暗部の一夏君   作:猫林13世

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当主ですからね……


聞きたくない情報

 二人の訓練を見ていた一夏の携帯に、本音からの着信が入ったのは、一夏が次のメニューに進もうとした、まさにそのタイミングだった。

 

「悪い、ちょっと電話」

 

「それじゃあ、私たちは休憩してるわね」

 

「別にいいけど、休み過ぎて動きたくないとかいうなよ」

 

 

 電話の相手が本音だということを確認したから、本音に言うような注意をしてしまったのだと、一夏は自分の中で反省して通話ボタンを押す。

 

「何か用か?」

 

『い、いっちー! 大変! 大変だよ!』

 

「何が?」

 

『えっと……とにかく大変だよ!』

 

「……誰か事情を話せる人と代わってくれ」

 

 

 本音では説明できないと、一夏は即座に判断して、傍にいるであろう誰かに代わるよう命じる。

 

『分かった! かんちゃんに電話して……って、携帯使ってる!?』

 

「何だ。部屋じゃないのか?」

 

『へ? ……あ、うん……ちょっとまって、おね~ちゃん。今かんちゃんに……』

 

「虚さんがいるなら、虚さんと代わってくれ」

 

『ほえ? ……うん、分かった』

 

 

 かなり焦ってるのだろう、と一夏は事の重大性は高そうだと自分の中で整理する。本音が慌てるのは、割と何時も通りなのだが、虚が傍にいるのに簪を探すなど、そのような慌て方はあまりしない。慌てているように見えて、割と冷静な部分を残していることが多いのだ。

 

『代わりました、虚です』

 

「それで、本音があそこまで慌てるなんて、本当に何があったんですか?」

 

『まだ未確定情報なので、あまり詳しい事は申し上げられませんが』

 

「構いません。報告してください」

 

 

 虚の話し方から、学園での出来事ではなく実家関係であることを見抜き、一夏も自然と姿勢を正した。

 

『イギリスの研究所が襲撃され、開発中の第三世代IS、サイレント・ゼフィルスが強奪されたとの情報が』

 

「イギリスか……セシリアがそっちにいるはずですから、本音に確認を取らせてみてはどうでしょう? あいつならセシリアの番号も知ってるでしょうし」

 

『分かりました。また情報が入り次第、私が連絡します』

 

「お願いします。間違っても本音に連絡はさせないようにしてください」

 

『申し訳ありませんでした』

 

 

 虚が謝ることではないのだが、おそらく他にも報告があったため、本音に頼んだ事を後悔しているのだろうと一夏は解釈して、そのまま通信を切った。

 

「……思ってたより、動きが早かったな」

 

「何の動き?」

 

「ん? 情報が確定したら教えてやるよ。不確定情報を与えて、余計な心配を掛けたくないからな」

 

「ふ~ん……一夏君がそんな風に言うってことは、相当ヤバい事なのね」

 

「事実であればな……また忙しくなるかもしれん」

 

「……高校生のセリフじゃないわね」

 

 

 一夏が零したセリフに、静寐が呆れ気味にツッコミを入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 情報収集のために、簪と碧は更識のIDを使い、世界情勢の最新の出来事を閲覧、本音は事実を知っている可能性があるセシリアに連絡、刀奈と虚は、有事に備えて生徒会の仕事を早く終わらせるために奔走していた。

 

「一夏がハッキングすれば、あっという間なんだけどね……」

 

「さすがにそれは認められないわよ、簪ちゃん。いくら一夏さんだって、不確定情報の裏付けの為にハッキングはやらないと思うし」

 

「てか、生徒会の仕事なら、一夏君にも手伝ってもらわなきゃ終わらないわよ」

 

「一夏さんには、最悪の場合に備えて待機してもらわなければいけませんので」

 

「美紀ちゃんは?」

 

「楯無様と連絡中です」

 

「そっか……父娘だもんね」

 

 

 ここにいる誰が掛けても変わらないが、美紀が尊に電話をする分には、更識の用事だとは思われない可能性が高いのだ。まぁ、電話相手が誰か、などと知られる心配はさほどする必要はないのだが……

 

「あの情報が確かだとして、やったのって亡国機業よね?」

 

「そうですね。先日一夏さんが篠ノ之博士から言われた通りでしたら」

 

 

 そろそろ亡国機業が動くかもしれない、という束からの情報を、一夏は刀奈と虚には伝えてある。正確に言うのであれば、虚に伝え、それを刀奈に報告してもらった形だ。

 

「何でこうも面倒な事が立て続けに起こるのよ! 箒ちゃんの失踪の件だって、まだ片が付いていないっていうのにさ!」

 

「文句を言わないで手を動かしてください。それに、もうじき本音が何かしらの情報を持って――」

 

「おね~ちゃん! 大変だ~!」

 

「来ましたね」

 

 

 噂をすれば影、ではないだろうが、虚が本音の名前を出した途端に、生徒会室に本音が駆け込んできた。

 

「何か分かったのですか?」

 

「えっとね……そのね……えっと……」

 

「とりあえず、落ち着いて息を整えなさい」

 

 

 本音が慌てている事は誰の目にも明らかだったので、虚はとりあえず妹に落ち着くよう促す。

 

「……ふぅ~。うん、もう大丈夫!」

 

「そうですか。それで、何が大変なんですか?」

 

「うん! せっしーの情報だと、確かにサイレント・ゼフィルスが強奪されたみたい。監視カメラは壊されちゃってるから、犯人の映像とかは無いけど、そのうちの一人は、蜘蛛のようなISに乗ってたって目撃情報があって、もう一人は日本人ぽいって」

 

「日本人……ですか? でも、なんでそんなことが分かるんです?」

 

「えっとね……綺麗な黒い髪をしてたって目撃者が」

 

「意外と冷静ですね、その目撃者」

 

 

 髪の色だけで日本人だと判断するわけにはいかないだろうが、虚はなんだか嫌な胸騒ぎがしていたのだった。失踪した篠ノ之箒も、綺麗な黒い髪だったからであり、万が一誘拐――ということになっている――したのが亡国機業で、その仲間として篠ノ之箒が動いているのだとしたら、面倒な事態に拍車がかかるからであった。




やっぱり残念な本音……

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