暗部の一夏君   作:猫林13世

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束さんがまともに見える不思議……


プールでの会話

 いろいろと目立ちすぎる集団から少し離れ、一夏は更識姉妹と三人で遊んでいた。

 

「いや~、知名度を考えてなかったわね」

 

「お姉ちゃんは有名人だからね」

 

「簪も有名だと思うが」

 

「それを言ったら一夏君だって、メディアとかで取り上げられてたりしてたし、全国同時ハッキングまでしてISを動かせることを発表したんだから、有名人だよ」

 

 

 あの集団で無名なのは、代表でも候補生でもない静寐と香澄くらいだろう。エイミィは一応元イタリア代表候補生にして、現フランス代表候補生として、一応顔は知られている。

 

「虚ちゃんも更識の広告塔として、知ってる人は知ってるし、本音はあの見た目だからね」

 

「厭らしい視線が突き刺さってたね」

 

「このご時世に、度胸のある男性がいるのもだ」

 

 

 他人事のように話す一夏の背後から、何本もの嫉妬の視線が突き刺さる。本音だけではなく、刀奈や簪、虚にもそういった視線は向けられているのだが、その全員が一夏に好意を向けているのが分かるくらいの態度なのだ。周りから嫉妬されても仕方ないだろう。

 

「お~い、いっちー! こっちで遊ぼうよ~」

 

「本音ちゃん、一夏さんの自主性に任せるって話は何処に行ったの?」

 

「そんなの、最初から存在しないのだ~!」

 

「……この集団って、いつもこんな感じなんですか?」

 

「そうね。といっても、私も最近この集団に入ったから、いつもなのかはわからないけど」

 

 

 本音と美紀の隣では、香澄と静寐が苦笑いを浮かべている。一夏は刀奈と簪を連れて、その集団に近寄ることにした。

 

「あまり大声で名前を呼ぶのは勘弁してもらいたいんだが?」

 

「何で~?」

 

「これでも更識の重役として、それなりに名前が知られてるからな。何時も遊んでると思われると面倒だからだ」

 

「そんな勘違いする人なんて、いないと思いますけど」

 

「そうそう。この前だって、一夏君が発案した新武装が販売されて、更識の前期利益の10%になるって言ってたしね」

 

「そんな内情、外から見てる人には分かりませんから」

 

 

 刀奈の言ってることは事実だが、利益の内訳など社内でも知らない人間がいるのだから、外から見てる人が知っているわけがない。一夏はそう言って苦笑いを浮かべる。

 

「何の話ですか?」

 

「ちょっと会社の話ですよ。ところで、ナターシャさんは泳がないんですか?」

 

「いや……あの姉妹と比べられるのは避けたかったので」

 

「……マドカまで何やってるんだか」

 

 

 視線の先では、織斑姉妹(マドカを含む)が競泳並みの迫力で泳いでいる。千冬と千夏から見れば一枚も二枚も劣るが、マドカもそれなりのスピードで泳いでいるので、周りの注目を集めていた。

 

「碧さんと山田先生でも、あの暴走は止められなかったのか」

 

「いえ、私は最初から無関心ですから」

 

「山田先生一人に任せてたんですか?」

 

「私はあくまでも、一夏さんたちとここに遊びに来たんですから」

 

 

 織斑姉妹のお守りは、自分の仕事ではないと主張する碧に、誰一人ツッコミを入れることはしなかった。事実、あの二人は十分大人なので、お守りが必要ではないのだ。

 

「それよりも一夏さん、もう少し楽しそうにしてもいいんじゃないですか? これだけの女性に囲まれてるわけですから」

 

「……殆ど知り合いですから大丈夫なだけで、基本的に俺は、女性に囲まれて悦に浸るタイプではないので」

 

「更識君って、何か問題を抱えてるんですか?」

 

「そっか、日下部さんは知らないんだっけ」

 

 

 静寐が視線で一夏に問いかけ、一夏は無言で頷く。まるで熟練の夫婦並みのアイコンタクトでの会話だったが、香澄とナターシャ以外の面々にも、今のアイコンタクトの意味は伝わっていた。

 

「一夏君はね、昔誘拐されたの。それは知ってるわよね?」

 

「ええ、聞いたことがあります」

 

「その時に、余りにも怖い体験をしたのか、記憶を失い、大人と異性を怖がるようになったらしいのよ」

 

「そうなんですか……ですが、更識君は今では大人の中で働き、異性しかいない空間で学業に励んでますよね?」

 

「それなりに克服したのと、更識関係者の人たちが側にいれば、ある程度は耐えられるみたいだしね」

 

「例外だった篠ノ之もいなくなったからな。今はそれほどトラウマが発動することもない」

 

 

 静寐の説明を聞いた香澄は、納得したらしくしきりに頷いていた。

 

「それで更識君は裏を感じさせないんだ」

 

「裏?」

 

「あっ……私は、昔から相手の本心が聞こえてくるんです。聞きたくもない本音、上辺だけの友達に耐えられなくなって、IS学園では大人しくしていたんですけど、更識君からはその本音が聞こえなかったので、なんでなんだろうって思ってたんですよ」

 

「一夏君は、良くも悪くも裏表がないからね。怒ってるときは本当に怖いわよ……」

 

「怒られるようなことをしなければいいだけですよ、お嬢様」

 

 

 虚がニッコリと笑みを浮かべ刀奈に注意すると、刀奈は壊れた玩具のように、何度も首を縦に振り続けた。

 

「別に隠し事が無いわけじゃないが、日下部さんの特殊能力を知っているから、相手に本音を覚られないようにしてるって事もあるんだがな。碧さんがそうですし」

 

 

 一夏が視線を向けると、碧はニッコリとほほ笑んで一夏の言葉を肯定した。

 

「だから更識関係者の方々は、なかなか本音が窺えないんですね」

 

「まぁ、本心で話してるってことも多分にあるけどね」

 

「お嬢様はもう少し、本音と建て前を使い分けた方が将来の為だと思いますけどね」

 

「うぅ……虚ちゃんがいじめるよ~」

 

 

 ウソ泣きをして一夏にしがみついた刀奈に、周りから非難の視線が突き刺さるが、それに負けずに刀奈は一夏にしがみついていたのだった。




つけあがるのはよくないですね……

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