モンド・グロッソはテレビでも中継されている。だから一夏は更識家のテレビを使ってモンド・グロッソを観戦しているのだ。
本当は会場に行って直接碧の応援をしたかったのだろうが、一夏の事を考えて会場には赴かない方が良いと楯無が結論付けたのだ。
「おりむ~が造ったISが世界を相手にするんだよね。楽しみだな~」
「本当はもう少し性能を上げたかったんだけど、今の技術じゃ厳しいんだよね」
「一夏は他の人より何歩も先を行ってるんだから、そんなに焦らなくても良いんじゃない?」
「そうですよ。一夏さんは他の開発者が造れない第二世代ISを造りだしているんですし、小学四年である事を考えなくても、十分すぎる成果だと思います」
「そうかな……でも、やっぱりもう少しは性能を上げたかったよ」
簪と美紀の評価に照れたような仕草を見せたが、やはり一夏は少し不満げだった。
「そんな事言わないの。一夏君は十分すぎる成果を出してるんだし、碧さんだって満足してくれてるわよ」
「そうですね。報告を見る限りでは、碧さんは優勝候補筆頭ですしね。一夏さんがお造りになった木霊が碧さんの評価を高めているのは紛れもない事実ですし」
「派手に迷子になる事も無くなったらしいしね~」
木霊と共に行動するようになってから、碧が集合時間に遅れる事は無くなった。無論時間を間違えていたとかそういった理由で遅れていたのではなく、単純に迷子になっていただけなので、その事で評価を落としていたわけではないのだが……
「碧さんもだけど、一夏のお姉さんたちも優勝候補なんだよね。やっぱり日本のIS開発は進んでるのかな?」
「織斑千冬さんと千夏さんの専用機を造ったのは篠ノ之博士だよ? 日本の技術力じゃなくって、単純に専用機を造った人の力じゃない?」
美紀のツッコミに、一夏以外の全員が頷いた。千冬・千夏の専用機は篠ノ之束が、碧の専用機は一夏が造ったのだ。他の国の専用機に負けるはずもないと納得出来たのだ。
だが一夏だけが、専用機だけの力では無いと思っていたのだ。
「碧さんもだけど、この二人も相当な時間を訓練に当ててるんだろうね。他の国の代表者よりオーラが強いよ」
「一夏ってオーラも見えるの? ISの声も聞こえるし、見ただけで相手の実力が分かるのは、ほんとに凄い事だと思うよ」
「この三人は特別強いオーラだから分かるだけで、他の人を強い順に並べようとしても分からないよ」
それでも凄い事なのだが、一夏は自分が凄いとは頑なに認めようとしない。自分はあくまでも彼女たちと同じなのだと思いたいのだろう。
「いよいよ初戦が始まるね~。お姉ちゃんは誰が勝つと思う?」
「順当に勝ち進めば碧さんが優勝でしょうが、勝負は時の運とも言いますからね……碧さんが大きなミスをしないとも限りませんし」
「難しい事はいいんだよ! とにかく碧さんを応援するのだ~!」
布仏姉妹の会話を聞き、一夏はさっきまでの会話を打ち切ってテレビに視線を戻した。簪と美紀も一夏につられるように視線をテレビに向けたが、刀奈だけは一夏を見続けていた。
「(あっさりと言ってたけど、オーラが見えるなんて事が余所にバレたら、また一夏君が狙われるかもしれないわね……後で二人には誰にも話さないように釘を刺しておきましょう)」
簪も美紀も、それほど口が軽いわけではない。むしろ軽さで言えば刀奈の方がよっぽど軽いだろう。だがそんな刀奈でも軽々しく口に出来ない事であると理解しているからこそ、二人にも釘を刺しておこうと思ったのだ。
「このIS、見た目が悪いね~」
「性能重視なのではないでしょうか? まだ見た目まで考える余裕が無かったとか」
難しい顔をしていた刀奈だが、布仏姉妹の会話を聞いて表情を改めた。そして視線も一夏からテレビへと移し、仲良く観戦を始めたのだった。
予選を終えて、千冬・千夏ペアと碧は順当に勝ち進んだ。順当というか、危なげなくというか、とにかく何のアクシデントも無く予選を突破したのだった。
「実につまらない試合だったな」
「連携がなって無いし、個々の技量も大した事ない。あれで良く国家代表に選ばれたな」
「貴女たちと違って、他の国の代表はISってものに慣れてないのよ。開発者がバックにいる貴女たちとは違ってね」
予選を無傷で突破した事で、千冬と千夏はレベルの低さに呆れていたのだが、碧は他が低いのではなく二人が高すぎるのだと諭す。事実日本代表の三人以外の代表者の実力は拮抗しており、観客を飽きさせない試合展開になっているのだ。
「この大会はISの凄さを知らしめるのが目的だろ? だったら容赦などせずに叩き潰す方が宣伝になる」
「広告に使われるんだから、当然ギャラを要求するがな」
「……国の代表なんだからそこら辺は無償に決まってるでしょ。優勝すれば何か賞金があるみたいだけど……それも大した事無いようだけどね」
「ふん、つまらん大会だ」
「実力者を叩きつぶせると聞いていたのにこの体たらく……」
「だから、貴女たちが強すぎるのよ」
『ツッコミも大変ですね』
木霊に同情された事で、碧はこの二人にツッコミを入れるのは止めようと決意した。いくら言ってもこの二人の考えを改めさせるのは不可能だと悟ったのだ。
「とりあえず、相手国の代表に怪我を負わすのだけは気をつける事ね。国際問題とかに発展したら面倒でしょ?」
「問題無い」
「その国を世界地図から消せばいいだけだからな」
「問題ありです!」
それでもツッコミを入れてしまうのは、この二人があまりにも常識外れだからだろう。
これが終われば箒が転校して鈴がやってくる場面に行ける……