暗部の一夏君   作:猫林13世

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仲の良い兄妹ですねぇ


一夏と簪

 簪の力を借り、一夏は何とか専用機完成目前までこぎ着けていた。このままのペースで行けば、間違いなく夏休み終了前に専用機は完成すると一夏も簪も確信していた。

 

「後は動作確認して、パーソナライズとフィッティングだね」

 

「そのあたりは香澄さんに来てもらわないと出来ないから、明日で良いだろう。今日はもうかなり遅い時間だし、そろそろ織斑姉妹辺りが見回りに来る時間だろうしな」

 

「もう夏休みも終わりで、ほとんどの生徒が寮に戻ってきてるもんね。規律も元に戻っちゃってるし」

 

「IS学園は宿題というものが存在しないから助かった。もしあったら研究に集中できなかっただろうし」

 

「一夏なら問題なく終わりそうなんだけど」

 

 

 普段から生徒会などの仕事と並行して研究したりしている一夏だから、例え宿題があろうが問題なく研究していたのではないかと、簪は思っていた。だが彼女は、とあることを見落としていたのだった。

 

「いや、どうせ本音がやらなくて、最終日辺りで泣きついてくるだろ? だったら毎日ちょっとずつでもやらした方が良いと考えて、監視してただろうから」

 

「あぁ……去年までは確かにそんな感じだったね」

 

「俺より十分時間があったはずなのに、なんであいつは宿題をしてこなかったのか、いまだに分からん」

 

「それはほら、本音だから」

 

 

 簪の一言に、一夏は納得してしまった。おそらく更識所属の人間なら、その一言で納得できるくらい、本音の事を理解しているのだろう。

 

「そう言えばあいつら、宿題やったのか?」

 

「えっ、誰の事?」

 

「学外の知り合いというか、悪友だな。前に更識のビルに置いてあるVTSをゲームにした筐体で遊んだって話した鈴以外の二人だ」

 

「普通の高校生だもんね……多分宿題あるよね」

 

「まぁ、溜め込むほど馬鹿じゃないと願うよ」

 

 

 あえて自分から確認するほど、一夏は弾と数馬の事を心配していない。そもそも心配したところで、どうすることも出来ないのだから、無駄な事はなるべくしないと決めている一夏らしい反応だったのだろう。

 

「それじゃあ、今日はここまでだね」

 

「そうだな。簪のお陰で大分楽が出来た。ありがとう」

 

「良いよ、お礼なんて。一夏一人でやらせると、また寝ない事が多くなりそうだったし」

 

「だから、寝てたってのに……」

 

「一時間半はお昼寝とかそんな感じだよ! ましてや一夏は色々と忙しいんだから、ちゃんと睡眠はとらなきゃダメなんだからね!」

 

 

 珍しく説教口調で一夏に詰め寄る簪に、一夏は素直に頭を下げる。誕生日の関係上、一夏が兄と言う事になっているが、今の状況は完全に簪が姉で、一夏が弟だ。

 

「そう言えば、篠ノ之博士がくれたあの発明品は使ってるの?」

 

「ん? 織斑姉妹にあげた。なんだか喜んでたが、俺が作ったわけじゃないんだがな」

 

「一夏、その事ちゃんと言ったの?」

 

「……言ってないな。まぁ問題ないだろ?」

 

 

 織斑姉妹は、一夏からの贈り物だと思って喜んだのであって、まさか束からもらった不用品を自分たちに押し付けてきたなどとは思ってないのだろう。そのことを理解してなお、一夏は説明する必要はないと言い張る。

 

「別にいいけど、後でうるさいかもよ?」

 

「あの二人がうるさいのは何時もの事だろ」

 

「そんなこと、あの二人を前にして言えるのは一夏だけだって……マドカも言えないみたいだし」

 

「とにかく、今日はもう部屋に戻ろう。危険はないだろうが、部屋まで送っていく」

 

「ありがとう。でも、危険ならあると思うよ。死角からお姉ちゃんが飛び出てきたり、部屋のドアを開けたらお姉ちゃんが飛び出てきたり、シャワーを浴びようと思って扉を開けると、お姉ちゃんが――」

 

「簪の中の刀奈さん、忙しいな……」

 

 

 妹を溺愛する姉と言う点では、刀奈は織斑姉妹と大差ないのではないかと一夏は考えてしまった。それでも、迷惑度で言えば織斑姉妹の方が数段上だと思っているが。

 

「一夏だって、お姉ちゃんの熱烈歓迎は経験したことあるでしょ?」

 

「まぁな。危うくトラウマが発動しそうになったから、あれ以降刀奈さんが不意に飛びついてくることはなくなったが」

 

「さすがにお姉ちゃんも反省したからね」

 

 

 幼少期、まだ完全に慣れていない一夏に対し、刀奈は廊下の曲がり角を利用したドッキリを一夏に仕掛けた。普通なら少し驚いて終わりのはずだったが、極端に人間を怖がっていた一夏にとって、ちょっとしたドッキリでも恐怖の対象だったのだ。

 

「屋敷中の大人が駆けつけてきたもんね」

 

「大声で泣いた俺も悪かったが、あれは刀奈さんの所為だと今でも思ってるんだが」

 

 

 それ以降、刀奈は一夏に対する過剰なドッキリはしなくなっている。それでもまぁ、過剰なスキンシップは狙っていると感じてはいるようだが。

 

「隙あらば一緒にシャワーを浴びようとするからなぁ……寮に入ってからは無いが」

 

「だって一夏は部屋付きのシャワーだけでしょ? 大浴場使えないんだし」

 

「山田先生と五月七日先生が使えるように調整してくれると言っていたが、俺が断ったからな」

 

「一夏、お風呂嫌いだもんね」

 

「身体の汚れを落とすだけなら、シャワーで事足りるからな。長時間湯船に入ってる暇があるなら、一件でも多くの案件を処理したい」

 

「色々と立場があるから仕方ないけど、高校生らしくない考えだよね」

 

「簪はすべての事情を知ってるだろ。仕方ないんだ」

 

 

 そんな会話をしながら、一夏は簪を部屋まで送り届け、自分も部屋に戻りベッドに倒れ込んだのだった。シャワーは明日の朝でいいやと、そんなことを考えながら、そのままの格好で眠りに就いた。




さっそく廃棄処理された束の発明品……

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