鶺鴒の動作確認の為にアリーナへ出ると、そこには土竜を纏った本音が待っていた。
「本音、どうかしたの?」
「いっちーに頼まれたんだ~。シズシズの相手をしてほしいって」
「戦うわけじゃないが、相手がいた方がやりやすいだろ? それに――」
そこで一夏は鋭い視線を本音に向ける。
「な、なに?」
「土竜に機嫌を直してもらうためにも、少しは動いてもらわなければな」
「ほぇ!? なんでいっちーがそれを知ってるの」
「更識所属の専用機のコンディションなど、闇鴉を通じて知ってるに決まってるだろ! 誰が整備してると思ってるんだ」
一夏に怒られ、本音は心の中で土竜に話しかける。一夏には土竜の声は聞こえるが、静寐には聞こえないのでそうしたのだ。
「(何でいっちーに密告してるの)」
『貴女がVTSでも私を使わないからですよ。私が言っても聞かないので、一夏さんにお願いしました』
「(そのせいで怒られちゃったじゃないか~)」
『自業自得です。そもそも、貴女の専用機は私であって、訓練する時も私を使うのが普通なんです。他の機体をいつまでも使ってるような本音は、怒られた方が良かったんですよ』
「(うぅ~、土竜ってお姉ちゃんみたいだ~)」
『一夏さんがそう設定してくださいましたからね。本音はだらけるのが得意だから、私が律するようにと』
それでも怠けたから、土竜から一夏に報告され怒られたのだが、本音はあまり反省しているようには見えない。
「本音、早いところテストしたいんだが、まだ土竜との会話は終わらないのか?」
「大丈夫なのだ~。とりあえずシズシズの攻撃から逃げればいいんだよね~?」
「それもそうだが、ちゃんと土竜に謝っておけよな。相当使ってないんだろ?」
「テストの時にはちゃんと使ったよ~」
当然のことを偉そうに言った本音に、一夏はため息を堪えられなかった。
「お前、そのうち篠ノ之みたいになるぞ」
「ほえ?」
「土竜がお前に反応してくれなくなるって言ってるんだ。そうなれば俺の護衛は解任だな」
「が、頑張る! これからは土竜を使って訓練もする! だからいっちーの護衛を解任するのだけはやめてください!」
「(今のってそんなに威力のある脅しだったんだ……)」
本音の事だからてっきり、任務から外されて喜ぶかと思っていた静寐は、本音の慌てっぷりに驚いていた。それだけ一夏の護衛という任務は、本音にとっても重要なのだろうと思うことにした。
「さて、それじゃあ静寐」
「なにかしら?」
「いや、何じゃなくってだな……そろそろテストしたいからピットに行って準備してくれ。これ、鶺鴒な」
待機状態の鶺鴒を渡され、静寐はピットへと移動する。
「それじゃあ、俺はここで見てるが、流れ弾とかは気にしなくていいぞ……」
「私が全て切り伏せますから」
「……だから、いきなり人の姿になるのは止めろ」
闇鴉を展開するから、と言おうとした一夏だったが、先に本人が人の姿になって言ってしまったので、ため息代わりに何時ものツッコミを入れたのだった。
ピットで鶺鴒を展開した静寐は、言いようのない高揚感に包まれていた。専用機など縁のないものだと思っていたのだから、自分の機体を持てるという事実に感動してしまうのも無理もないだろう。
「これが……私の専用機」
『初めまして、鷹月静寐さん。わたしは貴女の専用機として造られた「鶺鴒」と申します』
「うわぁ!? これが、ISの声なの……」
初めて体験する「人の姿」をしていないISに話しかけられる事に、静寐は驚きと感動を覚えた。
「えっと、初めまして。私は鷹月静寐です。これからよろしくね」
『はい。先ほどの土竜と本音さんの関係ではありませんが、なるべく訓練でも私を使ってください』
「もちろん。せっかく専用機を持てたんだから」
静寐の考え方が一般的で、本音のように他人の専用機を使ってみたいと思う方がおかしいのだ。性能を調べようと思い、一回か二回くらい思う事があるかもしれないが、毎回使いたいとは思わないだろう。
静寐は鶺鴒を身に纏いアリーナへと出る。今まで訓練機でこの動作はやったことがあるが、専用機でやるとまた別の感動が静寐の中に生まれていた。
「それじゃあ、まずは遠距離武器から試してくれ」
「一夏君はそこで見てるのよね? 流れ弾とか平気なの?」
「さっきも言ったが、闇鴉を展開して逃げるから問題ない」
さっきは闇鴉に言われてしまったのだが、静寐にはその事を聞かれてはいない。だから一夏は、待機状態の闇鴉を指さし、いざとなれば展開すると言って静寐を安心させた。
「それじゃあ遠慮なくやっていいのね?」
「言っておくが、怠けているとはいえ本音はかなりの実力者だからな。反撃は禁止してるが、攻撃をあてられるかどうかは知らんぞ」
それだけ言って、一夏は開始の合図代わりに闇鴉を展開し、一発の弾丸を天井に放った。それを見てすぐに、本音が静寐から距離を取り逃げ始める。
「反応が早い!? 普段の本音からは考えられないわね……」
その後、追いかけて何発が放った静寐だったが、結局一発も当てることが叶わず、近距離戦闘の訓練でも、どこから仕掛けても全て止められてしまったのだった。
「……これが、本音の実力なのね」
「どうだシズシズ、参ったか!」
「威張るな。殆ど土竜の指示に従って回避行動を取ってただけだろ」
「どういうこと?」
地上で本音の事を褒めたいた静寐だったが、向こうから来た一夏が本音の実力ではないと言ってきた。
「その指示に即座に反応出来てるのは、間違いなく本音の実力だが、攻撃が何処から来るか、どう反応すれば避けられるか、などは殆ど土竜が本音に指示してることだ」
「それでも、一発も当たらなかったのは褒めてもらえる事じゃないかな~?」
「これからも精進するように」
軽く頭を叩き、一夏はアリーナから移動してしまう。本音も知っている通り、彼のスケジュールはパンパンに詰まっているので、次の仕事に向かったのだろうと勝手に解釈したのだった。
本音と土竜の関係がおかしいのか……