始業式が終わりHRの為に各教室に移動した生徒たちの間では、まだ一夏や刀奈の話題で盛り上がっている生徒も多い。それは一年一組でも変わりはなく、一夏が戻ってくるまでの間はその話題で持ちきりだった。
「夏休みの間はほとんど会えなかったけど、やっぱり更識君ってかっこいいわよね」
「更識先輩も、相変わらずお綺麗でしたね」
「布仏さんのお姉さんも、綺麗ですよね」
「生徒会は美形が揃ってるわよね」
そんな会話を聞きながら、香澄と静寐は少し離れたところで会話をしていた。
「香澄さんの専用機、随分と大々的にお披露目したのね」
「一夏さんもあそこまで大きくなるとは思ってなかったみたいですけど、政府の方々と議員さんが力技で技術者の方々にも見学させたようです」
「見学させたって、更識の技術力を盗めるとは思えないのだけど」
そんなことを話していた二人の許に、各国の代表候補生もやって来た。
「日下部さんも専用機持ちになられたようですわね。私でよければ何時でもお相手いたしますわよ」
「お兄ちゃんが関わったISなら、私も相手してみたいぞ」
「ラウラは相変わらず一夏の事を『お兄ちゃん』って呼ぶんだね。それにしても、やっぱり本社の技術力には敵わないな」
セシリア、ラウラ、シャルの三人が香澄の専用機に興味を示すのも無理はない。昨日政府の人間に向けて発表したばかりだが、すでに全世界にその事は知られている。それくらい更識の力は警戒されているし、日本の戦力についても興味を持たれているのだ。
「私の時はそんなに騒がれなかったんだけど?」
「静寐さんの時は、箒さんのどさくさに紛れていたからではないでしょうか?」
「それに、完全新武装と比べれば、静寐の専用機はあまり騒がれる事は無いと思うぞ」
「むっ、それは私の鶺鴒が久延毘古に劣ると?」
「どちらも更識製だから、性能に大きな差は無いと思うけど、でもやっぱり、未来予知の特性は大きいと思うよ」
シャルの分析に、静寐は少し納得いかない感じではあったが、大人しく引き下がった。
「もちろん、専用機を所有している時期が長い分、静寐の方が実力的には上だと思うけど、それを補って余りあるくらいの特性だからね……相変わらず更識の技術力はエグイって、何処の国でも噂になってるし」
「昨日クラリッサから連絡があって、ぜひともその強さを体験したいと思ったのだ」
「イギリスは亡国機業にサイレント・ゼフィルス強奪されたせいで肩身が狭いですからね。少しでも実力をつけて立場を取り戻したいですわ。ですから、戦うならまず私から――」
「模擬戦の相談か? アリーナの使用には生徒会か職員室の許可が必要だ。その事を忘れるなよ」
「一夏、これ頼まれてた資料」
教室にやって来た一夏が逸る二人にツッコミを入れた横で、シャルがデュノア社から頼まれていた資料を一夏に手渡した。
「郵送でよかったんだが……まぁ、確かに受け取った。それで、そっちはどんな感じだ?」
「まだテスト段階には程遠いかな……一夏みたいに簡単にアイデアが出てくるわけじゃないから」
「俺だって一人でやってるわけじゃないんだが……まぁ、時間が出来たらまたそっちに行って改善点を見つけるのを手伝うから」
「うん、お願いね」
表向きは学生だが、一夏は更識次期当主として、シャルは更識傘下デュノア社の社長として日々忙しいのだ。そんな会話を聞いていたクラスメイトたちは、二人に尊敬のまなざしを向けている。
「さて、織斑先生たちが来る前に、文化祭の出し物の意見を聞きたいんだが」
その視線に耐えられなくなったからではないが、一夏が教壇に立ち文化祭のアンケートを取り始めた。
「意見がある人は挙手をして、指名されてから発言してください」
一夏の補佐として美紀が告げると、一斉に手が上がった。
「せっかく更識君がいるんだし、更識君を餌にすれば凄い集客率が見込めると思います」
「……餌って」
本人を目の前に酷い言い草だが、考えとしては悪くないと思われる意見だった。ただ、そこから暴走した意見が多かったのだ。
「更識君とポッキーゲームは?」
「いやいや、そこはツイスターでしょ」
「王様ゲームは? 参加者二人だから、二分の一で更識君に命令出来るわよ」
「「それだ!」」
「……誰か、まともな意見がある人」
頭を抑えながら一夏が問うと、ラウラが挙手をした。
「ラウラ、何かあるのか?」
「いえ……お兄ちゃん、ポッキーゲームやツイスター、王様ゲームとは何ですか?」
世間に疎いラウラは、そういった遊びを一切知らない。だから純粋に質問したのだが、クラスメイトからは驚きの声が上がる。
「ボーデヴィッヒさん、今の全部知らないの?」
「ああ。私は軍人だから、そういった世間一般の遊びは分からない。戦車で鬼ごっことか、リアルサバイバルゲームくらいしかしてこなかったからな」
「怖すぎるわよ……」
「えっとね、ポッキーゲームっていうのは……ごにょごにょ」
「っ!? 最終的にはどうなるんだ?」
「だからね……ごにょごにょ」
「! お兄ちゃん、私とポッキーゲームを――」
「「ほう、どうやら死にたいらしいな、ボーデヴィッヒ」」
「ひぅっ!?」
ラウラの目の前に現れた悪魔の姉妹、満面の笑みを浮かべている二人を視界にとらえた途端、ラウラのトラウマが発動し、一目散に一夏の背後に逃げ込んだのだった。
「えっと……放課後までに『まともな』意見を募集します。あまりにもふざけていると、そこの鬼たちから罰を受けるかもしれませんので」
「「誰が鬼だ!」」
「間違いなく、貴女たちです」
本格的に頭痛を覚えた一夏は、頭を押さえながら自分の席に戻り、美紀も同様に席に着いた。HRは特に連絡事項も無く、すぐに終わり、新学期特有のだらだらした空気が流れていたのだった。
かく言う自分は、大学の学際に一回も出たことがありません