暗部の一夏君   作:猫林13世

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しれっとオリキャラを登場させました。まぁ、前作のキャラなんですけどね……


更識家の面々

 暗部更識家。織斑一夏が保護されているこの屋敷には、二人の娘とその二人のメイドである二組の姉妹と、遠縁に当たる少女の五人が一夏の相手を任されていた。

 まず更識家の長女、更識刀奈。次期当主候補筆頭である彼女だが、暗部の娘とは思えないほど明るく、妹を溺愛している。

 次に更識家次女、更識簪。姉の刀奈と比べられる事を気にしているが、それ以外では姉との仲は良好。若干少女趣味で、ヒーローに憧れている。

 更識刀奈のメイドで、更識家に仕えている布仏家長女、布仏虚。まだ若いながらもしっかり者で、五人の中で最年長。みんなのお姉さん的存在だが、意外と打たれ弱いメンタルの持ち主。

 更識簪のメイドで、布仏家次女、布仏本音。刀奈より明るい性格で、何となくボンヤリしている雰囲気を纏っている。姉の虚とは違い、簪の事を主ではなく友達だと思っている節が見られる。

 更識の遠縁で刀奈と並び次期当主候補、四月一日家の一人娘、四月一日美紀。自分に自信が持てない性格だが、更識・布仏姉妹は彼女の事を認めており、この四人と一緒にいる時だけは本当の自分でいられると思っている。

 そんな五人に一夏の事を知らせたのは、織斑千冬に依頼を受け、捜索隊の一人であった小鳥遊碧であった。

 

「碧さん、その男の子って簪ちゃんたちと同い年なのよね?」

 

「そうですね。まだ六歳か七歳ですかね」

 

「そんな男の子が誘拐されたんですか? お金持ちの子とか?」

 

 

 真っ当な疑問を抱いた簪は、事情を知っているだろう碧に尋ねる。だが碧の首は縦ではなく横に振られた。

 

「彼の名前は織斑一夏。先日起こった白騎士事件の首謀者とされている篠ノ之束の友人で、白騎士の操縦者ではないかと噂されている織斑千冬の弟です。ちなみに私とは面識があったのですが、残念ながら彼は私の事を覚えてはいませんでした」

 

「覚えてない……ですか? それは彼が幼かったからですか?」

 

「いえ……」

 

 

 虚の疑問に対する答えは、少し間を置かれてから返って来た。

 

「攫われてから数時間で一夏君の事は発見出来たのですが、既に拷問を受けた後でした。そのショックからなのか、何かの薬の副作用なのかは分かりませんが、一夏君は自分の名前以外の記憶を失ってしまってました」

 

「えっ……それって……」

 

 

 最年長の虚で九歳、刀奈が八歳で、残りの三人が七歳か六歳。子供には刺激が強過ぎる内容だが、暗部で育っている彼女たちは普通の女の子とは精神的に強さが違った。

 

「それで、その一夏君って子は今どこに?」

 

「その事で私がここに来ました。本日より、織斑一夏君は我々更識家で護る事になり、当面の間はお嬢様たち五人で相手をしてもらいたいのです」

 

「ほえ? そのおりむ~って男の子だって言ったよね~? 私たちと遊んでも問題ないの~?」

 

「本音……聞いていなかったのですか? 一夏さんは記憶喪失で、おそらくは大人に対して恐怖を抱いているでしょう。だから私たちのような年の近い相手が必要なんですよ」

 

「さすが虚ちゃんですね、まさにその通りです。これはご当主様からのご命令ですので」

 

「お父さんの?」

 

 

 更識家当主更識楯無。この名前は代々世襲されるものではあるが、今の当主は直系であり、娘二人を溺愛している子煩悩な父親だ。更識家内にのみ適応される重婚もせず、一人の女性を愛し続けている真面目な男でもある。

 その父親から「命令」という形を取られた事の無かった刀奈と簪は、少し驚いたような反応を見せた。

 

「ご命令と言っていますが、ようは遊び相手になって上げて欲しいとのことです。一夏君は今心を閉ざしていますし、我々年長者では怯えてしまいますし」

 

「そうなんだ……お姉ちゃん、とりあえず会ってみようよ」

 

「そうね。碧さん、案内お願い出来る?」

 

「畏まりました」

 

 

 年下の主に恭しく一礼をして、碧は五人を先導するべく一夏が保護されている部屋を目指す……だが、彼女は致命的なほどに方向音痴であり、一夏が保護されている部屋にたどり着いたのは、それから数分後だった。

 

「碧さん……この部屋ってさっきまで私たちがいた部屋からそう遠くないわよ?」

 

「碧さんの方向音痴は相変わらずなのですね」

 

「ごめんなさい……」

 

 

 刀奈と虚にそう言われ身体を縮込ませる碧。年は彼女の方が大分上なのだが、立場的には圧倒的に下なので、二人には強く出れない。むしろ残りの三人にも強くは出れない立場なのだ。

 

「どんな男の子なんだろ~。仲良く出来れば良いな~」

 

「本音ちゃんはホント能天気だよね。男の子って何となく粗野で乱暴なイメージがあるから、私は出来れば関わりたくないよ」

 

「美紀は気にし過ぎだと思うけど、私も出来れば積極的には関わりたくないかな」

 

 

 同い年三人の中で、本音だけが積極的な姿勢を見せたが、残り二人はかなり消極的。考えれば当たり前だが、いきなり連れてこられた男の子と仲良くしろと言われ、はいわかりましたと受け容れられる方がおかしいのだ。

 会う事には納得はしているけど、仲良くするかどうかはまだ分からない。それが簪と美紀の偽らざぬ本音だったのだ。

 

「大丈夫ですよ。一夏君は元々優しい子ですし、記憶を失ってる今はかなり大人しい子になってしまってます。簪お嬢様や美紀さんが気にするような事は無いですよ」

 

 

 そう言いながらも、元々の一夏を知っていた碧の表情は暗い。大人の事情に巻き込まれた男の子を碧は何とかしたいと思い、そして攫った連中を千冬・千夏の二人の姉以上に痛めつけたいとも思っていたのだ。

 

「一夏さん、碧です。入りますよ」

 

 

 中から返事は無い。だが拒否反応も無かったので、碧は扉を開いて部屋の中へ五人を連れて入る。そこにいたのは、かなり怯えた様子の男の子だった。




これで美紀にもチャンスが……

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