暗部の一夏君   作:猫林13世

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自分本位が多い空間だ……


試運転

 専用機を受け取った三人は、もう一度集合を掛けられて本部へと足を運んでいた。

 

「それが篠ノ之束より受け取った『暮桜』と『明椛』で、そっちが更識家が開発した『木霊』だな。データは既に送られてきているが、実物はまた凄そうだな」

 

「で、私たちはなんで呼びつけられたんだ?」

 

「代表内定は既に聞いたし、専用機も既に渡されたんだ。ここにはもう用事は無いだろ」

 

「どれだけ自分本位なのよ……それで、私たちが呼び出された理由は何なのでしょうか?」

 

 

 千冬・千夏姉妹の高圧的な態度にツッコミを入れながら、碧が用件を問う。彼女としても、折角久しぶりに一夏と会えたのに戻って来なければならない理由を知りたかったのだ。

 

「専用機が渡された事で自覚が出てきたかもしれないが、貴女方三人は我が国の代表であり、IS乗りを目指す少女たちの手本となる存在だ。言動や行動にはくれぐれも気をつけて頂きたい」

 

「そんなもの、私たちに強制させられる筋合いは無い」

 

「そうね。教育はお前たちがする事であって、わたしたちを手本にさせる理由は全く存在しない。そもそも個人個人で戦い方なども違うのだから、わたしたちが手本になるかどうかなど分からないだろ。そんな事も分からないのか、お前たちは」

 

「ちょっと! まぁ言葉遣いや行動などは気をつけますが、織斑姉妹の言うように、手本になるかはその人の戦い方次第ですので、勝手に手本にされては困りますかね」

 

 

 一部織斑姉妹に賛同しながらも、言動や行動には気をつけようと心に決めた碧であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本部での話はすぐに終わり、碧は木霊を動かすべくアリーナへと来ていた。先ほどまで織斑姉妹が使っていたので、所々に戦闘の痕が見られるが、モニター操作一つでこの痕もすぐに消えるのだが。

 

『ISが出来てから、科学の進歩は凄まじい勢いですね』

 

「(そっちも篠ノ之博士が関わったからね。一々開発を待ってたら研究が捗らないって理由で)」

 

『恐ろしく自分本位ですね、篠ノ之束という女性は』

 

「(さっき見たでしょ? あれが篠ノ之束なのよ)」

 

 

 展開する前に頭の中で動きをシミュレートする。それが碧のISを操縦する前の決めごとであり、代表選考に最後まで残った理由でもある。

 

「(よし! それじゃあ木霊、一通りの動きを確認するから、武器情報をモニターに出して)」

 

『先ほど教えたように、メイン武装は槍です。後はライフルとレーザー銃、マシンガンが一丁ずつと二刀流用の刀が一対ですかね』

 

「(二刀流? 一本ずつでも使えるの?)」

 

『もちろん使えますよ。小太刀では無いので』

 

「(その二本にも名前はあるのかしら?)」

 

『右に持つ刀が「十五夜」左に持つ刀が「十六夜」ですね。威力はそれ程変わりませんが、僅かに「十五夜」の方が高いですね』

 

「(じゃあ『十六夜』が小太刀的な扱いなのね)」

 

 

 威力は低いが、使い勝手は「十六夜」の方が高いとモニターに表示されている。碧は両利きなのでどちらでも同じように使えるだろうが、若干短い「十六夜」の方が間合いを取るのが楽そうだと感じていた。

 

『その辺りは動かして確認してください。私も碧に使ってもらえるのが楽しみなのですから。一夏さんに期待されている貴女の実力を知るのが』

 

「(データとして打ち込まれてるでしょ。今更ワクワクする事もないんじゃない?)」

 

『実際に体験するのと、データとして知っているのでは感じ方が違いますからね。それに、データでしか知らないとなると、細部がどうしても大雑把にしか把握できないんですよ。細々とした癖などは、実際に経験して知るしかないですからね』

 

「(そんな癖なんて無いと思うけど、そこら辺はISが体験して気づくのかもね)」

 

 

 自分の癖など、指摘されるまで気づかない事が多い。操縦においてもそうなのだろうと納得して、碧はアリーナにて木霊の試運転を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 碧が試運転をしている頃、合宿所の一室で篠ノ之束と織斑姉妹が顔を合わせていた。

 

「やはりこの『暮桜』と『明椛』は一対として造ったんだな」

 

「もっちろん! ちーちゃんとなっちゃんが敵になるなんて考えなかったし、あの小鳥遊とかいう雌とペアになるつもりもなかったんでしょ?」

 

「「当然だ!」」

 

「だったらちーちゃんとなっちゃんがペアになるって考えたから、ちーちゃんとなっちゃんの専用機は一対として考えた方が面白いなーって思ったんだ」

 

 

 伊達に付き合いが長いわけではないので、束が考えそうな事は千冬も千夏も理解している。それと同じく千冬と千夏の事を、束はしっかりと理解しているのだ。

 

「この大会で優勝して、いっくんに良いところを見せれば二人の事を思い出してくれるかもねー。そんな記憶がいっくんの中にあったのなら、だけど」

 

「それを言うなら束だって同じだろ。一夏に頼り切って家事などしなかったのだから」

 

「だってちーちゃんやなっちゃんだって同じだけど、束さんも料理とか苦手なんだもーん! 暗黒物質を造り出した時は、自分の事ながら呆れちゃったもん。まぁ美味しく頂いたけどね」

 

「アレを食べて生きてられるのはお前だけだ。わたしや千冬でもあんなものは食わん」

 

 

 実に五十歩百歩の会話だが、その事を指摘出来る強者など存在しない。唯一ツッコミを入れられた一夏も、今はこの三人の事を覚えていないのだ。このまま話がグダグダになってしまうのも、一夏が記憶を失った弊害と言えるのかもしれない。




束はしっかりと一夏の秘密を守るのだろうか……

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