暗部の一夏君   作:猫林13世

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昨日はすみませんでした


クーちゃん初めてのおつかい

 香澄のデータを手に入れた一夏は、さっそく整備室に向かうつもりだったが、美紀と碧に両腕を押さえつけられ、そのまま部屋に連行された。

 

「な、何ですかいったい……」

 

「いくら政府から急かされているとはいえ、一夏さんが体調を崩したら元も子もないんです。私たちは一夏さんの指揮の下動くのですから」

 

「個々で動くことは可能ですが、一夏さんという司令塔を欠くと戦力ダウンは避けられません。戦力アップを目指すのならば、まずは一夏さんを休ませることが先決です」

 

「いや、だから……」

 

「お二人の言う通りですよ、一夏さん。何なら私が押さえつけてでも休ませましょうか?」

 

「お前が言うと洒落にならないからやめてくれ」

 

 

 見た目こそ女性だが、闇鴉はまごうことなきISなのだ。一夏の力では闇鴉に抵抗する術はない。押さえつけられたら文字通り手も足も出ないのである。

 

「分かりましたよ……その代わり、美紀には完成した暁にもう一度香澄さんの相手をしてもらうからな」

 

「それくらいお安い御用ですよ。それで一夏さんが休んでくれるのでしたら」

 

「碧さんは簪に伝言をお願いします。一人でやると集中して時間を忘れるから、簪にも手伝ってほしい、と」

 

「畏まりました。簪ちゃんなら喜んでお手伝いしてくれると思いますよ」

 

 

 IS整備において、一夏の次に優れているのは簪だ。他の人では手伝えない事でも、簪なら手伝える可能性があるのだ。それを碧たちは羨ましく思っているのだが、簡単に手伝えるレベルではないことも自覚しているので、無理に間に入ろうとは思っていない。

 

「てか、もう大人しく部屋に戻るので、二人とも離してもらえませんかね?」

 

「「ダメです!」」

 

「はい……すみません」

 

 

 二人に強く出られて、一夏は抵抗を諦めて二人に運ばれることにしたのだった、そんな一夏の事を、闇鴉は面白いものを見るような目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の手伝いを出来ないかと、束は盗撮した――監視衛星の映像から、一夏の考えを推理し問題点を見つけ出そうとしていた。

 

「束様、コーヒーをお淹れしました」

 

「ありがと、クーちゃん。それにしても、いっくんがここまで汗だくになるなんて……ちーちゃんとなっちゃんが興奮する理由が束さんにも理解できるよ~はぁはぁ」

 

「束様、一夏様のお手伝いをするはずだったのでは? いつも通り興奮してるだけになっていますが」

 

「おっと、ありがと、クーちゃん。またまた助かったよ~。さっすが束さんの娘だね~」

 

「娘だなんて……私はただの出来そこないです」

 

 

 束の身の回りの世話を担当するクロエ・クロニクルという少女が、恥ずかしそうに束から視線を逸らす。自らを「出来そこない」と言う通り、彼女は自分に自信を持てないのだ。

 

「クーちゃんが出来そこないなんじゃなく、あの研究者共が屑だったんだよ。だってクーちゃんは、こんなにも束さんの為に働いてくれてるんだから」

 

「私を救ってくださった束様の為に、私は何だっていたします」

 

「うんうん、さすがクーちゃんだね。それじゃあ、さっそくお願いがあるんだけど」

 

「はい、何なりとお申し付けください」

 

 

 恭しく束の言葉を待つクロエに、束は微笑みを浮かべてお願い事を告げる。

 

「ちょっとIS学園まで行って、いっくんに渡してきてほしいものがあるんだ」

 

「渡してきてほしいもの、とは?」

 

「束さんの新発明『何処でも快眠くん五号』だよ!」

 

「……四号までは何処に行ったのでしょう?」

 

「スクラップにしてそこらへんに捨ててあるよ。まぁ、この五号の使い心地は束さんが保証するから、いっくんも気に入ってくれると思うよ」

 

 

 なんとなく不安を覚えながらも、クロエは束に頼まれたことを忠実に果たすべく、IS学園に謎の発明品を届けるためにラボから出かけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間休んだ一夏は、さっそく簪と共に整備室に向かおうとした矢先、正面ゲートに不審者がいるという報告を受けてそちらに向かっていた。

 

「お疲れ様です。それで、不審な少女とは?」

 

「はい、こちらです。篠ノ之束の使者を名乗っていますが、一応ご確認をと思いまして」

 

「束さんの? 何も聞いてないですね……」

 

 

 新しくテストパイロットが増えたとは聞いていた一夏だったが、こちらに来るなどとは一切聞いていなかったので、とりあえずその使者に会うことにした。

 

「貴女が束さんの?」

 

「お初にお目に掛かります、更識一夏様。クロエ・クロニクルと申します」

 

「……どことなくクラスメイトに似ている雰囲気なのは、そう言う事と考えて宜しいのでしょうか?」

 

「私に敬語は不要です、一夏様。どうぞ気楽にお話しください」

 

 

 クロエの見た目から、自分より年上だと判断した一夏は敬語を使ったのだが、クロエがそれは不要な気遣いだと一蹴した。

 

「そのあたりの洞察力はさすがですね。確かに私は、貴方のクラスメイトである『ラウラ・ボーデヴィッヒ』と同じ出自ですから」

 

「そうですか……それで、束さんの用事とは?」

 

「そうでした。これを一夏様にと」

 

「……これは?」

 

 

 受け取った品を怪訝そうに見つめる一夏に、クロエは束から聞かされた説明をそのまま一夏に聞かせた。

 

「不燃ごみの日は昨日だったんだが」

 

「とりあえず使ってほしいと、束様は仰られておりました」

 

「俺はあの人と違って、寝る間を惜しんで研究してるわけではないんですけどね」

 

 

 とりあえず受け取らなければクロエが帰らないと察した一夏は、謎の発明品を手に取り正面ゲートのそばにあるこの部屋から移動することにした。

 

「束さんに、余計な事をしないでほしいと言っておいてください」

 

「余計な事、とは?」

 

「例の武装の研究をしてるでしょうけども、それはもう完成間近なので」

 

「承りました。束様にご報告しておきます」

 

 

 恭しく一礼したクロエに、一夏は苦笑いを浮かべながらも何も言わずに整備室へ向かったのだった。




またいらないものを……

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