暗部の一夏君   作:猫林13世

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怒らせちゃいけない人を怒らせた……


織斑姉妹の怒り

 対戦を終えた美紀がピットに戻ると、そこには一夏が待っていた。

 

「お疲れさま。しかし美紀が本気になるとはな」

 

 

 一夏には、この模擬戦はあくまでお披露目、本気を出す必要は無いと言われていたのだが、美紀は途中から完全に本気を出していた。

 

「さすがにあそこまで躱されると本気も出したくなるか?」

 

「そうですね。初めは避けられても仕方ないと思っていたんですけど、途中からどうにもイライラしてきまして……それが狙いだったんですかね?」

 

「美紀がイライラしたのは、別に俺の狙いじゃないぞ。美紀が実力者で、香澄さんに負けたくないと思いだしたからイライラして、本気を出したんだろうさ。それは同時に、美紀が香澄さんの実力を認めたということにもなるだろうから、彼女の自信につながるだろうな」

 

「本当に強かったよ。体力もかなりついてたし、操縦技術も。もしかしたら本音よりも上手いかもしれないです」

 

「比較対象が本音じゃ、嬉しくないだろうな……殆ど野生の勘で操縦してる本音じゃ」

 

「それもそうですね」

 

 

 一夏の言い方が可笑しかったのか、美紀はクスクスと笑った。一夏は美紀を労った後、すぐにピットから出て行こうとしたのだが、美紀がそれを呼び止めた。

 

「怪しい人物はいたのでしょうか」

 

「見張りからは何も。だが、妙に久延毘古に興味を持っている人間は数人いたそうだ。公式文書で、今度は鶺鴒も見せてほしいとか言ってきた」

 

「静寐さんの専用機ですか? そう言えばお披露目はされていませんものね」

 

「この規模のお披露目が、早々出来るわけもないだろうに……大体、更識に送ってくるならまだしも、なんでIS学園生徒会に送ってくるんだか」

 

「このお披露目を仕切ったのが生徒会だからじゃないですか? IS学園側に申請しても、どうせ生徒会に回されるだろうと思ったとか」

 

 

 美紀の答えに、一夏は肩を落としため息を吐いた。

 

「実にありえそうな話だな……てか、久延毘古もだが、鶺鴒も学園のものじゃなく更識のものなんだが……」

 

「その更識の所要メンバーの大半が学園に所属してるからですよ。当主はお父さんですけど、一夏さんが実質的な当主だと思われてるんじゃないですかね」

 

「まさか……楯無さんだって立派に働いているんだ。冗談でもそんなことを思う輩はいないと思うぞ」

 

 

 事実、一夏が本当の当主だという事を知っているから言える冗談なのだが、一夏にはそれが冗談に聞こえなかったのだった。ただでさえ更識への依頼という事で生徒会に書類が送られてくることがしばしばあるのだ。バレていないにしても美紀が言ったように思ってる輩が少なからずいるのかもしれないのだ。

 

「とにかく、凄い汗掻いてるからシャワー浴びた方が良いぞ。さすがの美紀も香澄さんには苦戦したか。これは面白いな……今度は簪か、虚さん、刀奈さんの誰かと戦ってもらって……」

 

「一夏さん、ブツブツ言ってると怖いですよ」

 

「あぁ、すまない……とにかく、さっきみたいな冗談はあまり言わない方が良いぞ。楯無さんが悲しむから」

 

 

 一夏はそれだけ言い残して、今度こそピットから出て行った。残った美紀はアリーナにあるシャワー室を目指そうと、一夏とは別の方向に移動したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 織斑姉妹は今、日本政府の要人たちに囲まれていた。

 

「さすがは更識の専用機ですな。あれなら何時攻められても問題は無さそうだ」

 

「全くです。IS学園の指導力と、更識企業の技術力があれば、犯罪組織などおそるるに足らず」

 

「我々の指導力は兎も角、何故日本政府側で戦力を調達しないんだ」

 

「何でもかんでもわたしたちに任されても困るのだが。学生たちもそうだが、わたしたちや更識の方に報酬があるわけでもないのに」

 

 

 千夏が言うように、戦力アップを急務としたのは日本政府であり、その戦力確保の為に動いたのはIS学園と更識企業の二つだ。もちろん、報酬など何処からも出ていない。

 

「政府の要求に応えるのはそちらの義務ですからな。報酬など騒がれてもそんな金はどこにもない」

 

「ならあまりIS学園の事に干渉しないでいただきたいものだな。ここは何処の国家にも属さないという決まりがありますので、日本政府の人間が頻繁に干渉していることが知られれば、他国の人間たちも過干渉したがりますからな。そうなった時私たちがどう行動するか分かりませんし、その責任は日本政府に問うように公言します」

 

「それが嫌なのでしたら、今後これ以上IS学園に過干渉するのは止めてもらえますか? わたしたちだけではなく、生徒会の面々もそう思っていますので」

 

 

 そこで千夏は、扉に視線を向けた。その先には刀奈と虚がいるのだが、あえてずっと気づかないフリをしていたのだった。

 

「その先に誰かいるのか?」

 

「いえ、こちらの方向に生徒会室があるものでして」

 

「とにかく、これ以上干渉してくるのなら、IS学園名義と更識企業名義で抗議文書を送らざるを得なくなりますので。そもそも更識が用意した専用機は、日本所属ではなく更識所属だ。あんたたちに見せる義務はないと思うがな」

 

「更識企業は日本の企業だ! そこに依頼したんだから我々には見る権利があるだろ!」

 

「政府の手柄みたいに言ってるのが気に食わないだけだ。コアから全て自社で用意している更識には、日本政府など関係ないと言っているだけだ」

 

 

 千冬の言葉に、日本政府の要人たちがたじろぐ。言ってることはもっともだし、自分たちにはそのような力がない事も自覚しているので、要人たちはすごすごとIS学園から退散を決め込んだのだった。




珍しくまともな織斑姉妹……いつ駄目さが発揮されるのか……

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