暗部の一夏君   作:猫林13世

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そういえば、前回しれっと略称を初めて使ったな……あの流れがなかったからいつまでも長ったらしく打ってたけどやっぱり楽だなぁ


シャルの疑問

 シャルとの会談を終えた一夏は、社長室を辞して滞在先のホテルへ戻るつもりだった。だが、シャルがまだ何か聞きたそうな顔をしていたので、上げかけた腰を下ろしてそのことを尋ねることにした。

 

「何か聞きたそうだが、何だ?」

 

「いや、鷹月さんの専用機が完成したって聞いたから、テスト用にこの新武装を積まなかったのかなって……」

 

「まだ試作段階にすら到達してない武装を、静寐に使わせるのは駄目だろ。俺やシャルみたいに、会社の為という名目は、アイツには通用しないからな」

 

「そうか……僕はまだ経営者としての考え方が不足してるね……でも一夏、テストパイロットっていうのもあるんだし、自分で試作品を試さなくてもいいんじゃない?」

 

「更識には、名目上テストパイロットは存在しないからな。虚さんはあくまでも広告塔として動いてもらってるからな」

 

「布仏先輩、美人だもんね」

 

 

 何か非難するような口調で拗ねるシャルに、一夏は苦笑いを浮かべる。

 

「別にそういった理由で虚さんに頼んでるわけじゃないんだが……実力的にも虚さんなら申し分ないからな。他の企業の代表との対戦だって、虚さんだから勝ててる部分も少なくないし」

 

「布仏先輩も、普通に強いもんね……なんで国家代表を目指さなかったんだろうって思うくらいに」

 

「刀奈さんが先に候補生になってたからじゃないか? 碧さん、詳しい事情は知ってますか?」

 

「特に虚ちゃんからは聞いてませんが、たぶん一夏さんの考えであってると思いますよ」

 

「……いたの知ってたのに、普通に忘れてました」

 

 

 一夏とシャルの会談中、碧は気配を完全に殺して邪魔をしないようにしていたのだ。碧が本気で気配を殺せば、一夏ですら掴むことが難しいので、シャルが忘れていても仕方ないのだが。

 

「じゃあ俺たちはこれで。また夏休みが終わったら会おう」

 

「僕もずっとここにいるわけじゃないからね。IS学園で会えると思うよ」

 

「……いや、俺がいない可能性が高いんだ」

 

 

 自分のスケジュールを思い出し、一夏は先ほどより苦めの笑みを浮かべ、今度こそ社長室から出て行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合宿で課された作業を早々に終わらせ、暇を持て余していた刀奈たちだったが、やけに周りが騒がしい事に気づいた。

 

「何かあったのかしら?」

 

「日本側もフランス側も、どっちの候補生も騒いでるね」

 

「ちょっと聞いてきますね」

 

 

 立場上一番下になる美紀が、刀奈と簪の疑問を解決するためにざわついている箇所へと足を運ぶ。

 

「私はまだフランス側に知り合いがいませんからね……」

 

 

 候補生になっても、そのほとんどの時間をIS学園で過ごしていたため、エイミィはまだフランスに友達と呼べる相手はいなかった。ライバル同士を友達と呼んでいいのかは微妙だが……

 

「刀奈お姉ちゃん! 簪ちゃん!」

 

「美紀ちゃん、どうしたの? そんなに興奮して」

 

「一夏さんが表敬訪問してるみたいです!」

 

「嘘っ!? 急いで会わなきゃ! って、簪ちゃん早っ!?」

 

 

 普段はのんびりした感じの簪だが、いざというときは刀奈より素早く行動することが出来る。まさに今がそれだと美紀は苦笑いを浮かべた。

 

「一夏君、忙しいんじゃなかったの?」

 

「ん? 新武装の開発の関係で、デュノア社に用があったんですよ。ここに立ち寄ったのはついでです」

 

「私たちに会いに来たんじゃないの?」

 

「それもあるけど、一番の理由は訓練機のメンテナンスだ。シェア八割を超えると、メンテナンスも大変なんだよな……他の業者に頼んでも、本来の実力は発揮出来ないだろうし」

 

「それって一夏君が全部やってるの?」

 

 

 人垣の外側からエイミィが一夏に話しかけると、今まで一夏の周りに出来ていた壁が一瞬で開き、エイミィは一夏の姿を確認することが出来た。

 

「出来る限りは俺がやってるけど、学園から出るには許可を取らなきゃいけないからな……普段は他の技術部の人に任せてる」

 

「それで土日に一夏君と会う確率が低いんだね」

 

「いや、他にも生徒会の仕事や更識の仕事、本音たちの訓練の手伝いとかで一日が終わることが多いから、遭遇率が低いだけじゃないか?」

 

 

 会話をしながらも、一夏のメンテナンスを行う手が停まることは無い。本格的なメンテナンスならば、さすがに人前でやることは無いが、このような簡易メンテナンスならば人目についても何ら問題は無いのだろう。

 

「終わりました。全ての機体に大きな問題はありません。多少動きが鈍い子がいましたが、今のメンテナンスで一応は元通りの動きが出来るようになるでしょう。ですが、早めに本格的なメンテナンスに出すことをお勧めしますね」

 

 

 合宿の責任者に報告を済ませ、一夏は少し離れたところに腰を下ろす。

 

「まだメニューを消化しきってない候補生たちは、早急に訓練に戻りなさい」

 

 

 ちょっとしたフィーバー状態だった場を、一人の女性の声が一瞬にして落ち着かせる。

 

「引退しても絶大な力を有してますね」

 

「これでも一応は最強の名を貰いましたからね」

 

「本音が護衛じゃなかったんだね」

 

「……簪は海外に本音を連れてきて役に立つと思うのか?」

 

「………」

 

 

 一夏の護衛役の碧の一声で場は落ち着き、簪は護衛が碧なのを確認しただけなのだが、何故か彼女の中で本音の株が大暴落した。

 

「その顔が何よりも語ってるよな……」

 

「まぁ、本音だもんね。ところで、一夏君は何時までこっちにいるのかしら?」

 

「二,三日滞在して、開発の目途が立てばそのまま日本に帰って試作品のテストを行う予定ですが」

 

「それじゃあ、その間は一夏君に甘えられるんだね」

 

「……ちゃんと訓練してください。曲がりなりにも刀奈さんは国家代表なんですから」

 

 

 一夏の言葉に、刀奈を除く更識所属全員が頷くのだった。




普通に怒られる刀奈……

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