暗部の一夏君   作:猫林13世

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一応説明しておかないと、女の子たちが納得しないでしょうし


武装の説明

 シャワー室で汗を流した一夏を待ち構えていたのは、ISスーツから着替えもせず、汗も流していない織斑姉妹だった。

 

「な、なんでしょう……」

 

「一夏、何故私の攻撃を全て避けることが出来た。前までのお前は、あそこまで正確に相手の動きを読むことが出来なかったはずだぞ」

 

「わたしの不意打ちも完璧に躱しただろ。完全に隙を突いたと思ったのだが」

 

「説明してもいいですが、その前に着替えたらどうです? いくら貴女がたが人間離れした体力の持ち主だといっても、そのままでは風邪をひきますよ」

 

 

 一夏の記憶の限りでは、織斑姉妹が風邪をひいたり、体調を崩した事など無いのだが、常識的に考えての忠告だった。

 

「一夏はお姉ちゃんを心配してくれるのか」

 

「優しい弟だ。よし、頭を撫でてやるからこっちにこい」

 

「お断りします。ちょうどシャワー室の前にいるんですから、汗だけでも流してきたらどうですか」

 

 

 織斑姉妹の横を通り過ぎながら、一夏は捨て台詞のようにそんなことを言う。

 

「だが私たちは着替えを持ってきてないぞ」

 

「別に全裸でもわたしたちは構わないがな」

 

「気にしてください……戸籍上は姉弟とはいえ、ほぼ交流の無い相手の裸を見たくはありませんので」

 

 

 今度こそその場を去っていった一夏を見送った織斑姉妹は、とりあえず部屋に戻って着替えを取りに行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一夏の動きが気になっていたのは、何も織斑姉妹だけではなかった。部屋に戻って来た一夏を出迎えたのは、何時ものメンバーにナターシャらを加えた、あの試合を見学していた人と、一緒に戦った碧だった。

 

「随分と大所帯ですね……」

 

「一夏君の動きが鋭すぎたのが気になったのよ。ドーピングでもしてたんじゃないかって」

 

「そんなことしませんよ。新武装を試してただけです。そのせいでかなり疲れましたが」

 

「新武装? 確か一夏さん、デュノア社でも開発させてましたよね? それとは違うんですか?」

 

 

 企画の大半を知っている虚が一夏に尋ねると、刀奈と本音が興味津々の目で一夏を見る。

 

「その新武装って、私たちも試していいのかな?」

 

「面白そうな武装なら、VTSでも使いたいな~」

 

「今日試したのを使えるのは、多分香澄さんだけでしょうね。俺でも厳しいくらいの情報量でした」

 

「私、それほど脳内処理が早いわけじゃないですけど」

 

「相手の本音が読める、つまり気持ちが分かるだけで、余計な情報はカット出来ますからね」

 

 

 そこまで話したところで、ようやく織斑姉妹が部屋にやって来た。

 

「一夏、説明を求める」

 

「何だ、お前たちもいたのか」

 

「遅かったですね。まぁ、今話した通り、今日試してたのは先の動きを見ることが出来る武装だ。まぁ、数十から数百のパターンから正解を導き出すため、かなり脳に負担がかかるのが難点ですが」

 

「つまり、一夏君が使えば数百パターンの未来が、日下部さんが使えば数パターンの未来になるって事かしら?」

 

 

 静寐の問いかけに、一夏は満足そうに頷く。すべてを説明する前に理解してくれる静寐の存在は、一夏にとってとてもありがたかった。

 

「まだ試作品だから数百ものパターンがあるが、俺が使っても三十~五十の間に出来れば、香澄さんなら二、三パターンで済むだろうからな。無論、完成したらVTSでテストしてもらうが」

 

「じゃあじゃあいっちー、私が使ったら、どれくらいの未来が見えるの~?」

 

「本音だと数百で済むかどうか……いや、野生の勘があるから必要ないだろ。未来なんて見なくても、お前は攻撃を躱すことが出来るんだから」

 

「おね~ちゃんや刀奈様のは無理だよ~? あと、碧さん相手じゃ逃げる間もなくやられちゃうし」

 

「それは俺も同じだ。さらに俺は、お前や簪、美紀相手でも躱すのが精いっぱいで反撃など出来ん」

 

 

 そこまで説明したところで、一夏の携帯に着信を告げるメロディーが流れた。

 

「ちょっと失礼……はい、更識です」

 

『いっくん、あの武装のデータ、束さんにもくれないかな~?』

 

「また覗き見してたんですか? あれはまだテスト段階ですので、束さんにも教えるわけにはいきませんよ」

 

『マドマドとは別のテストパイロットを手に入れたから、その子で試そうと思ってたのに~。まぁ、家事の一切をやってくれてるから、その子でテストするつもりはあまりないけどね~』

 

「どっちなんですか……てか、まだ自分で家事をするつもりが無いんですか?」

 

『あるわけないよ~。あんなこと、束さんがする事じゃないしね』

 

「全国の主婦と主夫の方々に謝れ! てか、マドカから聞きましたが、束さんのラボは足の踏み場がないらしいですね」

 

 

 マドカからの情報だと一夏が告げると、通話が切れて今度はマドカの携帯が鳴った。

 

「はい……ですから束様、ご自身でお掃除などをした方が良いと申し上げたはずです。いくらクロエ様が料理以外が得意であってもです……え? はい、分かりました……」

 

 

 何かを言われたのだろう。マドカは一夏に気まずそうな表情を見せた。

 

「どうかしたのか?」

 

「兄さまに代わってほしいと。最後に言いたいことを言い忘れたとかでして……」

 

 

 マドカから手渡された携帯で、一夏は束の言い訳を聞くつもりだった。

 

『言い忘れてたけど、あの武装は世に出しちゃダメだよ? 便利すぎる物は人を堕落させるからね』

 

「既に堕落してる貴女に言われたくはないでしょうね、あの武装も」

 

『ひど~い! まぁ、忠告はしたし、いっくんならそんなことしないって信じてるからね。それじゃ~ね!』

 

 

 言いたいことを一方的に言って、束は通信を切ったのだった。一夏はため息を一つ吐き、携帯をマドカに手渡したのだった。




やはり織斑姉妹は変態だった……

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