暗部の一夏君   作:猫林13世

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さすがにやり過ぎでしょう……


一夏の逆鱗

 二学期からの新プログラムのテストとして、一週間織斑姉妹の指導を受けている本音たちは、IS操縦技術だけでなく体力面でも成長していた。

 

「たった一週間でグラウンド十周を軽々クリアか」

 

「初日は布仏妹と日下部は二周でダウンしてたが、見事な成長だな」

 

「毎日あれだけやらされれば、嫌でも成長しますよ……一夏君に怒られない程度で厳しくするなんて、千冬さんと千夏さんも一応は学習してるんだなって、さっき一夏君が言ってました」

 

「なに!? 一夏がわたしたちを褒めていただと! 今すぐ一夏のところへ行かなくては!」

 

「褒めては無かったと思いますけど」

 

 

 都合の良い脳内変換をした千夏に、刀奈のツッコミが入る。だが織斑姉妹にとって、一夏以外の事は些末事に等しいので、そのツッコミは千夏には届かなかった。

 

「千冬、今すぐ一夏のところへ行くぞ!」

 

「それは構わないが、誰が監視するんだ? 褒められに行って、怒られるのは避けたいぞ」

 

「そんなの、そこで見学してるナターシャと、どうせどっかにいる小鳥遊に任せればいいだろ」

 

「それもそうだな。よし、今すぐ一夏のところへ――」

 

「俺が、何です?」

 

 

 任務を放り出して一夏のもとへ行こうとした二人の背後に、目的の人物が現れた。喜びにあふれた表情で振り返った二人が見たものは――

 

「誰がグラウンド十周させろとお願いしました? 貴女たちは全学生に十周させるつもりだったんですかね? 俺は確か三周と指示したはずなんですが」

 

 

――指示以上の指導をしていた事に対して、怒りを露わにしている一夏本人だった。

 

「えぇ!? いっちー、それ本当?」

 

「ああ。さすがに十周なんて指示するわけないだろ。静寐やエイミィならともかく、本音や香澄さん、相川さんがそれだけ走れるとは思ってない」

 

「私たちも結構ギリギリなんだけどね……」

 

「一夏君に期待されてるのは嬉しいけど、私も静寐と同意見……初日から五周させられた時は『一夏君の鬼!』って思ったけど、まさか織斑姉妹の独断だったとは……」

 

 

 次々に出てくる不満に、織斑姉妹はつい声を荒げそうになったが、一夏が視線だけで二人を制した。

 

「小鳥遊先生やナターシャさんに、指導内容を教えていなかったとはいえ、お二人は不思議に思わなかったんですか?」

 

「これでも半分だ! とか言ってましたから、最初から十周走らせないだけマシなのかな? とは思いましたけども……まさか織斑姉妹基準の半分だとは思いませんでした」

 

「私もです。候補生やそれに準ずる実力の持ち主なら、それくらいが普通なのかなって……」

 

「はぁ……道理で想定より成長の速度が速いはずだ……指示したメニューの三倍近い事をさせてるんだから……」

 

 

 右手で頭を掻きながら、一夏はため息と共に納得したように頷いた。

 

「これからは数日、五人には休日を与えます。その代わり、織斑姉妹には五人がやっていたメニューの五倍のメニューを課しますので、しっかりとこなしてくださいね」

 

「えっと、五倍って事は……グラウンド五十周!?」

 

「その後、重り付き校舎周り五周に、瞬間加速訓練を二時間半、模擬戦五十回……」

 

「想像するだけで嫌になってきたよ~」

 

「……なんだそのメニュー、俺も知らないぞ」

 

 

 一夏が予定していたのは、グラウンド三周と瞬間加速訓練を二十分、そして模擬戦を総当たりだけだったのだが、何か知らないメニューまで増えていたのだった。

 

「重り付き校舎周りって、歩くのか?」

 

「ううん、グラウンドを走り終わった流れで重りをしょって、校舎周りを一周走るんだよ」

 

「……よく疑問に思わなかったな」

 

 

 鬼畜と称されることが多くなってきた一夏だが、そこまで苛め抜くメニューを組むほど鬼畜ではない、と自分では思っている。

 

「だって、刀奈様が普通にやってのけたから、代表になるにはこれくらい必要なのかな~って」

 

「刀奈さん!」

 

「ひゃうっ! だ、だって……千冬さんと千夏さんにやれって言われたから……それに、一夏君の組んだメニューだと思ってたから……」

 

 

 刀奈の証言で、一夏の堪忍袋の緒が切れた。まさか自分の名前を出して、必要以上のメニューを課してたなど、一夏の逆鱗に触れたのだった。

 

「千冬先生、千夏先生……俺と模擬戦をしてください」

 

「な、なに!? 一夏と模擬戦だと」

 

「だが一夏、わたしと千冬はペアだ。さすがのお前でも一対二では勝ち目はないだろう?」

 

「誰が俺一人だと言いました? 小鳥遊先生、お願いします」

 

「えっ、私? 現役の刀奈ちゃんの方が良いんじゃない?」

 

「刀奈さんでは、織斑姉妹に傷を負わせる前に終わってしまいますよ」

 

「酷いっ!? でも、当たってるかもしれない……」

 

「もちろん、俺一人でも勝てる見込みなど皆無です。ですが、碧さんならある程度は対抗出来ますよね?」

 

 

 教師としてではなく、自分の護衛役に対する信頼だと、一夏は呼び方でそう伝えた。それが理解できない碧ではない。

 

「分かったわ。でも、一夏さんは大丈夫なんですか?」

 

「ここに来た目的を果たそうと思いましてね。俺が使えれば、少し改良するだけで全ての人が使えると思いますし」

 

「それはどうだろう……一夏君も、なかなか人外な動きをするし」

 

「それでも、刀奈さんには完封されますけどね」

 

「そりゃ、現役の日本代表だもの。一夏君に後れを取るようじゃ、活躍は出来ないもの」

 

 

 こうして、急遽決まった一夏&碧ペアVS織斑姉妹ペアの模擬戦を観戦しようと、バテバテだった五人と刀奈、そしてナターシャはアリーナへと移動したのだった。




実は体の良い模擬戦相手なんですけどね……

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