暗部の一夏君   作:猫林13世

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寝すぎな気がするが、まぁお気になさらずに


休日の予定

 時差ボケもすっかり良くなった刀奈は、とりあえず虚の部屋を訪れていた。

 

「今日一日を、どうやって過ごせばいいと思う?」

 

「……とりあえず、このような時間に私の部屋を訪れた理由を仰ってください」

 

 

 時刻は午前三時。日本に戻ってきたのが午後二時で、そのあとずっと寝ていた刀奈は、この時間ですでに元気いっぱいだったのだ。

 

「いや~。時差があったから、帰ってきてからずっと寝てたののよね。そしたら、こんな時間に目が覚めちゃったのよ~。だからとりあえず虚ちゃんに相談しようって思ったの」

 

「……まぁ、私も起きてたのでいいですけど。それで、予定と言われましても、何の予定です?」

 

「虚ちゃん、今日は一夏君も私たちも、まったく予定がない日なの。だから、この日を逃すわけにはいかないと思わない?」

 

「みなさんお疲れなんですから、今日は大人しくしていた方が……」

 

 

 実際、一夏はここ数日更識の仕事と生徒会の仕事を一人でこなしていたし、合宿組も昨日まで海外遠征で、まだ時差ボケが残ってる可能性もある。虚も、遠征組から遅れること二時間後に帰国し、そのまま部屋で寝ていたとはいえ疲れが残っている。こんな状態で遊びに行こうなどと思う人間は、刀奈くらいだろう、と虚は思っていた。

 

「でも、次に全員の休みがそろうのって何時よ?」

 

「えっと……八月の最終週ですね」

 

「そんなに待てないもの! とりあえず、今日は近くのプールに遊びに行きましょう!」

 

「……一夏さんが頷くとは思えませんが」

 

「大丈夫だって。一夏君、意外と押しに弱いし」

 

 

 反対しても、結局は多数決で押し切られるだけなのだが、刀奈の中で一夏は頼み込めば許可してくれる人という位置づけになっているのだった。

 

「では決まったので、お嬢様は早急に部屋にお戻りください。私も、もう少し寝たいので」

 

「えー! 眠くないのよ~」

 

「でしたら、一夏さんが肩代わりしていた生徒会長の仕事をしてはどうです? 夏休みとはいえ、生徒会の仕事は山のようにあるのですから」

 

「こんな時間から仕事なんてしたくないわよ~。それに、一夏君がほとんど終わらせちゃったみたいだし、私は明日にでも認印を押せば終わるらしいわよ」

 

 

 一夏から送られてきたメールを虚に見せて、刀奈は笑顔で胸を張った。

 

「とりあえず、大人しくしていてください。間違っても一夏さんの部屋に侵入しようとか考えないでくださいよ」

 

「それもいいわね……って、冗談だから。その振り上げた手を下ろしてください」

 

 

 本気で怒られそうになったので、刀奈は大人しく部屋に戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本音以外のメンバーが一夏の部屋に集まったのは、まだ午前七時を少し回ったくらいだった。

 

「……みんな早くに寝たのは知っていますが、なぜこの部屋に? 俺はそんなに寝てないんですけど」

 

「まぁまぁ、一夏君だって起きてたんだし」

 

「美紀だけズルい」

 

「な、なにが?」

 

「昨日、一夏に抱き着いて寝たでしょ」

 

「(女の勘って怖いな……)」

 

『金九尾と光白狐は姉妹機ですから、それで知ってるのでは?』

 

「(なるほど……)」

 

 

 完全に別のことを考えていた一夏は、ふいに簪に視線を向けられて首を傾げた。

 

「どうかしたか?」

 

「一夏、私も抱きしめて」

 

「あー! 簪ちゃんだけズルい! 私も~」

 

「出来れば私も、一夏さんに抱きしめてもらいたいのですが」

 

「……みなさん、まだ時差ボケですか?」

 

 

 自分でも苦しい逃げだと理解していたので、一夏は小声でそう呟いた。もちろん、そんな言葉で躱せるわけもなく、一夏は三人を順番に抱きしめたのだった。

 

「では、最後は私ですかね」

 

「碧さんまで……ん? ナターシャさんもご一緒だったんですか」

 

「え、ええ……小鳥遊さんに誘われまして」

 

「はぁ……それで、碧さんは何の御用ですか?」

 

「抱きしめてもらってから話します」

 

 

 なんとなく居心地が悪い思いをしながら、一夏は碧を軽く抱きしめた。その光景を、ナターシャが羨ましそうに見ているのは、きっと錯覚だと思い込むことにしたのだった。

 

「さてと、それじゃあ本題ね」

 

「まるで今の行為が必須だったみたいに言わないで下さいよ」

 

「必須でしょ。他のみんなが抱きしめてもらってるのに、私だけ無しってのは不公平だと思うもの」

 

「分かりましたよ……それで、本題とは?」

 

「うん。これは何でしょうか」

 

 

 そういって碧が取り出したものに、真っ先に気が付いたのは刀奈だった。

 

「それって、この近くにオープンしたばかりのプール施設の無料券!? 碧さん、どこからそんなものを手に入れたんですか?」

 

「先日ご報告に戻った時に、楯無様から頂きました」

 

「これって一枚で五人まで大丈夫なんですね。二枚あるから全員で行けますね」

 

「もう一枚あるのよ。これは一枚で一人なんだけど、最初に使った日から三ヵ月以内なら、五回まで使えるらしいのよ。それでナターシャさんを誘っても、三人足りないのよね。鷹月さんと日下部さんとカルラさんを誘えばちょうど十一人でしょ? マドカちゃんは、まだ戻ってきてないみたいだし」

 

「それじゃあ私は静寐さんにメールしますね」

 

「じゃあ私はエイミィに」

 

 

 美紀が静寐に、簪がエイミィに連絡を取ると言った後、全員の視線は一夏に集まっていた。

 

「……日下部さんには、後で俺から言っておきます。予定が合えば来てくれると思いますよ」

 

「じゃあそういうことで」

 

「お邪魔しました」

 

 

 碧とナターシャが退室した後、静寐とエイミィから参加するとの返事が送られてきた。これで残るは香澄だけだが、あいにく一夏は香澄のアドレスを知らないので、朝食後に部屋を訪れることにしたのだった。




何故尊が招待券を持っていたかと言うと、出資先だからです

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