結局一撃も本音に当てることが出来なかった静寐だが、今回はそれでもかまわないと、どこかに行っていたがアリーナに戻ってきた一夏が言ってくれたおかげで凹むことなくテスト飛行を終えた。
「普段怠けてるから、一発くらい当てられると思ったんだけどな……」
「まぁまぁ、これでもかんちゃんや美紀ちゃんの練習相手を務めてるから、そう簡単には当たらないよ~」
「偉そうに言うな。それから、次からは土竜にフォローしてもらうことなく戦えよな」
「分かってるって~。でも、本当に危ない時は頼むけどね~」
一夏が本音の為に造った土竜は、敵の攻撃が何処から来るか、どのくらいの速度で回避行動をとれば避けられるかを瞬時に計算してモニターに表示してくれる機能が備わっている。さすがに刀奈や虚の相手をするときは、この機能を使っても敵わないのだが、候補生以下を相手にする時は、かなり有利に戦いを進めることが出来るのだ。
「一夏君、鶺鴒にはその機能搭載してないのよね?」
「本当は本音にも使わせたくないんだが、データを採るためには本音の機体に搭載した方がすぐにデータが集まるから載せたんだ。そうしたらそれに頼りまくってるからな……これは企画部に没だと伝えておこう」
「……いきなり研究者の顔にならないでくれない?」
「あ、あぁ……すまん。それで鶺鴒には搭載してないぞ。今言ったように没にするから」
「それじゃあ、本音の機体からも取り外すってこと?」
静寐の質問に、一夏は少し考えてから首を振った。
「あいつからあれを取り上げると、いざというときに役に立たないかもしれないからな……」
「そんなことないよ~。あっ、ところでいっちー、さっきはどこに行ってたの?」
「ん? 更識に電話を入れていたんだ。鶺鴒の動作確認を終了したって報告をな」
「いっちーも大変だね~。次期当主候補筆頭なのに」
「あくまで仮の立場だからな。候補ってだけでは偉くないだろ」
本当の事を知らない静寐は、二人の会話を聞きながら適度に相槌を打っている。もし本当の事を知っていたら、一夏も本音もこんな嘘は吐かなかったに違いない。
「一夏さん、そろそろ更識にお戻りになる時間です」
「もうそんな時間か……じゃあ静寐、本音も悪いが、俺はこれで。アリーナの使用時間はまだ残ってるから、模擬戦するなり動作チェックするなり好きにしてくれ」
碧が迎えに来たので、一夏は今度こそアリーナから姿を消した。
「やっぱり一夏君は忙しいのね……」
「開発部と企画立案部の掛け持ちで、次期当主候補筆頭だからね~。いっちーより暇な大人は沢山いると思うし、いっちー以上に真面目に更識の為に働いてる人も少ないだろうね~」
「一夏君って養子よね? なんでそこまで更識の為に?」
静寐の質問に、本音の表情が一瞬だけ曇った。だが、それは幻覚だったのではないかと思うくらい、本音の表情はすぐにいつも通りに戻った。
「いっちーに直接聞きなよ~。少なくとも、私が言える事じゃないしね~」
「そんな事言って、本当は知らないんじゃないの?」
「えへへ~、どうだろうね~」
それ以降、本音は一夏の事を話そうとせずに、土竜の機嫌を取るためにアリーナの使用時間いっぱいまで飛行テストをしていたのだった。
亡国機業で遠距離武器の適正を上げるために努力していた箒に、スコールから信じがたい報告を受けた。
「姉さんが私に専用機を造るつもりだったと?」
「そのようね。でも、結局貴女はこちら側に来たので、余ったコアは更識に譲渡され、そのコアを使って一夏が鷹月静寐という女子生徒に専用機を造ったらしいわよ」
「一夏が? あいつ一人で専用機を造れるのか?」
てっきり知っていると思っていたスコールは、箒が首を傾げたのを見て、二人の関係性を思い出した。
「知らないなら聞かなかった事にしてちょうだい。とにかく、これでまたIS学園に戦力が増えたことになったわ。SH、まだ適正値は上がらないのかしら?」
「この間CからBになったところだ」
「なら、そろそろ動けるかしらね。あと一週間、頑張って訓練してちょうだい。そうすれば貴女も専用機持ちになれるかもしれないから」
「ああ、分かった」
箒を下がらせて、スコールはオータムを部屋に呼ぶ。
「なぁ、アイツあの餓鬼が一人で専用機を造れることを知らねぇんだな」
「まぁ、一夏とあの子の関係を考えれば、教えてなくてもおかしくは無いわよ」
「ストーカー寸前のやつに、自分の秘密は教えないか」
ニヤリと笑うオータムに、スコールは苦笑いで応えた。
「それで、例の作戦は何時実行するんだ?」
「SHが適正Bになったようなので、来週には実行出来ると思うわよ」
「ようやくか。それで、IS学園の動きは?」
「一夏は更識の仕事で忙しそうだし、所属の面々も各国を飛び回ってるらしいわよ。残ってるのは布仏の次女と鷹月静寐の二人だけ。こっちに人員を割く余裕はないわね」
「それじゃあ、邪魔される事なく仕事出来るってわけだな」
「貴女がデュノア社長一家を殺してくれたおかげで、あの会社は生き残っちゃったけど、まぁ一夏の傘下に入ったのなら問題ないでしょう」
「やけにその一夏って餓鬼を気にしてるよな、スコールって。知り合いか?」
少し嫉妬した風にオータムが尋ねると、スコールは笑顔で返す。
「向こうは私の事なんて知らないでしょうけどね。彼の両親と知り合いなのは確かで、何度か見た事もあるわよ」
「そりゃあ、アイツの両親ってことはMの両親だろ? ならオレだって会った事あるぜ」
「とりあえず、今は一夏の事は考えない事ね。しっかりとSHを見張っておいて」
そう短く命令し、スコールはオータムから視線を逸らす。どことなく気になってはいたが、オータムはスコールが言いたくない事なのだろうと理解し、そのまま部屋を辞したのだった。
今回はどんな関係にしよう……