暗部の一夏君   作:猫林13世

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式典は怠かったなぁ……


二学期始業式

 慌ただしく夏休み最終日を過ごした一夏たちは、二学期初日の朝を食堂で気だるそうに迎えていた。本来ならば最終日は終日まったりする予定だったのに、束からもたらされた情報の裏付けや、それが本当だった場合のセキュリティ強化の準備などで、本音とマドカを除く更識関係者は貴重な休日を返上して学園の為に動いていたために、朝から気だるさがマックスだったのだった。

 

「新学期だというのに、随分とダルそうだな。更識、織斑、その他大勢」

 

「せめて他のメンバーも呼んでくださいよ」

 

 

 食堂に見回りに来たのか、千冬の呼びかけに、これまた気だるそうに一夏が答えた。顔を向けるのも面倒なのか、視線は一切そちらには向けずに返答したため、若干千冬が寂しそうだったのだが、誰一人その事には気づかなかった。

 

「お前ら生徒会は始業式で壇上での挨拶があるだろ。そんな顔でどうする」

 

「だったらもう少し学園側で動いてくださいよ。生徒会――いや、更識に丸投げはどうかと思いますよ?」

 

「そんなこと私に言われても知らん。決定権は学長にあるのだからな」

 

 

 IS学園学長である轡木十藏は、実質的な運営は妻に任せているが、こういったことに関しては口を挿んでくるのだ。そして、挿むのは良いが、基本的に一夏たち更識に丸投げするという決定を告げるだけの役割になりつつある。

 

「いっそのこと教師陣の一新も更識に任せてくれないですかね。とりあえず、織斑姉妹は減給と降格ですけど」

 

「そんなことは絶対にありえないから安心しろ。それより、そろそろ本当にシャキッとしないと、私の愛の鞭が火を噴くことになるぞ」

 

「昨日二時まで作業してて、朝もそれの裏付けの結果からいろいろあって五時に起きたんですから、我々生徒会メンバーは始業式に出なくてもいいんじゃないですかね? 生徒会長の私も、副会長の一夏君も有名だし、今更挨拶なんてしなくても――はい、何でもないです」

 

 

 千冬に睨まれ、刀奈は再び机に突っ伏した。抵抗に力が無いのは、彼女も一夏同様に忙しかったからである。

 

「生徒会の挨拶は、会長・副会長の代理として本音に任せます」

 

「ほえっ!? 何で私なの、いっちー?」

 

「お前は早々に寝て、起きたのもさっきだろ? それに、生徒会役員として、たまには働いたらどうだ?」

 

「一夏君、それいいアイデアね! 生徒会長として、布仏本音に始業式の挨拶を命じます。頑張ってね」

 

「お嬢様、こういった時だけ権力を振りかざすのはどうかと思いますよ。一夏さんも、本音にお嬢様や一夏さんの代わりが出来る訳ないじゃないですか」

 

「そうそう……ん? おね~ちゃん、それってどういう意味さ~!」

 

 

 姉にとどめを刺された気分になった本音は、ウソ泣きをして簪に抱き着いたが、簪も疲れ果てているので、何時もみたいに相手にはしてくれなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気だるさも抜けないまま、刀奈たちは壇上で挨拶をすることになった。カリスマ的人気の会長と副会長が壇上に現れると、体育館には割れんばかりの歓声が上がった。

 

「今日から二学期と言う事で、みなさんより一層の精進を目指しましょう」

 

「特に二学期は、文化祭やキャノンボール・ファストが予定されていますので、準備などにも時間が掛かるでしょう。みなさんのお手伝いが出来るよう、我々生徒会も精進してまいりますので、節度のある盛り上がりを目指しましょう」

 

 

 一夏が最後に釘を刺したが、果たして生徒たちはその事を守るのか。それだけが生徒会の悩みだった。壇上から脇に移る際、熱狂的な歓声に対して織斑姉妹が怒鳴り散らしているのが聞こえたが、それは聞こえないふりをしたのだった。

 

「お疲れ様です。文化祭の件ですが、今週までには出し物の希望を取っておきたいので、各クラス代表には伝えておいてください」

 

「それは職員室でされる通達では?」

 

「普通はそうなのでしょうが、職員室から生徒会へ丸投げされました」

 

「……では、退場の際に伝えておきましょう。あっ、そういえばIS学園の文化祭は、クラス対抗になってるんでしたっけ。賞品とかはどうするんですか? それも生徒会で決めるのでしょうか?」

 

「そうね。それは放課後に話し合いましょう。生徒会も出し物を決めなきゃいけないだし」

 

 

 厳かに進行される生徒会会議を、本音は半分寝ながら聞いている。始業式もだが、生徒会会議も寝ながら参加するものではないのだが、誰もそこにツッコミは入れなかった。

 

「さてと、問題はどちらも来場者がいるという点ですね。徹底管理など不可能ですので、ゲートで不審者を識別するのは難しそうですね……個人の繋がりを聞き出すのもあれですし」

 

「学園側も企業関係者などを招待したいらしいし、チェックは無理でしょうね」

 

「IS企業の関係者って、更識からは呼ばれてないですよね?」

 

「生徒にいるからね。わざわざ見学させる理由も、ましてや更識企業のノウハウが詰まってるんだから、更識関係者を呼んでも意味ないわよね」

 

「こちらとしては、あまり外部の人間に見せたくないのですがね……まぁそんなこと言ってもしょうがないでしょうけども」

 

 

 細々としたことは後で決めると結論付け、一夏はもう一度壇上へと移動する。先ほど虚から言われた、各クラスの出し物の希望を今週中に生徒会へと提出するよう呼びかける為と、暴走しかかっている生徒たちの鎮静を図るためだ。

 

「私はいかなくてもいいのよね?」

 

「出来ればお嬢様も一夏さんとご一緒に鎮静化を図ってください。このままでは怪我人が出る恐れがありますので」

 

「まったく、何時からこの学園はアイドルの追っかけになったのよ」

 

 

 刀奈の愚痴に、虚は苦笑いを浮かべながら首を左右に振った。答えなど分からないが、このままでは織斑姉妹が実力行使に出ることは火を見るよりも明らかだったので、刀奈も壇上へ移動し鎮静化を図ったのだった。




地味に毒づく虚さん……

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