暗部の一夏君   作:猫林13世

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熱中しているわけでは無いんですがね……


少女たちの心配

 代表選考から、また暫く時が経ち碧たちは高校を卒業した。元々優秀な成績だった織斑姉妹と共に、碧は下級生から絶大な人気を誇っていた。方向音痴、という欠点も後輩たちには愛おしいと思われる要素だったようだ。

 

「まさか全校集会で挨拶をしなきゃいけなくなるなんて思ってなかったわ」

 

「貴様も国家代表だからな。私たちと同様に意気込みを言え、と言われたのだろ」

 

「わたしは面倒だから断ったのだが、暴動が起こると言われたから仕方なく参加しただけなんだがな」

 

 

 卒業してもこの三人は顔を合わせ続ける。モンド・グロッソが無事終わるまで、各国の代表はそれぞれの合宿所で生活するように言い渡されているからだ。

 

「早く一夏に会いたいぞ。せっかく高校という枷が無くなったのだ。これからは四六時中一夏を見守る事が出来る」

 

「一応忠告しておくけど、今の一夏君に近づいたら実姉である貴女たちでも不審者扱いされるわよ? 一夏君に防犯ブザーを鳴らされたいのなら止めないけど」

 

「一夏に不審者扱いされるのは、わたし耐えられないな……」

 

 

 碧の忠告に千夏が膝から崩れ落ちた。警護はしているが、この姉妹が本気で一夏に近づこうとしたら更識の戦闘力では抑えられないと碧は思っている。

 そしてもう一つ、この姉妹には一夏がISを造れること、もっと言ってコアを造れる事を知られるわけにはいかないのだ。

 篠ノ之束がどのように知ったのかは分からないが、彼女は織斑姉妹にその事を話していない。長年の付き合いからそうしているのだろうと、碧も理解しているし、この間束から言われた「緘口令は妥当」という事からも、この二人には知られてはいけないと思っているのだ。

 

「小鳥遊、貴様の専用機は更識で造ったんだったな?」

 

「それが?」

 

「いや、わたしたちのと比べると性能が良いからな。よほど凄腕のエンジニアがいるんだな」

 

「貴女たちのだって、篠ノ之束が直々に造った専用機なんだから。私のよりも随分と特殊な造りをしてるんじゃないの?」

 

「まあな。かなりピーキーに造られていて、私と千夏以外には動かせないだろうな」

 

 

 胸を張りながら答える千冬に、碧は苦笑いを浮かべる。あまり自慢にならない事でも、この二人が言うと何故こうも自慢げに聞こえるのか、という感情から苦笑いを浮かべたのだが、二人には違う理由で苦笑いを浮かべていると伝わったらしい。

 

「あのバカは万人向けなど造れんからな」

 

「そもそも他人を認識出来てないからな。わたしたち姉妹と一夏、あとは馬鹿箒の四人だけだ」

 

「そう言えば、そんな事言ってたわね……本当に認識出来ないの?」

 

「両親ですら、路傍の石を見る感覚らしいからな。それ以外の人間など、何処に違いがあるのか分からないだろうな」

 

 

 あっさりと言い放つ千冬に、碧はもう一度苦笑いを浮かべた。両親と言う事だけならば、千冬たちも自分も大して変わらないのだから、と。

 

「そんな事より、後数ヶ月もこのような場所で生活しなければならないと考えると、壁でもぶち抜きたくなるな」

 

「確かに。こんな空間に閉じ込めるなど、政府の連中は命が惜しくないらしいな」

 

「頼むから問題行動は控えてよね。連帯責任、なんて言われたら私泣くわよ」

 

「バレなければ良いのだ。一人一殺で」

 

「だから止めなさい!」

 

 

 冗談に聞こえなかった千冬の宣言に、碧は割かし本気のツッコミを入れた。これから数ヶ月、この二人の相手をしなければならないのかと思い、碧は盛大なため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 碧が合宿所で大変な目に遭っている頃、更識家では一夏が開発室に篭って研究を続けていた。最近では学校から帰ると必ずこの部屋に篭っているので、刀奈たちは寂しい思いをしていたのだった。

 

「私たちに、一夏君のお手伝いが出来ればいいんだけどね……」

 

「さすがにISの知識は私たちは持ってませんし、一夏さんも私たちが手伝うと言っても頷いてはくれないでしょうしね」

 

「一夏が自分から何かに熱中するのは、この屋敷に来てから初めてだけど、その所為で一緒にいられないのは寂しいよね……」

 

「おりむ~と遊べなくなってから、美紀ちゃんが悲しそうだしね~」

 

「それは本音も一緒でしょ! 私だけじゃなく、刀奈お姉ちゃんや簪ちゃんだって、虚さんだってそうよ」

 

 

 ISが造れると判明してからも、一夏は自分たちと一緒に遊んでいたのに、モンド・グロッソが現実に行われる事が決まってからは一夏はIS開発で忙しくなってしまっている。

 

「もう碧さんのISを造り終えてるのに、まだ研究所に篭ってるものね」

 

「開発部の人たちも、私たちが聞いても教えてくれないし」

 

「どうやら一夏さんから口止めされているようです」

 

「むむむ……おりむ~が何をしているのか気になるぞ~!」

 

「本音はただ、一夏さんと遊べないから気になるんでしょ?」

 

「ほえ? 美紀ちゃんは違うの」

 

 

 本音の問い掛けに、美紀は寂しそうに答える。

 

「もしかしたら、一夏さんがISを造れる事が知られてしまい、どこかの国から強制的に造らされているのかもしれないって心配で……」

 

「あり得なくは無い話だけど、更識の緘口令は完璧なはずだから、まだ一夏君がISを造れる事は世界に知られていないはずよ。碧さんのISを調べられたらバレるかも、だけどね」

 

 

 力なく慰めてくれた刀奈に、美紀は同じように力ない笑顔を浮かべて応える。一夏の自由が狭まるなら、ISなどは無くなればいいのに……と言うのが、更識内で生活する少女たちの共通の願いだったのだ。心配されている一夏本人は、その事など全く知らないのだが……




ISに夢中になれたのはいいけど、やっぱり周りとの時間も大切にしたい一夏。ISが造れる事が世間に知られたら大変だな……

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