暗部の一夏君   作:猫林13世

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文化祭ってあまりいい思い出が無いな……


疑う碧

 文化祭の準備も大事だが、IS学園でも当然授業がある為、そればかりにかまけている暇はない。今日も今日とて座学と実技の授業が粛々と繰り広げられている。

 

「さて、このクラスには専用機持ちが多い。他の生徒の手本となるように、今から専用機持ち同士でペアを組み二対二の模擬戦を行ってもらいたい」

 

「そこでだ、諸君は誰の試合を見学したい」

 

 

 実技の授業中に、織斑姉妹がそんなことを言い出した。ストッパーである碧は、本日更識の任務で不在、真耶は日本政府からの抗議の対応に追われているために、本日の授業は全て織斑姉妹の自由なのだ。

 

「やっぱり更識君の試合は見たいよね」

 

「でも、この前見た日下部さんの専用機も強そうだったし」

 

「鷹月さんも強いよね」

 

「でもでも、やっぱり四月一日さんじゃない? 代表候補生なんだし」

 

「織斑さんも捨てがたいわよね。何せあの篠ノ之博士が選んだテストパイロットなんだし」

 

「なんだかんだ言っても、本音も結構強いのよね」

 

 

 どこまで行っても更識関係者しか名前が上がらないが、他の専用機持ちである、セシリア、ラウラ、シャルロットは最初から更識関係者と戦いたくないと考えているのか、影を潜めている。

 

「さっさと決めないか、馬鹿者共が!」

 

「面倒だから、候補生三人と、元候補生のシャルの計四人で良いんじゃないですか?」

 

「一夏さんっ!? そんな決め方はどうなのでしょう……」

 

「では、オルコット、ボーデヴィッヒ、四月一日、デュノアの四人で話し合いペアを決めろ」

 

 

 一夏の意見を受け、千夏が四人にそう告げた。彼女の中で、一夏の意見は絶対であり、いくら選出された四人が不満でもその決定は覆らない。それが分かっている美紀は、早々に諦め話し合いをすることにした。

 

「私は誰でも良いですが、三人は希望とかありますか?」

 

「私はお兄ちゃんから信頼されている貴女と戦ってみたい。だからセシリアかシャルロットのどちらかが彼女と組んでくれ」

 

「じゃあ僕がラウラとペアになるよ。セシリアとじゃ遠距離同士でやりにくいだろうしね」

 

「じゃあ私と四月一日さんペア対ラウラさんシャルロットさんペアですわね」

 

「決まったのならさっさとピットに行って準備しろ! 時間は有限だぞ」

 

 

 偉そうにそう告げる千冬に、一夏が呆れた視線を向ける。その場の思い付きで模擬戦を提案し、自分たちでは何も決めずに偉そうに振る舞う態度に、一夏はせっかく抱いていた感謝の念を放棄したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 更識の任務で日本政府の人間が勝手に連れてきていた技術者の事を調べていた碧は、その調査が終わりIS学園に戻って来た。

 

「お疲れさまです。それで、不審な動きをした人はいましたか?」

 

 

 戻ってくるなら碧は、報告の為に一夏の部屋を訪れていた。美紀は空気を読んだのか、今は部屋におらず、報告が一夏以外に漏れる事への心配は全くない。

 

「見ただけで理解できる人がいるとは思ってませんでしたし、実際そんなことが出来るのは一夏さんと篠ノ之博士くらいでしょう。久延毘古のデータを欲している企業は多くありましたが、織斑姉妹が撃退し、更識からも抗議の文書を出したからでしょうか、日本政府もデータの開示を要求しようという動きはありませんでした」

 

「要求されたからと言って、じゃあどうぞと見せられるものじゃないしな」

 

 

 見せたところで再現は不可能だが、独自技術の塊である久延毘古のデータを、他所の企業に開示するなど出来るはずもないのである。

 

「それから、一夏さんが懸念していた件ですが、あの技術者の中に倉持技研ゆかりの者はいませんでした。全員身分証の通りの企業に勤めていました」

 

「いきなり辞めた、とかそういうのもありませんか?」

 

「部下に引き続き監視はお願いしてありますが、おそらくは杞憂に終わると思いますよ」

 

「ならいいんですが……」

 

 

 亡国機業が何を企んでいるのかが分からないので、警戒を緩めることが出来ない一夏は、ありとあらゆる可能性を考えて行動している。今回のお披露目はそもそも予定してなかったことなので、警戒網が若干緩かったと考えているので、その隙を突かれたのではないかと心配していたのだった。

 

「ダリル先輩も、今回は不審な動きは無かったようだしな」

 

「簪ちゃんが見張ってたからもあるでしょうし、今疑われるのはマズいとでも考えたのかもしれませんよ。アメリカは非常に微妙な立場に陥ってますし」

 

「自業自得ですし、コアは嘘を吐きませんからね」

 

 

 銀の福音の解析の結果、暴走の原因はアメリカ側にあると更識が正式に発表した所為で、アメリカはイスラエルに多額の賠償金を支払い、世界中から疑いの眼差しを向けられている。そんな状況でアメリカの候補生であるダリル・ケイシーが産業スパイだと言われたら、ますますアメリカの立場は厳しいものになるだろう。

 その可能性を考慮したと一夏は考えているのだが、碧は別の可能性を考えていた。

 

「一夏さん、ダリル・ケイシーが亡国機業とつながっている可能性は無いのでしょうか?」

 

「……ゼロではないでしょうね。ですが、彼女が亡国機業の人間だったとして、目的は何でしょう? 転入ならまだしも、彼女は普通に入学していますし」

 

「その方が疑われないから、という考えも出来ます」

 

「……分かりました。碧さんの自由に調べてもらって構いません。ただし、あくまでも我々更識は『ダリル・ケイシーがアメリカのスパイなのではないかと疑っている体』でお願いします」

 

「分かりました」

 

 

 一夏も実はその可能性は考えていた。だが自分で言ったように彼女は編入ではなく、普通に受験し、普通に入学しているのだ。その事が引っ掛かっている一夏は、碧のダリルの調査を命じたのだった。




非常に優秀な更識勢に対して、荒さが目立つ織斑姉妹……

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