生徒会の出し物の案を職員室に持っていくと、二つ返事でOKが出てしまった。
「そんなに簡単に決めて良い事なんですか?」
「更識君や更識さんがいますし、布仏さん――お姉さんの方もしっかりしてますからね。何か起こる前にちゃんと対策してくれるでしょうしね」
「小鳥遊先生も付き添うのでしょうし、学園側としても、新入生獲得に大いに役に立つと判断できますので」
責任者不在ではあったが、真耶と紫陽花が代理で判断し、責任者がいても同じことを言うであろう事を言ってきたのだった。
「それに、更識所属の面々の実力は、滅多に見られないですし、来賓だけでなく生徒や教師たちも喜ぶ出し物だと思いますよ」
「一年四組の説明を受けてから見学すれば、より楽しめそうですしね」
「自分が担当しているクラスの出し物と抱き合わせにしないでくださいよ」
とりあえず許可が下りてしまったので、一夏はこの案を生徒会に持ち帰ることになってしまった。本人は高みの見物を決め込もうと思っていたのだが、刀奈に逃げ道を塞がれ、マドカからは戦うのが楽しみだと言われてしまったので、さすがの一夏も逃げることが出来なくなってしまったのだ。
「本音の一言じゃないが、俺ってマドカに甘すぎないか?」
職員室から生徒会室へと戻る道中、一夏はそのような事を考えていた。だからではないが、背後から近づいてくる気配に気づけなかった。
「何してるの?」
「っ!? ……何だ、簪か」
「珍しいね。一夏が気配に気づかないなんて」
「ちょっと考え事をな……ところで、何か用か?」
簪が声を掛けてきたのだから、何かあったのだろうと考えた一夏だったが、簪は笑顔で首を左右に振った。
「今のところは用事は無いよ。ただ単純に一夏を見つけたから声を掛けただけ」
「そうか。さっき職員室に行って来て、生徒会の出し物の案を言って許可を貰って来たんだが、簪も手伝ってくれるか?」
「何をするの?」
マドカやエイミィ、静寐に香澄には事前に電話で話をつけたのだが、簪は作業中だと言う事で電話がつながらなかったのだ。
「学園に在籍している更識所属の面々で模擬戦を見せることになった。何故か分からんが、俺も参加する事になっている」
「当然だよ。一夏だって専用機持ちで、更識所属なんだから」
「俺が戦ってるのを見たって面白くないだろ」
「面白い、面白くないは兎も角として、客数は見込めるだろうね。何せ世界で唯一ISを動かせる男子なんだからさ」
簪の言葉に、一夏はガックリと肩を落としたのだった。客寄せパンダなのは、クラスの出し物だけで十分だったのに、生徒会の方でもやらなければならなくなってしまったからだ。
「そう言う事なら分かった。私も当日はすることないし、生徒会の出し物に協力するよ」
「する事が無い? 説明は誰がするんだ?」
「資料と原稿は私が作るけど、私は人前で何かを発表するのが苦手だから」
「そんなことで国家代表に選ばれるのか?」
「ISを纏ってれば問題ないよ」
とりあえず簪の協力も得られることになったので、一夏は本格的に自分も参加する覚悟を決めたのだった。
各クラス、団体の出し物が決まっていく中、職員室ではその出し物のリストを見て不気味にほほ笑む姉妹がいた。
「一夏が執事姿か……」
「これは是非ビデオカメラに収めなければ……」
「千冬さん、千夏さん……さっきから何笑ってるんですか?」
「「真耶には関係のない事だ」」
「は、はひっ!!」
一瞬で表情を引き締め、低い声で同時に言われては真耶のような反応を示すのが普通だろう。ましてやそれが憧れの先輩だったのなら尚更だ。
「言っておきますが、織斑先生たちは当日見回りではなく入口での監視ですからね」
「何っ!? それは真耶や紫陽花がすればいいだろうが!」
「わたしたちでなくても出来るのだから、わたしたちがする必要は無いだろ!」
「これは一夏さんの決定です。貴女たちは暴走すると面倒だからと言っていましたが」
「「何故だ、一夏……」」
絶望に沈む織斑姉妹を、真耶は複雑な思いで眺めていた。
「さすがにずっと監視というわけではないと思いますよ?」
「そうですね。一夏さんの休憩時間に合わせて、織斑先生たちも休憩して良いそうです」
「つまり、一夏の執事服姿は見られないということか……」
「よし、ちょっと世界を滅ぼしてこよう」
「一夏さんの執事服姿が見れないだけで大げさでしょうが! 世界を滅ぼすって、貴女たちが言うと冗談に聞こえないからやめてください!」
織斑姉妹が本気で世界を滅ぼしに出かけようとしたタイミングで、千冬の携帯に着信を告げるメロディが流れる。
「誰だ?」
『もすもすひねも――』
「間違え電話か」
『ちょっとちーちゃん!? せっかく束さんが良いアイデアを教えてあげようと思ったのに~』
「貴様の良いアイデアはろくなものじゃないだろ!」
『そんなこと言って良いのかな~? いっくんの執事服姿の写真を提供出来るんだけど~』
「さすが束だ。私たちの親友なだけはあるな!」
「凄い変わり身……」
束の声は聞こえないが、碧もそれなりに付き合いが長いので、何を言っているかは想像がついている。そんなやり取りを聞いて呆れた碧の隣では、真耶が訳が分からず首を傾げていたのだった。
また、宇宙規模でストーカー……