暗部の一夏君   作:猫林13世

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子供が一名……


帰路

 散々プールで遊んだからか、刀奈は今、一夏の背中で寝ている。

 

「高校生にもなって、体力の限界まで遊びますかね、普通……」

 

「まぁ、お嬢様は今日、朝早くから起きてましたからね」

 

「それにしても、いきなり倒れたから何事かと思いましたよ」

 

 

 刀奈を背負いながら、一夏は帰路についている。その横では、刀奈の寝顔を眺めながら一夏と話す虚と、刀奈を羨ましそうに見つめる簪と本音、そして美紀が少し離れて後ろに続き、さらにその後ろに静寐とエイミィ、香澄が並んで歩いている。

 碧とナターシャは、織斑姉妹と束に連れられて飲みに出かけ、マドカは一人束のラボに帰っていった。

 

「どちらが年上だか分からないですね、こうしてみてると」

 

「刀奈さんはちょっと子供っぽいところがありますからね」

 

「一夏さんも、トラウマが発動してる時はこんな感じですよ?」

 

「……あれは俺の意思と関係ないですからね」

 

 

 そっぽを向きながら言い訳をする一夏を見て、虚は思わず微笑んでしまった。

 

「おね~ちゃん、なんで笑ってるの?」

 

「何でもありません。それより本音、貴女夏休みの宿題はちゃんとやってるんでしょうね?」

 

「ほえ? そんなのあったっけ?」

 

「専用機持ちには、織斑姉妹が特別課題として面倒な事を押し付けてきただろ」

 

「あれって、いっちーが無しにしてくれたんじゃないの?」

 

「メニューは変えたが、一応課題は残ってるからな」

 

 

 ちなみに、織斑姉妹が課そうとしたメニューは、休み明けまでに適正値をワンランク上げる事だったが、すでにA判定である更識所属の面々は、システムを弄らない限り上を目指すのはほぼ不可能だったので、一夏がその事を抗議して、VTSの最高スコアを更新する事で片が付いていた。

 

「ちなみに本音、ちゃんと土竜を使ってハイスコアを出すんだぞ」

 

「ゲーム感覚で出来るのはいいけど、あれって面倒なんだよね~」

 

 

 訓練の時に使うだけではなく、VTSは近頃ゲームとしても販売されており、ゲームセンターで好評を博している。ちなみに、ゲームの場合のみ、男性でも使用することが出来るようになっている。

 

「IS業界だけじゃなくって、ゲーム業界にまで進出したって大々的なニュースになってたね」

 

「別にあれは、一人でも多くのIS操縦者が誕生すればいいと思って筐体を作っただけなのに、なぜかゲーム業界から睨まれることになったんだよな……」

 

「だって、ゲームセンターが連日それ目当てで人で溢れてるんだよ~? そりゃ、警戒もするって~」

 

「IS学園に通わなくても、ISを体験できるって女子中学生の間で大人気なんですって」

 

「……簪も美紀も、この前まで日本にいなかったのに、どこからそんな情報を得てるんだ?」

 

 

 世間の動きには敏感な一夏でも、女子中学生のブームまでは把握していない。それを、先日までフランスに遠征に行っていた簪と美紀が知っている事に、大いに驚いたのだった。

 

「まぁまぁ一夏君、あんまり騒ぐと更識先輩が起きちゃうわよ」

 

「この人はこれくらいじゃ起きないさ。昔は朝起きなくて本音と一緒に叩き起こしてたくらいだし」

 

「お姉ちゃん、一回寝ると長いからね……」

 

「平気で半日くらい寝ちゃいますからね……」

 

 

 普段はそうでもないが、体力の限界まで動いて寝ると、それくらいは平気で寝続けるのだ。さらに厄介な事に、眠りが深いために少し騒いだくらいでは目は覚まさない。簪曰く――

 

「お姉ちゃんは無駄に体力があるから、限界まで動いても、寝続ける体力は残ってるんだよ」

 

 

――とのことだ。

 

「それにしても、一夏君って女子が苦手だって聞いたけど、更識先輩とかは大丈夫なんだよね?」

 

「まぁな。家族だし」

 

「じゃあ私や静寐、香澄だったら?」

 

「うーん……他の女子よりかは大丈夫だと思うけど、まだちょっと遠慮願いたいかな」

 

「じゃあ、千冬先生や千夏先生、篠ノ之博士は?」

 

「全力で遠慮願う。何をされるか分かったもんじゃない」

 

 

 一夏が力いっぱい否定するのを初めて見た三人は、思わぬリアクションに違った反応を見せた。

 

「一夏君でもそんな反応するんだね」

 

「今の反応、結構面白かったね~」

 

「更識君の意外な一面ですね」

 

「お前らは、俺を何だと思ってるんだ?」

 

 

 一夏のツッコミに、三人は顔を見合わせ、そして同時に吹き出した。

 

「はぁ……まぁ、日下部さんもだいぶ打ち解けたみたいだし、これで少しは自分の特殊能力の事を気にならなくなったんじゃない?」

 

「更識君、そんなことまで考えてたんですか?」

 

「日下部さんは、俺と違って慣れるまでに時間がかからないとは思ってたけどね。俺の場合は、根本的にダメだからさ……」

 

「一夏さんは、慣れるまでが地獄でしたものね。あれは更識の屋敷に来てすぐぐらいでしたっけ?」

 

「その話は本当にやめてください……今では大丈夫なんですから」

 

「何々~、布仏先輩、その話詳しく!」

 

「エイミィ、一夏が嫌がってることを掘り下げようとしちゃダメだよ? 虚さんも、分かってますよね」

 

 

 簪の目が笑っていない事に気づいたエイミィは、すぐに好奇心に蓋をした。

 

「簪お嬢様も、最近迫力が付いてきましたね」

 

「全くですね。楯無さんもたまにそんな感じを見せてましたから、やっぱり父娘なんでしょうね」

 

「一夏さんの前では見せてなかったと思いますけど」

 

「人間不信だったんで、雰囲気でなんとなく分かりました」

 

 

 あっさりと特殊能力がまだあった事をバラした一夏に、虚は驚いた視線を向けるのだった。




体力の限界まで遊びつくす……それが刀奈

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