暗部の一夏君   作:猫林13世

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意外と息があってる……のか?


亡国機業の人々

 散々特訓したお陰で、箒のビット適正はかなりのものになってきている。IS学園で比べるのなら、マドカ、セシリアに次ぐくらいの実力はつけていたのだった。

 

「SHもまともに戦えるようにはなってきたんだな」

 

「……完封しておいて言うことですか、それが」

 

「あ? オレにダメージを与えようなんて、十年早いってんだよ。まぁ、IS学園の餓鬼共になら、勝てるくらいの実力はあると思うぜ」

 

 

 VTSを使った模擬戦で、箒はオータム相手に完封負けを繰り返しているが、最初の頃よりかは善戦しているとオータムが褒めてくれているので、まんざらでもない顔をしている。

 

「これでようやく、あの作戦を実行に移す時が来たようね」

 

「やっとかよ。あんまりチンタラしてたら、あの一夏とかいう餓鬼に気づかれるかと思ってたぜ」

 

「あら。さすがの一夏でも、こちらの事を知りようがないのだもの。私たちの作戦の邪魔は出来ないわよ」

 

 

 スコールとオータムの話を聞いている箒は、まだ見ぬ自分の専用機となるISを夢想していた。それが手に入れば、一夏も見返すことが出来るのではないかと。

 

「てか、その一夏を攫ってきた方が早いんじゃないのか?」

 

「一夏を誘拐するのは簡単じゃないもの。そもそも、一夏を攫って来ても、私たちの為に動いてくれるとは思えないしね」

 

「私以外を攫った場合、洗脳をする計画じゃなかったのか? 一夏にもそれをすればいいだけだろ」

 

「そもそも、更識の人間は鋭いから、近づくのも楽じゃねぇんだよ。お前を攫った時は、見張りがあのどんくさいやつだったから楽勝だったけどよ」

 

「五月七日紫陽花は、更識所属じゃないわよ」

 

 

 オータムの勘違いを、スコールが優しく正す。元日本代表候補生ではあるが、紫陽花は気配とかそういったことに敏い方ではないのだ。

 

「それで、イギリスから奪う予定のISは、どんなものなんだ?」

 

「ビット兵器や遠距離武装主体の、どちらかと言えばMが使った方が良いやつだな。まぁ、お前も血のにじむ努力の末に、ようやく適正ありになったが」

 

「名前はサイレント・ゼフィルスよ」

 

「遠距離主体か……近距離武器は積んでないのか?」

 

「貴女の好きそうな物は積んでなさそうね」

 

 

 スコールの返事に、箒はがっくりと肩を落とす。

 

「じゃあ、遠距離武器を数点外して、代わりに近距離武器を積めば――」

 

「亡国機業に、そんな高度な調整が出来るやつなんていねぇよ」

 

「メンテナンスだって、テキトーなんだから。たまに業者に頼むけどね」

 

「犯罪組織の依頼を受ける業者なんているのか?」

 

「メンテナンスだけなら、意外と引き受けてくれるのよ」

 

 

 意外な事実を聞かされた箒だったが、近距離武器を積み込めないと知らされ、モチベーションが少し下がってしまった。

 

「お前の姉貴か、それこそ一夏でも攫ってこれれば別だがな」

 

「? 姉さんは兎も角、一夏がそんな本格的な組み換えが出来るんですか?」

 

 

 箒は一夏が「一人で」ISを造れることを知らない。最終調整などの作業が出来るのは知っているが、どうせ外装チェックくらいだろうと侮っていたのだ。

 

「あら、貴女一夏の事なのに、何も知らないようね。それでよく『一夏は私の幼馴染だ!』とか『一夏と私は将来を誓い合った仲だ!』とかほざいてたわね」

 

「なっ……じゃあ貴女は、一夏の何を知ってるんですか!」

 

 

 スコールの挑発に、箒はまんまと乗ってしまった。それが自分とスコールの一夏に対する理解度の違いを決定的にするとも知らずに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 唯一の休日をプールに費やした一夏は、翌日からIS学園で静寐と香澄の指導をしていた。新しく更識所属になった静寐と、いずれは更識所属になるだろうと見込まれている香澄の指導を、一夏が引き受けた形だが、実は織斑姉妹に押し付けられただけなのだ。

 

「日下部さんはまだ専用機が無いから、学園の訓練機を使って」

 

「はい……」

 

「? 俺の顔に何かついてる?」

 

「い、いえ……更識君は、鷹月さんの事は名前で呼ぶのに、私の事は苗字なんだなっと思いまして……すみません忘れてください」

 

「別に名前で呼んでも良いですけど、日下部さんは恥ずかしくないですか?」

 

 

 あまり会話をしてこなかった間柄だから、という遠慮が一夏の中にあり、自分ならあまり親しくない相手に名前で呼ばれたら嫌だな、という考えが彼の中にはある。自分と香澄の関係は、いったいどういうものなのだろうという疑問も、それと同居している。

 

「一夏君、日下部さんは名前で呼んでほしいからこんなことを言い出したんでしょ。女の子に恥を掻かせるものじゃないわよ」

 

「そんなものか? じゃあ香澄さん、打鉄は向こうにあるから」

 

「は、はい! 一夏さん」

 

「……『更識君』だったのに『一夏さん』なのね、香澄さんって」

 

「そこ、気にするとこか?」

 

 

 走ってピットに向かう香澄を見送りながら、静寐は素朴な疑問を一夏にぶつけていた。

 

「香澄さん、一夏君の目から見てどうなの? 見込みあるのかしら?」

 

「唐突だな……ISの気持ちを理解できるという強みがあるからな。そのうち静寐も抜かされるかもしれないぞ」

 

「それは大変ね……鶺鴒、私たちも頑張りましょう」

 

『はい。一夏さんに失望されないように頑張ってください』

 

「……本音も言ってたけど、一夏君が造る専用機って、基本毒舌なのかしら?」

 

「別にそんな風に設定した覚えはないがな、土竜以外」

 

 

 本音相手には、多少毒舌だろうが強引だろうが、彼女をリード出来る専用機の方が良いと考えていたのは事実だが、他のISにはそのような考えは一切持ち込んでいない。それが一夏の言い分だった。

 だが、木霊も蛟も土竜も、そして鶺鴒も、所有者に対して結構な毒を吐くのだ。これが一夏の思惑なのかどうか、所有者たちは頭を悩ませるのだった。




一夏作の専用機はしっかり者が多いです

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