サイレント・ゼフィルスの整備を見学している箒の背後に、スコールとオータムがやって来た。
「じっくり見てても、整備は早くならないわよ」
「あれを軸にして、亡国機業の方で訓練機を造れないか模索するらしいしな」
「技術があってもコアが無いでしょう。その問題はどうするんですか？」
「うちの組織は、劣化型なら造るれる技術があるからな。訓練機レベルなら問題なく造れる」
「VTSだけじゃ、実機の感覚は掴めないものね。それこそ、更識の上層部でも捕まえて手伝わせなきゃ無理だもの」
幹部二人の意見に、箒は幼馴染の言葉を思い出していた。
「ISにも感情があるとか、そんなことを言っていたヤツがいたんですが、お二人はどう思いますか」
「感情とかは知らねぇが、こいつの機嫌が悪い時はなるべく突っ込まないようにしてるぜ」
「SHが聞いたセリフ、一夏の口癖でしょ。あの子が言うなら間違いないでしょうし、実際にあの子はISの声が聞こえるらしいからねぇ……あまり無茶するとISが動かなくなる可能性は否定できないわ」
「私は学園にある訓練機の殆どが反応しない事態に陥りました。それは一夏が私に嫌がらせをしてると思ってたのですが、そっちはどう思います？」
「一夏とかいう餓鬼が、お前に嫌がらせしてなんか得があるのか？」
「情報提供者の話では、貴女が単純にISから嫌われていただけだって報告を受けてるけど」
一夏一人に言われるだけでは納得できなかった箒も、この二人まで同じ意見だとさすがに考えざるを得なかった。
「つまり、私がISに嫌われていたと……だが、嫌われた原因は何ですか？ 私は普通にしていたはずですが」
「負けたのは訓練機が悪い、とか思ってたんじゃねぇの？」
「己の実力不足を棚に上げて、機体の所為にしてたんじゃ嫌われるわよねぇ」
二人の意見は、奇しくも一夏が箒に言っていたことと同じだった。一夏に固執するあまりに、彼の周りにいる女子を叩きのめそうと勝負を挑み、あっさりと負けたのを機体の性能の差だと言い訳をし、同じ機体を使えば勝てると思い込んだ所為で、ますます一夏との距離は開いていっていたのだが、そのことを認めようとしなかった。
それが今の現状だと、箒は今更ながらに理解し、そして心に誓ったのだった。
「成長した私の姿を見せれば、一夏も私の事を認めてくれるはずだ！ よし、さっそくトレーニングだ！」
一人息まいてVTSが置いてある部屋に向かう箒を、スコールとオータムは苦笑いを浮かべながら見送った。そしてその姿が見えなくなってから、オータムがスコールに問いかける。
「アイツが成長した姿を見せたところで、その一夏とかいう餓鬼がアイツを認めると思うか？」
「あり得ないわね。裏組織に身を落とし、イギリスから強奪したISを専用機として使ってる時点で、一夏が認めるはずないもの。それに、SHの成長は一夏にとっては想定内のものでしょうし、それ以上の成長をあの子がするとも思えないもの」
「やっぱりMを連れ戻した方が良かったんじゃねぇか？ アイツならビットも難なく使えただろうしよ」
「一夏に会う前ならまだしも、今のMじゃ戻ってこないわよ。織斑姉妹と篠ノ之束を恨んでいたMは、もういないのよ」
マドカの中にあった誤解を増幅し、束と織斑姉妹を暗殺させるつもりだったのだが、その情報を一夏に掴まれ、それを逆手にとって仲直りさせられてしまった時は、スコールは本気で後悔した。マドカに任せずに自分でやれば、戦力を失うことは無かったのではないかと。
「まぁいいや。あの気に食わねぇMの顔を見なくて済むんだからな」
「あら、貴女たち仲良かったんじゃなかったの？」
「そんな訳ねぇだろ！ 大体オレは、アイツの自分の才能を認めようとしねぇ姿勢が大っ嫌いだったんだよ」
「貴女は苦労してISを動かせるようになったのに、あの子は簡単に動かしたものね。やっぱりDNAって偉大よね」
「最強の姉二人と、世界で唯一ISを動かせる兄、その遺伝子なら間違いなく優秀だろうに。昔から比べられる基準が高すぎたのもあんだろうけど、いい加減自信を持てと思ってたぜ」
マドカの話題で思い出したのか、スコールが小さく手を叩いてオータムに笑みを見せる。その笑みがなんとなく不気味で、オータムは少し身構えた。
「な、何だよ……」
「今度IS学園で文化祭があるらしいのよね。そこで貴女にはIS学園に潜入してほしいのよ」
「はっ？ IS学園て一般客は入れてねぇんじゃねぇの？」
「今年は餌が良いから、入場者数を稼げるって思ってるんじゃないの？」
「餌？ あぁ、更識一夏とその周りの連中か」
「そうよ。日本代表の更識刀奈、その妹で候補生の簪とそのペアの四月一日美紀。布仏虚だけでも十分客は呼べるでしょうけど、一夏一人と比べれば個々が弱いって思えるほどでしょうね」
目的は偵察だろうと理解したオータムだったが、いくら一般客を招き入れるといっても無尽蔵に入れるとは思えなかった。
「でもよ、入るには招待券とかが必要じゃねぇのか？ オレを招待する物好きがいるとは思えないんだが……」
「馬鹿ね。レインに招待券を用意させるわよ」
「てか、アイツが調べれば良いだろ。何でオレが……」
「あの子は学生としての仕事があるでしょうからね。不審に思われるのはよくないわよ。はい、巻紙礼子の衣装」
「またやるのかよ！ あれ面倒なんだぞ！」
オータムの抗議も空しく、スコールの中ではオータムが潜入捜査をすることが決まってしまったのだった。
散々言われてた事だろうに、今更理解したのか……