暗部の一夏君   作:猫林13世

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開発、製造担当ですからね……


新武装開発の追い込み

 開発に追われ、残りの夏休みの大半は研究室篭りが決定的な一夏は、今日も様々なデータを整理している。

 

「一夏さん、お昼買ってきました」

 

「あぁ、そこに置いておいてくれ」

 

「……実は今、私裸です」

 

「あぁ」

 

「……先ほど織斑姉妹が全裸で酒盛りをしていたので、碧さんに報告しておきました」

 

「あぁ」

 

「……聞いてませんね」

 

「あぁ」

 

 

 生返事しかしないので、嘘を言った闇鴉だったが、やはり一夏は生返事しかしなかった。それだけ開発に集中しているのだが、刀奈たちが心配している通り、一夏は一つの事に集中すると、他の事を疎かにする悪癖がある。

 

「というか、一夏さん朝ちゃんと食べました?」

 

「ん? いや、食べた記憶は無いな」

 

「……ちゃんと聞いてたんですか?」

 

「お前が裸じゃないのは分かってるし、織斑姉妹もこんな時間から酒盛りはしないだろう。あれでも教師だからな」

 

「じゃあ、最後の質問に生返事をしたのは?」

 

「相手しないと不貞腐れるだろ?」

 

 

 研究をしながらも、一夏は闇鴉の相手をするという考えは持っていたようだった。だが、その間も一切手を休めることなくキーボード上に指を滑らせていた。

 

「やっぱり、これを積むと連動が甘くなるな……かといって、これは更識の目玉商品として開発した楯だから、外すわけにはいかないし……かといってこの武装を外すと、この機体の特徴が生かせないし……」

 

「珍しいですね。一夏さんがIS開発で頭を悩ませるなんて」

 

「自分でテスト出来ないからな……」

 

「今までのは、全て自分でテストしていたのですか?」

 

「VTSにインストールして試してた。スサノオの武装だけはかなり疲れたけどな。今回のはその比じゃないし、何度もテスト出来ないのがキツイ」

 

「日本政府に手伝いを……無理ですね」

 

 

 一夏ですら苦戦するものを、日本政府の人間に出来るはずがないと、闇鴉はそう自己完結させた、その考えは実際正しく、おそらく束でも苦戦するものだと一夏は考えていた。

 

「せめてもう一割ほど連動が上手くいけば、香澄さんにテストを頼めるのに」

 

「今回は日下部香澄さんの専用機でしたか。戦力増強のためとはいえ、日本政府は更識企業を――一夏さんを頼り過ぎじゃないですかね。静寐の時もそうですが」

 

「仕方ないんじゃないか? 日本政府が期待していた倉持技研は、謎の倒産を遂げたんだし、他の企業もあまり芳しくない状況だからな……今いる候補生たちも、簪や美紀以外は一枚も二枚も劣るって刀奈さんが言ってたし」

 

「それは、刀奈さんが更識所属で、レベルの高い人たちに囲まれているから言える感想ですね。世間一般から見れば、刀奈さんと簪さん、美紀さんのレベルが高すぎるだけで、他の人も十分強いって答えますよ」

 

「その『世間一般』の考えじゃダメだから、戦力増強を急かされてるんだ」

 

 

 そう結論付けて、一夏は再びモニターに視線を固定した。今度は闇鴉が何を話しかけても、生返事すらしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みも終わりが近づき、帰郷していた人たちの姿も学生寮の中で見られるようになってきた。

 

「やっぱり日本の夏は暑いですわね」

 

「確かにね。向こうの方が涼しかったよ」

 

「アタシは中国だし、日本とあまり変わらないわね」

 

「久しぶりに軍の仲間と会えて楽しかったぞ」

 

 

 一人だけ違う感想だったが、一年生の海外組の姿も、ようやく寮で見られるようになった。

 

「お~、セッシーにシャルルンにリンリンにラウラウだ~! 久しぶりだね~」

 

「あら、本音さん。お元気でしたか?」

 

「毎日毎日特訓でくたくただよ~。まぁ、それ以外は元気かな~」

 

「あら、そちらは確か……日下部さんでしたっけ? 何やらお疲れのようですが」

 

「カスミンも一緒に織斑姉妹にしごかれてたんだよね~。ちなみに、シズシズやキヨキヨとカルカルも一緒に」

 

「新カリキュラムのテストも兼ねた特訓だったんだけど、初めの一週間はその倍以上のメニューをやらされてたから、疲れが抜けないのよ」

 

 

 静寐の返事に、ラウラを除く海外組は顔を顰めた。自分も日本に残っていたらそのメニューをやらされたのだろうと思ったのだろう。

 

「何っ! 教官にしごいてもらっただと!? 日本に残ればよかった……」

 

「何でがっかりしてるのか分からないけど、かなり大変だったからラウラウはドイツに帰って正解だったと思うけどな~」

 

「ところで、一夏は? 阿呆二人と更識企業で遊んでから中国に帰ったけど、あの後も大変だったんでしょ?」

 

「いっちーなら、日本政府からの要請で、新しい専用機製造に勤しんでるよ~。今回のカリキュラムに参加したキヨキヨかカスミンのどっちかに与えられるんだろうけども、多分カスミンかな~」

 

「わ、私はまだそれほどの実力は……」

 

 

 香澄が慌てて否定しようとしたところに、その後ろで黙っていた清香が口を挿んだ。

 

「いやいや、私より成長してるし、一夏君が考案した新武装は、私には使えないから」

 

「私だって確実に使える保証は何処にも……」

 

「あっ、ここにいた」

 

 

 香澄の言い訳の最中に、目の下に隈を作った一夏が声を掛けてきた。

 

「一夏さんっ!? その隈はどうしたんですの?」

 

「ん? あぁ、もう夏休みも終わりなのか……道理で眠いはずだ」

 

「どういうこと?」

 

「五日ほどまともに寝た記憶がない」

 

「寝なさいよ! いくらあんたは頭脳労働が専門だからって、いざという時はって……頭脳労働が専門だからこそ、睡眠はしっかりとりなさい!」

 

「これが終わったら寝る。それより、香澄さんにテストしてもらいたいんだけど」

 

「いっちー、寝てからの方が良いよ」

 

「……そんなに酷いか?」

 

 

 一夏の問いかけに、その場にいた全員が頷いた。一夏は周りの判断に従い、部屋に戻って寝ることにしたのだった。




一夏も研究者タイプになってきたな……

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