暗部の一夏君   作:猫林13世

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すぐに思考が科学者モードに……


マッド一夏

 鈴たちを見送った後、一夏は一人筐体の置いてある部屋で考え事をしていた。

 

「あそこまで熱中するとは思わなかったな……俺が部屋を抜け出していたことも気づかないとは」

 

「それだけ、お友達が楽しみにしていたんではないですか?」

 

「あぁ、美紀……来てたのか」

 

「護衛ですから」

 

 

 気配を消して陰から見守っていた美紀だったが、三人が帰ったので堂々と姿を現した。あくまで護衛であって、一夏のプライベートには介入しない決まりなのだ。

 

「美紀からみて、あの三人の操縦技術はどうだった?」

 

「凰さんは、さすが候補生という感じでしたが、男性お二人はやはり雑ですね……難易度が低かったのと、凰さんのお陰でクリアしていた面が大きいと思います」

 

「まぁ、アイツらは普段ISに触れる機会なんてないからな……この前は二時間待ってワンプレイしか出来なかったとか言ってたし」

 

「物凄い人気らしいですからね。私はゲームセンターに行かないので分かりませんけど」

 

「俺もだ。そもそも学園に本家VTSがあるからな。わざわざゲームをしに出かける必要も無いし」

 

「ところで一夏さん、開発部に何の御用だったんですか?」

 

 

 美紀は一夏が部屋から抜け出して、何処に向かったのかも知っているが、そこで何をしていたのかまでは知らない。いくら美紀でも、開発部の中に入ることは許されていないのだ。

 

「亡国機業の戦力が上がった事で、日本政府から戦力の拡大を急かされてるんだよ。今のところ候補者は香澄さんか相川さんのどちらかなんだが……成長著しい香澄さんの方が良いかなって思って、彼女の特性にあったIS武装を開発してるところなんだ。さっき開発部に行ったのは、その打ち合わせだ」

 

「ですが一夏さん、今日は完全オフじゃなかったでしたっけ?」

 

「本社にいて、発案者の意見も聞きたかったんだろ。てか、ここの人たちは俺がトップであることを知ってるからな。完全なオフなんてないさ」

 

「責任者の務め、というやつですか? たまにはお父さんに任せてゆっくりした方が良いですよ。ただでさえ一夏さんは休まないんですから」

 

 

 ため息交じりに美紀がそう呟くと、一夏は苦笑いを浮かべる。実は尊も大して休めているわけでもなく、更識企業の表のトップも裏のトップも、休みなく働いているという事実を知っているからだ。

 

「それで、香澄さんの特性ってどんなのです?」

 

「人間だけでなく、ISの感情を読み取る彼女なら、数秒単位なら未来視が出来るんじゃないかって思ってな。敵の動きを予想して展開するバリアを考えてみたんだが、どうにも実用に耐えうるものが出来ないと報告があったんだよ。それで、少し改良を加えて再テストをして、ようやく実戦テストにまでこぎつけることが出来るらしい」

 

「誰がテストするんですか?」

 

「俺だろうな。虚さんには頼めないし、俺なら本音たちの特訓に混ざってテストすることも容易だしな」

 

「そのバリアは、SEは消費しないで使えるんですか?」

 

「展開するだけだからな。武器を出すように、バリアを張るだけだ。SEは消費しない」

 

「完成すれば最強の盾になりますね」

 

 

 美紀は手放しで喜んでいるが、一夏はそれほど嬉しそうではなかった。一夏の反応に疑問を覚えた美紀は、何か問題点があるのかと首をかしげたのだった。

 

「展開するのに、少し時間がかかるのが難点なんだよな……人間の予知だけじゃ間に合わないかもしれないから、ISにも未来視の機能を……いや、そんなの造れる道理が無いし……いや、伝承に在ったあの存在を用いれば行けるのか? ……でも、あんなのどうやって再現すれば……」

 

「……一夏さん?」

 

「ん? あぁ、すまない……どうも考え出すと止まらなくてな。問題点は山積みだが、とりあえず実戦テストにまでこぎつけたからな。完成はさせたいと思ってるが……『楯無』の俺が盾を使うのは、なんか皮肉っぽいけどな」

 

「表世界では『一夏さん』ですし、問題は無いと思いますよ。更識縁者も気にしないと思いますし」

 

「まぁ、あくまでテスト品だし、深く考える必要はないか……」

 

 

 美紀にそう答えた後、一夏はまた思考を巡らせ、自分の世界へと入っていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 香澄の成長速度をグラフに現したものをモニターに表示し、一夏は専用機の設計図を作っていた。やりたいことはいくらでもあるのだが、キャパシティーの問題や予算の問題が現実にはある。いくら更識企業の名目で専用機を造ると言っても、無限に予算が採れるわけではないのだ。

 

「コアは問題なしだが……あれを造るとなるとかなりの予算がかかるし……デュノア社で開発してたアレも実戦テスト段階まで進んだから、本格的な予算組みをしなければならないし……VTSも本来の目的でもだが、ゲームとしても需要が増えたから、利益にはなっているあれを一個作るのには結構な予算がかかる。儲けがすぐ手元に来るわけじゃないしな……」

 

「一夏君、独り言が多いわよ……」

 

「あぁ、刀奈さんいたんですか」

 

「酷いっ!? せっかく心配で見に来てあげたのに」

 

「何か問題でも?」

 

「おかげさまで、千冬さんも千夏さんも絶好調で問題だらけよ。暴走を止める私たちの事も考えてよね」

 

 

 代表の合宿も終わり、残りの夏休みを学園で過ごすことになった刀奈たちは、織斑姉妹が担当している特訓の監視の役目を仰せつかったのだった。

 

「まぁ、やり過ぎない程度には学習してると思いますよ。結果がこれですからね」

 

 

 香澄の成長具合を刀奈に見せ、一夏は苦笑いを零した。

 

「もうちょっと頑張ってくださいね、刀奈お姉ちゃん」

 

「! うん、頑張る!」

 

 

 一夏に昔の呼び方をされ、刀奈は気合を入れてアリーナへ戻っていったのだった。




最強の切り札、昔の呼び方……

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