暗部の一夏君   作:猫林13世

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大人の思惑に付き合わされる学生……


お披露目の模擬戦

 日本政府からの要請という名目で専用機を造ったため、完成したらその報告とお披露目をしなければならない。そのためにIS学園に日本政府の要人を招いたのだが、一夏としてはかなり気に入らない状況であった。

 

「何で他企業の関係者まで来てるんですか? 招待は刀奈さんがしたんですよね?」

 

「私も分からないわよ。政府のおじさんたちが勝手に呼んじゃったらしいのよ」

 

「来賓以外はIS学園に入ることはままならないはずですが、何故あそこにいるのでしょうか」

 

「それは……議員バッジの力じゃないの? いくらIS学園が関係者以外立ち入り禁止だと言っても、あのバッジの力はそれを凌駕するものだから」

 

「たく……まぁ、そこいらの企業の技術者に、更識の技術を盗めるとは思いませんが、一応各自警戒はしておいてください。不審な動きをした時点で、拘束しても構いませんので」

 

 

 ただでさえ亡国機業の事でピリピリしている一夏に、余計な刺激を与えたことは完全に日本政府の失敗なのだが、幸か不幸かそのことを日本政府の人間は気づきすらしないのだった。

 

「美紀を対戦相手にしたのは失敗だったな。諜報活動で本音は役に立たないし」

 

「むぅ~、いっちー失礼だよ~」

 

「じゃあ本音に、相手に気づかれることなく情報を仕入れる事が出来るっていうんだな?」

 

「出来るわけないよ~。そもそも私はここでいっちーの警護をしなきゃいけないんだから」

 

「はぁ……刀奈さん、虚さんは要人の監視を、碧さんと簪はアリーナの監視をお願いします。アリーナでも不審な動きを見せたものは、すぐに拘束して構いませんので」

 

「一夏君、織斑姉妹に協力は仰げなかったの?」

 

 

 最強の切り札になるであろう織斑姉妹の協力がない事に、刀奈は疑問を抱いていた。しかしその疑問は、モニターに映った要人たちの姿の中に織斑姉妹の姿を見つけてほぼ解決した。

 

「見ての通り、あれでも元日本代表ですからね。碧さんを取られないように、あの二人には日本政府の人間の相手を任せました」

 

「なるほど。確かに織斑姉妹なら、日本政府の人たちにも顔が利きますね」

 

「下手な事をして、IS学園の――いえ、更識の不利益になることはしないようにと釘を刺しておいたので、おそらくこの模擬戦の間くらいは大人しくしてくれるでしょうね」

 

 

 信頼度が高いのか低いのか分かりにくい一夏のコメントに、四人は苦笑いを浮かべる。だがそれも一瞬だけで、すぐに表情を引き締めた。

 

「それでは各自、持ち場についてください。山田先生、模擬戦の進行はお願いします」

 

「分かりました。それではこれより、更識企業の新作専用機お披露目模擬戦を開始します」

 

 

 一夏の合図で、真耶は要人たちに話しかけるようなアナウンスを始めた。一夏はモニター越しに各企業の技術者たちに目を向け、すぐに視線を逸らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大事になった初陣に、香澄は緊張を隠せずにいた。だがプライベート・チャネルで一夏に励まされたお陰で、今はある程度落ち着いていた。

 

『それでは、両選手の入場です』

 

 

 謎の合図とともに、香澄はピットからアリーナへと飛び出る。同じタイミングで向こう側のピットから美紀も現れ、生徒たちから歓声が上がった。

 

「よろしくね、香澄さん」

 

「は、はい! こちらこそよろしくお願いします、美紀さん」

 

『両者、開始位置に移動してください。開始位置に到着したのを確認しましたらカウントを始めますので、それまでは動かないようにお願いします』

 

 

 真耶からの指示に、美紀と香澄は同時に頷き、開始位置に移動した。アリーナからは日本政府の要人や他企業の技術者の姿がよく見えていた。

 

『美紀、香澄さん、一応お披露目という形を取ったが、あまり性能を見せつけるのは好ましくない。テキトーにやり過ごせるのならそれが一番なのだが、おそらくそれも出来ないだろうな。だから適度に手を抜いて、見せすぎないように戦ってもらいたい』

 

『了解しました、一夏さん。ところで、何故あんなに人が来てるのでしょうか?』

 

『それは私も気になりました。あれだけの人数を割く必要があるのでしょうか?』

 

『香澄さんは自覚が足りませんよ。貴女は全世界が羨むと言われている、更識企業が一から全て貴女の為に造った専用機の所有者なのですから。その貴女の実力を生で見たいと思う人が大勢いてもおかしくありません』

 

『うぅ……緊張してきました』

 

 

 プライベート・チャネルを使っての会話を打ち切ったのは、真耶がカウントダウンに入ったからだった。さすがに会話しながら戦う技術を、香澄は持ち合わせていないのだ。

 

『ゼロ! 模擬戦を開始してください』

 

 

 真耶の合図と共に、まずは美紀が仕掛けた。金九尾が繰り出す銃弾を、香澄は例の未来予知機能を使わずに躱した。それだけの実力と判断力を、あの織斑姉妹のメニューで身につけていたのだ。

 

「やるね。でも!」

 

 

 美紀も代表候補生としての意地があるのか、躱されたのを見てすぐに別の手段で攻撃に移った。

 

『来ます。右斜めからフェイント、本命は下腹部への斬撃です』

 

「視えてるから大丈夫! でも、躱したら隙が出来ちゃう」

 

 

 香澄は美紀の攻撃を躱すのではなく、同じように斬撃を繰り出して相殺することにした。

 

「やっぱり視られてるのはキツイですね……なら!」

 

「っ!?」

 

 

 一夏が言っていた未来予知機能の弱点、それは例え未来が視えていても、躱されない程の攻撃を繰り出されることだった。

 

『危険です! 回避に専念してください』

 

「分かってる! 視てる余裕もないし、受け止められるなんてうぬぼれてない」

 

 

 持てるスピードをフルに活用して、香澄は美紀の攻撃から逃げることに専念することにした。そんな二人の戦いを、モニター越しに見ていた一夏が満足そうに頷いている事を、この二人は知る由もなかったのだった。




一夏の方がよっぽど大人な気が……

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