賞品を一夏にするということだけは決まっているが、生徒会の出し物を何にするかはまだ決まっていない。そもそも一夏の承諾も取っていないので、賞品として成立するかも定かではないのだ。
「虚ちゃん、何か案ない?」
「文化祭の間にお嬢様がどれだけ仕事を片付けられるかを実況するというのはどうでしょう? 普段一夏さんや私に仕事を押し付けてばかりなのですから、たまにはいいんじゃないですか?」
「私は見世物になるつもりなんてないわよ! ただでさえ国家代表って事で注目されてるのに、晒し者みたいな扱いで注目されるのは勘弁してほしいわ」
「では一夏さんに監督してもらえば如何でしょう? サボったら一夏さんに活を入れてもらえますし四六時中一夏さんと一緒にいられますよ?」
一夏と一緒、ということに惹かれた刀奈だったが、結局は生徒会の仕事をやっているところを見られるだけだということに気が付き、首を横に振った。
「もっと盛り上がる事をしたいのよね~……演劇でもしようかしら」
「演劇、ですか? お嬢様が主演するのですか?」
「ううん、一夏君にお願いして、アクションでもやってもらおうかしら。出演は一年一組の候補生たちにお願いして、一夏君に勝てたら一日一夏君とデート出来るとか言いくるめれば……」
「もしもし、一夏さんですか?」
「ちょっ!? 冗談! 冗談だから!」
「こちらも冗談です。ですが、お嬢様が本気だった場合は、こちらも本当に一夏さんに連絡するつもりですので」
慌てる刀奈に対し、涼しい表情で言ってのける虚。主とメイドの関係だが、刀奈の扱いは虚にとってお手の物なのだ。屋敷内ならともかく、学園では姉と妹の関係、もしくは先輩後輩の関係なのだ。屋敷内でもあまり主従っぽくは無いが……
「とにかく、これ以上お嬢様と二人で考えてもらちが明かないので、一夏さんを招集したいと思うのですが、異論はありませんよね?」
「そうね……一夏君なら何かいい案を出してくれるかもしれないものね」
結局は一夏任せになるのだが、途中まで考えた事は評価できると虚は考えていた。その考えがろくでもない事には、あえて目を瞑る事にしたのだった。
放課後の自主訓練の指導をしていた一夏は、虚からの電話を受けて生徒会室へ向かっていた。もちろん、護衛の美紀と、一応生徒会役員の本音も一緒だ。
「やっぱり久延毘古や鶺鴒は強いですね。回数を重ねるごとに慣れはしてきましたけど、まだちょっとやりにくいです」
「私も使ってみたいな~。いっちー、VTSにインストールして使えないの?」
「お前は人の専用機で遊び過ぎだ。土竜がもう一度拗ねたらどうするつもりなんだ?」
「その時は、いっちーに説得してもらうから大丈夫~」
何が大丈夫なのかがイマイチ分からないコメントだったので、一夏と美紀はそろってため息を吐いたのだった。そのタイミングで、背後から声を掛けられた。
「あれ? 一夏君たち、どこにいくの? 今日は自主練の日じゃなかったっけ?」
「エイミィ、遅刻だぞ」
「いやー、国語の小テストで赤点取っちゃって……さっきまで追試を受けてました」
「カルカルにとって、日本語は国語じゃないもんね~」
「まぁね。それで、今日はもう終わりなの?」
「いや、三人はまだやってるが、俺たちは生徒会の仕事が入ったために早抜けだ」
「じゃあ私はアリーナに行こうっと。三人って、簪と静寐と香澄?」
「いや、簪じゃなくってマドカだ」
簪は現在、クラスの出し物で使う説明用の映像を撮っている。そのために今日の訓練の参加者は普段より少なめだったのだ。
「マドカには兎も角、静寐と香澄には負けないようにしないとね」
「何故マドカには勝とうと思わないんだ?」
「だって、遺伝子レベルで次元が違うでしょ?」
「そんなこと――」
無いだろ、と続けたかった一夏だったが、その隣で美紀と本音が頷いているのが視界に入り、言葉を途中で切った。
「とにかく、マドカにも勝とうという意思は持った方が良いぞ。マドカのライバルとなる人が出来れば、アイツもまだまだ成長するだろうしな」
「いっちー、お兄ちゃんというよりお父さんみたいな感じだね~」
「……とにかく、訓練頑張れよ」
本音の言葉が地味に一夏にダメージを与える。本音としては他意は無く率直に言っただけなのだが、一夏にはかなりのダメージを与える言葉だったらしい。
その後生徒会室までの道のりで、一夏が本音と目を合わせることも、何か言葉を発することも無かった。
「遅いよ一夏く――何かあったの?」
生徒会室に着くなり、刀奈が心配するほど、今の一夏からは覇気が感じられない。さすがの本音も、自分が原因だということを理解しているのか、傷口を広げないように黙っていた。
「何でもありません。ところで、生徒会の出し物ってまだ決まってなかったんですね」
「お嬢様がろくでもない案しか出さないので」
「私だってちゃんと考えたもん!」
「文化祭当日は、未来の後輩たちも大勢来るでしょうし、生徒会の面々で模擬戦をするのはどうでしょう? 声を掛ければマドカやエイミィたちも手伝ってくれるでしょうし、現役の国家代表や代表候補生の模擬戦を生で見れれば、観客も喜ぶと思いますよ」
「当然、一夏君も参加するのよ?」
「……許可が出たら考えます」
一夏としては、自分は高みの見物を決め込むつもりだったのだが、先に逃げ道を塞がれてしまったので、そう答えるしかなかったのだった。
下手な出し物より見ごたえがありそうだ……