手を寄せ付けない強さがある……そんな感じがしてならないんだ」

 

「でも、一夏のお姉さんなんだし、それくらい出来てもよさそうだけどね。一夏は頭脳戦で、お姉さんたちは肉弾戦担当、みたいな感じで」

 

「僕だって肉弾戦は出来るよ。でも、頭脳戦の方が良いけどね」

 

「一夏君ってまだ篠ノ之箒ちゃんに追いかけ回されてるんでしょ? 一発叩けば大人しくなるんじゃないかしら」

 

「お嬢様。いくら一夏さんに付きまとってる鬱陶しい相手でも、一夏さんは暴力に訴え出る人じゃないですよ」

 

「虚さんもなかなか毒が強いですよね」

 

 

 全員が見た事もあった事も無い箒を敵だと認識してはいるのだが、虚のようにハッキリと鬱陶しいとは口にはしなかった。だから美紀が驚いたような表情を見せたのだ。

 

「そういえばおりむ~、暫く研究所に篭ってたけど、何をしてたの? もう碧さんの専用機は完成してるんだし、おりむ~がISの研究を続ける必要は無かったんじゃないの?」

 

「本音……貴女ほんとに何も聞いて無かったのね。一夏さんは更識で使うISを造ろうとしていたんですよ。それも日本政府が計画している第一世代型ISではなく、第二世代型でね」

 

「ほぇ~さすがおりむ~だね」

 

 

 姉に説明され、改めて関心を示す本音を見て、虚を除く四人は微笑ましげな表情で本音を見つめる。

 

「ほえ? みんなどうしたの?」

 

「ううん、何でも無いよ」

 

「それよりも、いよいよ予選最後の試合だね。このままいけば、碧さんは予選を無傷で突破出来る」

 

「無傷でって、負けなしじゃなくって、本当にノーダメージなんだもんね」

 

「碧さんだけ第二世代型ですからね。ISの性能でも勝り、操縦技術でも勝ってますから、負ける要素が見当たらないですからね」

 

「過信や慢心してるわけじゃないだろうけど、碧さんもそう思ってるだろうね」

 

 

 無邪気に盛り上がる五人の隣で、やはり一夏は難しい顔をしていた。だがそれは碧の戦い方ではなく、先ほどからチラチラと背後に映っている外国人を見てその表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最終戦を前に、碧は控室で精神を統一していた。一夏が造ってくれた木霊のおかげで、碧は順当に勝ち進んで既に決勝ラウンド進出は決めている。残るは無敗で――ノーダメージで予選突破出来るかどうかが注目されているポイントだった。

 

『碧、一応忠告しておきますが、貴女の動きを盗撮している人間がいます』

 

「(知ってるわよ。開催前に貴女を狙った人と同じかしら?)」

 

『はっきりと断言は出来ませんが、おそらくは同じ国の人間だと思われます』

 

「(もう一度触られれば分かるかしら……でも、また電撃を喰らわされるのは遠慮したいわね)」

 

『今度は加減しますから』

 

 

 木霊を狙った窃盗行為は、木霊の自己防衛装置から発せられる電撃のおかげで未遂で済んだのだが、碧はその際に木霊から発せられた電撃で軽度の火傷を負っているのだ。

 

「(それにしても、どうして篠ノ之束が造った専用機じゃなく、更識で造ったとされている貴女を狙うのかしら)」

 

『単純に、貴女の方が織斑千冬・千夏姉妹より簡単そうだったからでは?』

 

「(あの二人と比べられたら、誰だって簡単だと思うけどね……それでも、生みの親である篠ノ之束が開発したISの方が、盗むのに適してると思うけど……盗むのに、適してるか否かなんて関係ないだろうけども)」

 

『もしかしたら、私が更識ではなく一夏さん個人によって造られたのだと知っているのではないでしょうか。もちろん、そんな可能性は万が一にも無いでしょうけども』

 

「(どうかしらね……篠ノ之束は知っていたようだし、何処かから情報が漏れている可能性も否定は出来ないと思うけどね。もちろん、更識の人間が意図的に情報を漏らしているなんて思いたくないけど)」

 

 

 そう結論付けたタイミングで、アナウンスが流れる。これから最終戦という事で、碧は余計な考えを頭からおいやって控室から移動する事にした。普通に戦えば負けるはずもないので、その点では気負ってはいなかったが、折角ならノーダメージで予選を全て終わらせたいという考えは、碧の中にもあったのだった。




盗もうにも、一夏の技術力は盗めないだろうな……

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