暗部の一夏君   作:猫林13世

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集客率倍増間違いなし


文化祭に向けて

 結局、一年一組の出し物は、無難な喫茶店に決まった。ただし、女子はメイド服、一夏は燕尾服という衣装ではあるが。

 

「何故俺が執事などやらなければいけないんだ」

 

「一夏さんが執事の姿で客引きをすれば、売り上げ倍増間違いなしだからでは?」

 

「収益は元金以外は学園に巻き上げられるのに、売り上げ倍増もクソも無いと思うんだが」

 

「学園祭売り上げ一位の団体には、生徒会からご褒美が出るじゃないですか。それ目当てだと思いますよ」

 

 

 部屋で決まった出し物について美紀と話していた一夏だったが、生徒会という単語を聞いて立ち上がった。

 

「どうかしましたか?」

 

「いや、生徒会の方でも出し物を決めるらしいんだが、何故か俺は来なくていいと言われたんだ……何か刀奈さんから聞いてないか?」

 

「いえ、私には何も……そもそも刀奈お姉ちゃんが何を考えているのか、私には分かりませんよ」

 

「刀奈さんの考えなんて、俺にも分からない。それこそ、久延毘古に聞くしかないかもな」

 

 

 苦笑いを浮かべながら、一夏は先日製造した専用機の名前を持ち出した。しかしこの場合の久延毘古は、ISとしてのではなく、日本神話に出てくる本物の事だ。

 

「とりあえず、一夏さんを呼ばなかったということは、一夏さんの力を使う事は無さそうなのではないでしょうか」

 

「いや、俺をダシに生徒会で一位を狙うのかもしれない……あの人は、そういうことをする人だからな。まぁ、虚さんが止めてくれるとは思うが」

 

「虚さんも、結局は刀奈お姉ちゃんに甘いですからね……本音じゃストッパーにならないし」

 

「最悪、副会長権限で没にすればいいだけだがな」

 

 

 立場的には刀奈の方が上なのだが、実質的な権力は一夏の方が遥かに上であり、一夏の決定に刀奈も逆らうことは出来ない。可能性の問題ではなく、一夏に嫌われるかもしれないという心理的な面で。

 

「それより、美紀は誰を招待するんだ?」

 

「誰もしませんよ。お父さんは忙しいでしょうし、友人もそれほどいませんし。一夏さんこそ、誰を招待するんですか?」

 

「悪友の妹に頼まれたから、すでに招待券は渡した。何でも来年受験するから、見学しておきたいんだそうだ」

 

「一夏さんの悪友って、確か頭が残念だって鈴さんが……その妹さんは大丈夫なんですか?」

 

「まぁ、あのバカよりかは遥かにマシな頭脳を持ってるし、簡易適性検査でAだったそうだからな。将来性も見込める。最悪更識に引き込んで専用機を用意する、という手も使えるしな」

 

「最強のコネですね」

 

 

 一夏が悪い顔を浮かべて、美紀は苦笑いを浮かべた。実際にはやらないと分かっているのだが、万が一と言う事があるので、一夏がその妹に肩入れし過ぎないように注意しようと決めたのだった。戦力が増えるのは良い事だが、これ以上ライバルが増えるのは勘弁してもらいたいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏たちが部屋でそんなことを話しているのと、時を同じくして、生徒会室では文化祭に向けて何をするかが話し合われていた。副会長の一夏の代わりに、簪とマドカが招集されて。

 

「やっぱり一夏君という最強のカードを持ってる一年一組が強そうよね」

 

「それは生徒会も同じでしょ。始まる前からこの二つの団体の一騎打ちだって言われてるんだから」

 

「かんちゃんのクラスは、何をすることになったの?」

 

「ISの組み立てやメンテナンスのやり方を分かりやすく解説することになった。未来の後輩に向けての出し物だから、賞品は見込めないかな」

 

「さてと、出し物もだけど、最優秀出し物に選ばれた団体への賞品も考えなきゃ」

 

「お嬢様の事ですから、すでに考えているのでは?」

 

 

 虚の問いかけに、刀奈はニンマリと笑った。何かよからぬことを考えている顔だと、虚も簪も呆れた表情で刀奈を見つめるが、マドカだけは刀奈が何を考えているのかが分からず、思わず聞いてしまった。

 

「それで、刀奈さんは何を賞品にしようと考えているんですか?」

 

「一夏君を一日自由に出来る権利、ってのはどう? 団体全員で一日だから、一夏君も無茶だとは言わないでしょうし」

 

「仮にクラス単位で一日独占だとしたら、一夏の負担が大きいんじゃないの?」

 

「一緒にお茶するとか、ご飯を食べるくらいよ。全員とデートしろなんて言わないわよ」

 

「兄さまの一日を確保するのはどうするのですか? 兄さまのスケジュールはほぼ埋まっていますし、一日フリーの日などあるのでしょうか?」

 

 

 マドカの疑問はもっともで、一夏のスケジュールを確保するなど、さすがの刀奈でも難しい――いや、不可能に近い。だが刀奈は、何か策でもあるかのような笑みを浮かべた。

 

「この前日本政府の人たちが勝手に技術者や議員さんを学園に連れ込んだでしょ? その件を更識から抗議したのよ。それで当分は日本政府は更識に――つまり一夏君に仕事を頼むことを禁じたのよ。だからその分一夏君のスケジュールは空いてるわ」

 

「また力技を……でも、生徒会が最優秀に選ばれた場合はどうするの? 一年一組もだけど、そこには一夏が在籍してるんだけど」

 

「その場合は、一夏君に極上の時間をプレゼントするわよ」

 

「お嬢様の考えている極上は、一夏さんにとっては極上ではないと思いますのでやめておいた方が良いでしょう」

 

 

 虚の容赦のないツッコミに、簪とマドカが頷いて同意した。

 

「何だよ~! 私の言う事が信じられないっていうの!?」

 

「だってお姉ちゃんだし」

 

「酷いっ!? これが反抗期なの!?」

 

「兄さまには、後日別の形で休みをプレゼントすればいいのでは?」

 

 

 マドカの提案に、刀奈以外の三人が賛成し、こうして文化祭の賞品は一応決定したのだった。




蘭って実は、最強のコネを持ってるのでは……

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