暗部の一夏君   作:猫林13世

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若干ヤンデレのにおいが……


簪の不満

 遠距離の適正を少しでも上げるために、箒は今日もVTSでトレーニングに励んでいた。

 

「犯罪組織というから、もっと忙しいのかと思ってたが、意外と暇なんだな」

 

「あ? お前がせめてもう少し上達しないと動けねぇし、どっちにしたってまだ準備が出来てねぇからな。オレはお前の監視っていう任務中だ」

 

「何故監視など。私はどこにも行かないし、ここから逃げ出す脚もないからな」

 

「金もってねぇもんな。タクシーに乗ろうにも料金払えなきゃ普通に犯罪だぜ」

 

 

 着の身着のままで亡国機業にやってきた箒は、あの日から殆どこの部屋から外に出ていない。それでも、自分がISを持てるという希望に向け、日々努力することに文句を言うことは無かった。

 

「そういえば、更識の餓鬼がまた一機専用機を造るらしいな。コアはお前の姉貴が提供したとか」

 

「あの人が? 一夏が頼んだのか?」

 

「いや、オレも聞いた話だから詳細は知らんが、お前用に専用機を造ったはいいが、お前が力を制御することが出来ないと判断した篠ノ之束が、その専用機のコアを一夏に渡したらしい」

 

「何故そんなことを貴女が知っている。殆ど私と一緒にこの部屋にいる貴女が!」

 

「スコールから報告されただけだ」

 

 

 淡々と話すオータムに、箒は冷静さを取り戻す。ここで激昂してては、IS学園にいた時と何も変わらない。

 

「……ところで、何故IS学園の情報が逐一入ってくるんです?」

 

「前にも言わなかったか? 潜ってるヤツがいるって」

 

「あぁ、VTSのハッキングをしてたとかいう……」

 

「そいつから報告されるんだよ。まだ織斑姉妹にも更識の連中にもバレてないからな」

 

「そんな人がIS学園に……じゃあ、私が使った打鉄を持ち込んだのも」

 

「そいつに手引きされた組織の人間だな。オレら側の」

 

 

 そこで箒は、未だに亡国機業のリーダーらしい人物に会っていない事を思い出した。

 

「組織なのにリーダーがいないのか? まだ挨拶してないんだが」

 

「あ? 別に挨拶なんて必要ねぇよ。そもそも派閥が違うから、お前が入ったことすら知らないと思うぜ」

 

「どこの組織にも派閥というものは存在するのか」

 

「てか、無駄口叩いてる暇があるなら、さっさと成長してくれないか? オレだって暴れたくて仕方ないんだ」

 

「努力はしてるが、前回の試験で、私は射撃部門は赤点だったからな……これでも必死にやってるんだ」

 

 

 未だにCランクから成長しない箒の実力に、オータムはあきれ果てていた。だが、少しでも成長しようと努力してるのは、彼女から見てもよく分かるので、どう反応していいかに少し頭を悩ませたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本代表として、刀奈は現在中国との合同訓練に参加していた。もちろん、候補生である簪と美紀も一緒に。そして、中国側には鈴がいる。

 

「あーあ、こんな訓練さっさと終わらないかしらね」

 

「お姉ちゃん、自分の立場を考えて発言しなきゃダメだからね。外交問題とかになったら、また一夏の仕事が増えることになるんだから」

 

「でも、簪ちゃんだってそう思わない? 美紀ちゃんや鈴ちゃんだって一夏君と遊びたいわよね?」

 

 

 四人一グループということで、刀奈は簪と美紀と鈴とでグループを作り、こうして訓練の合間に愚痴を零していた。

 

「そりゃあたしだって、一夏と遊べるなら遊びたいですよ。でも、一夏が予定ぎっしりだって知ってますからね。国の決めたことに逆らってまで遊びたいとは思いませんよ」

 

「刀奈お姉ちゃんは、この前膝枕してもらってたじゃないですか。だから、少しくらい我慢しなきゃダメですよ」

 

「あれは、闇鴉がしてもらってたついでに、私もしてもらっただけだもん」

 

「何開き直ってるの? まだ抜け駆けしたことを許してないから」

 

「……はい、ごめんなさい」

 

 

 簪からものすごいオーラが流れ出し、刀奈は素直に頭を下げた。偶に本気で怒る簪には、刀奈や一夏でも手が付けられないので、その時は素直に謝るのが一番だと結論付けられたのだ。

 

「さて、そろそろ再開しないと怒られそうですね。ペアマッチの練習なのはいいけど、あたしと会長さんとじゃ実力差が……」

 

「じゃあ鈴ちゃんと誰か日本の候補生と交代する? 鈴ちゃん、中国の候補生に親しい人がいないんじゃなかったっけ?」

 

「……あんまり中国にいませんでしたから。それに、あたしが一夏と友達だって知られてるみたいで、教えろ教えろって五月蠅いんですよ」

 

 

 更識一夏とは、全世界のISに関わる人が一度は聞いたことある名前であり、その一夏と親しい鈴がいれば、その事を聞き出したいと思ってしまうのだろう。ましてや、異性との付き合いに乏しいIS操縦者だ。その衝動が強いのも仕方のない事なのかもしれない。

 

「それじゃあ仕方ないわね……じゃあ、頑張って簪ちゃんと美紀ちゃんの相手を務めましょう。これでも、私は全力を出さないようにしてるんだから」

 

「手を抜いている……わけじゃないですね。手加減してると言うべきでしょう」

 

「刀奈お姉ちゃんが本気なら、私と簪ちゃんはすぐに負けますから」

 

「普段だらけてるくせに、実力だけは本物だから質が悪いよね」

 

「簪ちゃん辛辣だよ~……お姉ちゃんだって、頑張るときは頑張ってるんだから!」

 

「普段から頑張らなきゃダメな立場でしょう? 威張って言う事じゃないよ」

 

 

 簪の毒舌に、刀奈は棒のような涙を流す。ここ最近一夏に会えないからなのか、簪の毒舌が好調だと、ルームメイトの美紀は思っている。

 

「(よっぽど合宿所での生活が嫌なんだろうな……まぁ、私も一夏さんに会えないのは寂しいですけど)」

 

 

 美紀も同じ気持ちだからこそ、簪をどうにかできないかと思っているのだ。実害はとりあえず、刀奈にしかないので、今は本格的に悩んでいるわけではないのだが。




会えない寂しさはみんな同じなんですけどね……

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