暗部の一夏君   作:猫林13世

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口調が分からない……


疑わしい先輩

 碧に腕をひねりあげられたダリルは、いとも簡単にその拘束から抜け出し、不敵な笑みを碧に見せた。

 

「いきなりひねりあげるなんて、随分なご挨拶ですね、小鳥遊先生?」

 

「更識君にはいろいろと事情があるのよ。ほぼ初対面の貴女が抱き着けば、ほぼ間違いなく更識君はパニックを起こしたでしょうしね」

 

「別にやましい気持ちはありませんわ。純粋に、更識君にお近づきなりたかっただけですのに」

 

 

 白々しい態度で碧の追及をかわすダリルを、一夏はそれとなく観察していた。

 

「(アメリカの候補生と言うだけあって、かなり鍛えられているな……三年だと言う事を差し引いても、本音といい勝負が出来るくらいの実力者だ。だが、そんな実力者の彼女が、何故俺に近づいてきた? すでに専用機も持っている彼女が、今更更識の技術力が欲しいと言う事も無いだろうに……)」

 

「そんなにお姉さんの胸が気になるのかしら?」

 

「え? あ、いえ……失礼ながら、先輩の実力を測っていました。じろじろと見つめてしまったのは、素直に謝罪します」

 

「良いわよ、別に。外に出れば、もっとあからさまの視線の方が多いのだから」

 

「それは、ダリルさんが露出度高めの服を着ているからでしょうに」

 

 

 碧のツッコミには取り合わず、ダリルは懲りずに一夏との間合いを詰める。

 

「それで、更識君の事情って何なのかな? 不当に拘束されかけたんだから、私にも聞く権利があると思うんですがね、小鳥遊先生?」

 

「生徒会長の更識さんが公言している通りよ。一夏さんは過去の出来事で、女性恐怖症と人間恐怖症というトラウマを抱えているの。特に、大人の女性相手だと最悪逃げ出しそうになるくらいにね」

 

「そこまで酷くないですよ」

 

 

 苦笑いを浮かべながら、一夏は力ないツッコミを入れる。それが強がりであることは、言った一夏本人が一番理解しているのだから。

 

「そうなんだ。でも、私と更識君は二つ違い。小鳥遊先生より年が近いのですけどね」

 

「私と一夏さんは古い付き合いなの。だから、初対面の貴女より、よっぽど距離を詰められるのよ」

 

「何を張り合ってるのか分かりませんが、先輩は俺に何の用だったんですか? わざわざ気配を殺してまで近づこうとしたんですから、それなりの用があったんですよね?」

 

 

 実は一夏は、あの誰何以前からダリルの気配には気づいていた。だが碧が尾行していたのにも気づいていたので、あえて気づかないふりをしていたのだ。だが、気配の質が変わったのを木霊から闇鴉を通して報告されたので、捨て置けないと判断し声を出したのだ。

 

「VTSで私の専用機を使えるようにしてほしいな、って思って声を掛けようとしただけよ」

 

「それでしたら、普通に声を掛ければよかったのでは? わざわざ気配を殺し、碧さんの尾行に気づかないふりまでした意味は何でしょうか? そして、あえて腕をひねりあげさせたのにも、意味があるのですよね?」

 

「すごい観察眼ね。純粋に貴方がどれくらい『出来る』のか調べたかったってのもあるわね。何せあの『更識企業』に所属する男の子ですもの。並大抵の実力じゃない事は知ってたけど、どこまで出来るのかも気になっちゃったのよ。小鳥遊先生にひねりあげられたのも、先生が本気じゃないって分かってたから。それだけよ」

 

 

 ダリルの言い訳の間、一夏は一瞬たりともダリルから視線を外さなかった。嘘を吐いても、一夏には一瞬で判断するだけの観察眼がある。それを隠そうとすれば、余計な力がかかり、ぎこちない動きになってしまう。

 だがダリルは、一切の無駄がなく言い訳を終えた。言い訳を終えたのと同時に、一夏はダリルから視線を外し、小さく息を吐いた。

 

「もし今のが嘘だったとしたら、貴女は嘘を吐くことに慣れ過ぎている、と言う事になりますね」

 

「どういう事かしら?」

 

「息を吐くように、貴女は嘘を吐けると言う事ですよ。まぁ、褒め言葉だと思ってください」

 

 

 一夏の言葉の意図が掴めず、若干引きつった笑みで応えたダリルだったが、すぐに先ほどまでの余裕の笑みを浮かべだす。

 

「VTSの件は了解しました。日を改めて、先輩の専用パスワードを作成させていただきますよ。それから、俺の実力は、先輩が気にするほどのものじゃありません。過大評価し過ぎですよ」

 

「そうかしら? でも、あの布仏まで認める実力者なんでしょ? 過大評価だなんて思えないんだけど?」

 

「虚さんの評価は知りませんが、少なくとも俺は、更識所属で一番弱いですよ。新たに所属した、シャルやエイミィ、静寐にも勝てないかもしれません」

 

「そんなことは無いんじゃない? 貴方の専用機である『闇鴉』の特性を使えば」

 

「何処で見たのかは知りませんが、俺は戦闘が得意じゃないんです。闇鴉の特性を使えば勝てるかもしれませんけども、そもそも戦うことを前提に物事を考えたくないです」

 

「面白い考えね。まぁ人それぞれだものね。じゃあ更識君、VTSの件はよろしくね」

 

 

 約束を取り付けた事で満足したのか、ダリルはそのまま一夏の横を通り過ぎる。すれ違いざまに、碧には聞こえない声で話しかけた。

 

「何なら、今度は直接見せてあげてもいいのよ?」

 

「何をです?」

 

「この胸よ」

 

 

 一般男子みたいに興味津々ではないが、その分耐性が低い一夏は、その言葉だけで気を失いそうになる。バランスを崩した一夏を、碧が素早い動きで抱きかかえ、ダリルに声を掛ける。

 

「一夏さんに何を言ったの?」

 

「別に。先生には関係ありませんわよ」

 

 

 それを最後に、ダリルは本当にこの場から去ったのだった。




セシリアとスコールを足して二で割った感じになったな……

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