暗部の一夏君   作:猫林13世

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一夏と束がいる日本が有利なんですけどね……この二人は日本には興味ないですし……


開発戦争

 モンド・グロッソが近づいてきたが、一夏は一向に研究所から姿を見せない。既に碧の専用機は完成させているのにも関わらず、最近では学校以外の時はこの部屋で過ごす事が多くなっている。

 

「一夏殿、少し休まれた方がよろしいのでは」

 

「大丈夫だよ。それに、何時また自由が無くなるか分からないんだから、出来るだけ研究を進めたいんだ」

 

「ですが、お嬢様たちが心配しておられますし、本音殿は一夏殿と遊べなくて寂しがっております」

 

「そう……じゃあ偶にはみんなと遊ぼうかな。研究も行き詰っちゃったし」

 

 

 木霊という第二世代ISを完成させた一夏だが、彼はあくまでも先を目指し続けている。汎用型の第二世代ISを造れないかと模索し、ある程度の目処は立っているのだが完成にはいたっていない。気分転換も兼ねて、一夏は学校以外で久しぶりに研究所から出る事にした。

 

「あっ、一夏君!」

 

「刀奈ちゃん? なにしてるの、こんな場所で」

 

 

 一夏が外に出てすぐに、刀奈と遭遇した。刀奈たちの部屋はこの場所から離れた場所であり、刀奈たちが研究所を訪れる理由は、一夏が知る限り無い。

 

「一夏君が心配だったに決まってるでしょ! 何日も、何時間も研究所に篭って、出てきたと思ったら学校に行っちゃうし……」

 

「一夏が私たちの事を嫌いになったんじゃないかって、お姉ちゃんや本音が毎日心配してたんだよ?」

 

「そうだったんだ……ごめんなさい。ISの研究も大事だけど、刀奈ちゃんたちの方がもっと大事だよ、僕は。だから今日はいっぱい遊ぼう」

 

「ほんと? おりむ~は私たちの事を大事だって思ってくれてるの?」

 

「うん。だから、そんなに泣きそうな顔をしないでよ」

 

 

 泣きそうな本音の頭を優しく撫でながら、一夏は安心させるように笑顔を浮かべる。本当は疲れ切っているのだけども、今まで心配させた罰だと自分に言い聞かせて遊ぶ事にした。

 

「一夏さん、今はどんな研究をしているのです?」

 

「今は更識内で使う訓練機、第二世代で造れないかどうかの研究をしてるんだ。まだ実用に耐えうる機体は出来ないんだけどね」

 

「第二世代!? まだ第一世代もまともに造れてない状況なのに、一夏君は何処まで凄いのよ」

 

「そう言えば、碧さんに造った専用機も第二世代なんですよね? 一夏さんは私たちと同い年なのに……世界的な研究者になれますね」

 

「僕はあくまでも更識内で研究をしてるんだよ。世界がどうこうより、僕はみんなと一緒にいたい。これからはちゃんと研究以外も充実させたいと思ってる」

 

 

 数週間とはいえ、刀奈たちを蔑ろにした事を反省し、一夏は改めて宣言する。自分は更識で生活する事と、更識の為にISを造ると言う事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開催日が近づくにつれて、それぞれの国の代表者たちが顔を合わせて行く。どの国も警戒しているのは日本代表であり、織斑姉妹ペアは特に警戒されている。

 

「凄いわね、貴女たちは。どの国の代表からも警戒の目を向けられてる」

 

「興味は無い。どうせ我々より強い相手など存在しないのだからな」

 

「過信や慢心ではないが、やるだけ無駄な大会になると思うぞ」

 

 

 前評判から、個人戦もペア戦も日本が有利と言われている。篠ノ之束が造った専用機を使用する織斑姉妹と、第二世代ISを専用機とする小鳥遊碧の事は、何処の国も警戒の対象としているし、特に碧の専用機である『木霊』は、何処の国も未だに第一世代をまともに造れない状況での第二世代だ。警戒されない方がおかしいのである。

 

『注目されるのはいいですが、不特定多数の人間に舐めまわすように見られるのは嫌ですね』

 

「(仕方ないでしょ。貴女は現在世界中を見渡しても唯一の第二世代。注目するなと言う方が無理よ)」

 

『一夏さんの努力の結晶ですからね。有象無象の輩が造れるほど、今の第二世代は甘くないですよ』

 

「(貴女の毒舌は誰に似たのかしら……)」

 

 

 他の人間には聞こえないからいいが、木霊の毒舌には碧は頭を悩ませていた。聞かされる身になれば、木霊の毒舌はかなり精神的にダメージを負うのだ。

 

『だいたい、私の許可なく触ろうとするなんて、電撃を喰らわされて当然だと思うのですが』

 

「(確かにあれは仕方なかったけど、私にまでダメージが来たんだけど?)」

 

『大事の前の小事ですよ。気にしちゃダメです』

 

「(小事じゃないわよ! 結構痛かったんだから)」

 

 

 何処の国の人間だかは分からなかったが、碧の意識が別の場所に向いているのを良い事に、無断で木霊に触ろうとした輩が存在していたのだ。自己防衛から木霊は電撃を放ったのだが、その電撃が所有者である碧のも伝わったのだ。

 

『あれは完全に私を奪って研究対象にしようとしてましたね。手の感覚で分かるんですから』

 

「(貴女が奪われたら、私は大会に参加出来ないし、もしかしたら一夏君がISのコアを造れるって知られちゃうかもだったから、電撃は有効だったと思うわよ。でも、一言私に言ってから放ってほしかったわよ。そうすれば私も構えられたかもしれなかったのにさ)」

 

『碧の意識が変質者に行ってしまったら意味が無かったんです。あれはあの変態に己の行動が攻撃対象になると言う事を伝える為の攻撃だったんですから』

 

「(それで、何処の国の人間だったかは分からなかったのよね)」

 

『一瞬でしたからね。男だったとは思いますが……おそらくは北欧辺りの人間だったと思います』

 

「(北欧ね……イギリス辺りかしら)」

 

 

 IS開発戦争から、既にこぼれ落ちそうな国は多々あるが、北欧となると限られている。碧はイギリス代表に視線を向けながら、そんな事を考えていたのだった。




しばらくしたら、また時間を飛ばす予定です

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