暗部の一夏君   作:猫林13世

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データ収集の為なら、鬼にでもなる一夏


専用機製造の為に

 一時間ほど仮眠を取った一夏は、電話で香澄をVTSルームへと呼び出した。理由は、彼女の専用機開発の為に必要なデータを取りたいという、色気も減ったくれもない何とも一夏らしいものだ。

 

「えっと、何故四月一日さんと小鳥遊先生がいらっしゃるのですか?」

 

「一応俺の護衛だからな。仮眠を取ったとはいえ寝不足なのは否定出来ないから、IS学園に紛れてると思われるスパイに襲われても大丈夫なようにだ」

 

 

 一夏の話を聞いて、香澄は慌てて周りを見渡す。気配など掴むことは出来ないが、誰か隠れていればその場から心の声が聞こえてくるのだ。

 

「今この部屋にいるのは俺たちだけだから、そこまで警戒する必要はないですよ」

 

「一夏さんたちには、私の特殊能力は通用しませんからね……本当の事を言っているのか、自分でも確かめないと」

 

「疑われてるのは残念ですが、普段から相手を疑って過ごしてきた香澄さんなら仕方ないのかもしれませんね」

 

「スパイとか言われたら気になりますって……ところで、データを取りたいって言ってましたけど、もうインストールは終わってるんですか?」

 

「もちろんです。今回はあくまでもデータ収集が主ですので、ダメージなど気にせずやっちゃってください」

 

 

 一夏からパスワードの書かれた紙を手渡され、香澄はぎこちない動きでVTSの前に座った。

 

「(えっと確か、IDを打ち込んで、それからパスワードを打ち込めばいいんだっけ……あっ、何時ものパスワードじゃなくって、こっちを打ち込まないと)」

 

 

 あまり利用したことは無いが、香澄は自分のIDとパスワードをしっかり記憶している。だからではないが、普段のパスワードを打ち込みかけてしまったのだ。

 

「えっと……一夏さん、この『テスト機体』ってやつですよね?」

 

「そうですよ。香澄さんの特殊能力を存分に活かせる機体に仕上げたつもりですが、まだデータ不足なんですよ。だから、今日は存分にデータを取らせてもらいますね。あとで碧さんや美紀とVTS内で戦ってもらう予定ですから」

 

「そんなこと聞いてませんよ!?」

 

 

 元日本代表と、現日本代表候補生である碧と美紀との戦闘は、例えヴァーチャルとはいえ香澄にとっては心の準備が必要なのだ。それが分かっていたのか、一夏は美紀の感想に人の悪い笑みを浮かべた。

 

「準備出来てない状況で強敵と戦わなければいけなくなった時のデータも欲しいですし、やるのは今から大分あとですから、その間に覚悟を決めてください」

 

「噂通り、鬼畜ですね……」

 

 

 どこか楽しそうな一夏に、香澄はそんな言葉を漏らしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テスト機体を動かして一時間、一夏は満足そうにモニターに表示されたデータを眺めていた。

 

「やっぱり俺が使うよりも良いデータが取れますね」

 

「あの未来予知の武装は、一夏さんには扱えないんですか?」

 

「三十パターンまで絞り込むことは出来ましたが、それ以上絞り込むことは不可能ですね。それこそ、脳が焼き切れる恐れがあります」

 

「そんなものを日下部さんに使わせて大丈夫なんですか?」

 

「彼女は人の心とISの心を読むことが出来ますからね。フェイントは彼女には通用しません。だから、見える未来は一つだけ、後は機体の動きに置いて行かれなければ攻撃を喰らう事は無いでしょう。もちろん、織斑姉妹や碧さんのように、予想出来ても避けられない攻撃を仕掛けてくる相手には、純粋に防ぐ事しか出来ませんが」

 

 

 一夏の説明が終わるのと同時に、香澄が行っていた対戦も終了した。

 

「CPU相手ならほぼ確実に完封出来るまでには成長してますね。織斑姉妹の過剰プログラムが、こんなところで役に立つとは」

 

「い、一夏さん……少し休んでもいいですか? いくらヴァーチャルとはいえ、一時間ずっとじゃ疲れました」

 

「良いですよ。休憩を挟んで次は碧さんか美紀と対戦してもらいますから」

 

「うっ……それも必要なんですよね?」

 

「武装のデータはある程度取れましたので、香澄さんはデータとか気にせずに戦ってください」

 

「わ、分かりました」

 

 

 自分がどう評価されているのかがイマイチ分かっていない香澄は、とりあえず体力を回復させるためにその場に座り込んだ。

 

「それで一夏さん、私と美紀ちゃん、どっちが先なの?」

 

「それは香澄さんに選んでもらってください。どっちにしろ二人とも戦うんですけどね」

 

「一人じゃないんですか!?」

 

「実力者と戦う事で、己を高めることが出来ますよ。実際、美紀だって刀奈さんや虚さんと特訓したから今の地位があるわけですし」

 

 

 元々の才能と、機体の性能のお陰も間違いなくあるのだが、美紀も努力せずに今の地位にたどり着いた訳ではない。そのことは香澄にも理解できたので、彼女は抵抗を諦めて二人と戦う決心をつけた。

 

「それじゃあ、四月一日さんからお願いします」

 

「何故美紀ちゃんからなの?」

 

「小鳥遊先生だと、何もできずに終わる未来しか見えない気がして……もちろん、四月一日さん相手でも同じかもしれませんが、無傷で世界を制した先生から相手にすると、四月一日さんと戦う気力が残らない気がしたので」

 

「まぁ、碧さんは私なんかより遥かに強いからね。日下部さんの判断は間違ってないと思います」

 

「どっちも強いんですけどね……それじゃあ、香澄さんの体力が回復し次第、美紀と戦ってもらいますね」

 

 

 何か美紀に耳打ちした一夏が気になった香澄だったが、それを知る術を彼女は持っていなかった。雑念を頭の中から追い出し、香澄は再びVTSの前に座り、先ほどのテスト機体を選択したのだった。




夏休み残り数日の方が、かなり濃い内容になりそう……

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