暗部の一夏君   作:猫林13世

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戦闘シーンはカットで


勝者は…

 自分には縁がないモノだと思っていた専用機が手に入るかもしれない。そうなると人間、欲が全面に出てしまうものだ。クラスメイトとの争奪戦、という形だが、別に殴り合って決めるわけでもないので、まだ穏便だといえるのかもしれないなと、一夏は他人事のように目の前で行われているバトルロイヤルを眺めていた。

 

『一夏さん、勝ち抜き戦だったのでは?』

 

「ああ。だから、勝ったらそのまま専用機ゲット。分かりやすいだろ?」

 

『だったら最初からバトルロイヤルだって言ってあげれば良かったのでは?』

 

「トーナメントでやるより早く決まるから良いだろ? それに、日下部さんが今回は参加しないってなったから人数が減ったし」

 

『……どことなく面倒くさがりですよね、一夏さんって』

 

 

 投げやりな態度で答える一夏に、闇鴉が呆れたのを隠そうともしない感じで呟いた。

 

「早く終わる方がその人のデータを取る時間が出来るし、細かな調整もすることが出来る。持ち主が決まってからじゃないと出来ないことが多いんだから、その持ち主はさっさと決めてもらった方が良いだろ」

 

『データなんて、この間の定期試験の結果で十分でしょうが。それに一夏さんなら、調整時間も平均を大きく上回るスピードで終わらせられるんですし、じっくりと決めてもらってもさほど変わらないのでは?』

 

「……刀奈さんやお前の相手をしなくてもいいならじっくり決めてもらうが」

 

『早いことはいいことですね!』

 

「変わり身早いな……」

 

 

 自分との約束を忘れていなかった一夏に感動し、闇鴉は一夏の考えを全面的に支持した。

 

『将来有望とされている人の中でも、やはり実力差はあるんですね』

 

「あたりまえだろ。同じ候補生でも、セシリアやラウラたちより美紀の方が強いが、その美紀より簪の方が強いんだ。一括りにされている中にも、当然差はあるだろう」

 

 

 五人で始まったバトルロイヤルも、残りは鷹月静寐と相川清香の二人だけになっており、その二人の残りSEにも結構な差があるのだ。

 

「こりゃ決まりかな」

 

『鷹月静寐さんなら、一夏さんも緊張することはありませんしね』

 

「バレてるからな」

 

 

 静寐は一夏が対人恐怖症で、限界を超えると幼児退行することを知っている。だから一夏としても、二人っきりで調整、という場面になった場合かなり楽なのだ。

 

『それで一夏さん。今回お造りになる専用機はどのような機体なんですか?』

 

「束さんが元々造ってた第四世代型をアレンジするつもりだ。といっても、残ってるのはデータだけで、機体そのものは束さんがスクラップにしたらしいがな」

 

 

 懐から取り出したデータチップを見せながら、一夏は苦笑いを浮かべる。機体が残っていればさらに楽が出来たのに、とでも言いたそうな顔だと、闇鴉は内心呆れていたのだった。

 

「そこまで。五人ともお疲れさま。とりあえずピットに戻って一休みしてくれ。勝った静寐は後で生徒会室に来てくれればいいから」

 

 

 バトルロイヤルが終了し、オープン・チャネルで一夏が五人に指示をだし、一夏本人もモニター室から移動するために立ち上がった。

 

『生徒会室に行くんですか?』

 

「先行して静寐のデータを打ち込んでおかないとな。学園も政府も、戦力確保を人に押し付けるんじゃねぇよ」

 

『やさぐれてますね……でも、そんな一夏さんも好きです!』

 

「……悪いが、お前のボケにツッコんでる暇はないぞ」

 

 

 闇鴉の言葉をボケとして処理して、一夏はさっさと生徒会室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特訓を終えた香澄は、誰もいない部屋に帰ってきた。そう、香澄にはルームメイトがおらず、現状一人部屋なのだ。

 元々は鷹月静寐がルームメイトだったのだが、あまり馴染めずにいたところに調整が入り、篠ノ之箒を追い出す形で静寐がマドカのルームメイトとなった。その結果、一人部屋が二つ完成したのだ。現状、もう一つの一人部屋の住人は行方知れずになっているが。

 

「つ、疲れたぁ……織斑姉妹と小鳥遊先生の指導を受けられるのはうれしいけど、圧倒的に基礎体力が足りないような……」

 

 

 勉強ダメ、IS操縦もさほどうまくない、その上基礎体力も平均以下の自分が、何故あの場に呼ばれたのが不思議で仕方なかった。その理由を聞かされたとき、はじめて自分の特殊能力の存在をありがたいモノだと思ったのだった。

 

「でも、まさか更識君に知られてたなんて……あんまり話したことなかったけど、やっぱり裏表のない言葉で話す人はいいな。小鳥遊先生も、私じゃ対抗できないくらい心を閉ざす事が出来るとは思わなかったけど」

 

 

 聞きたくもない本音が聞こえてしまう体質から、あまり人と関わらないようにしてきたのだが、まさかこのような形で関係を持つとは思ってなかったのだろう。疲れたといいながら香澄の顔は笑っていた。

 

「篠ノ之さんには悪いかもしれないけど、いなくなってくれたおかげで私も友達が出来そう」

 

 

 ある意味で裏表のなかった箒だったが、それ以前の問題で香澄は箒に話しかけたことが無かった。だから行方不明になったと聞かされても、それほどの衝撃は受けなかったのだ。

 

「でも、行方不明になったって聞かされたときのクラスメイトの反応……微妙にうれしそうだったのはなんでなんだろう?」

 

 

 あの反応が一夏だったら、香澄も少しは納得出来たのだが、特に付きまとわれていたわけでもないクラスメイトが喜んだ理由は、香澄には理解できないのだった。

 

「まぁいいや……それより、汗を流して着替えなきゃ……」

 

 

 そう思っただけで、もはや香澄に動く体力は残されておらず、そのまま眠りについたのだった。




また専用機の名前を考えなければ……

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