暗部の一夏君   作:猫林13世

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実際にあったら嫌だな……


隣の彼女の特殊能力

 集められた面々の前で説教された織斑姉妹だったが、次の瞬間にはすでに立ち直り説明を始める態勢を整えていたのだった。だが、集められた説明をしたのは、織斑姉妹ではなく別の問題児だった。

 

「はろはろ~! 愚かな愚民ども、私が天才束さんだよ~!」

 

「……説明するつもりなら、もう少し普通に登場してもらえませんかね」

 

「いっくんのその鋭い視線! 束さんのあそこはもう……って、冗談だからその手を下ろしてもらえると嬉しいかな」

 

「……はぁ、それじゃあ説明よろしくお願いします」

 

 

 漫才みたいなやり取りが一段落し、束は改めて説明を始めることにした。

 

「えっとね、私の妹である箒ちゃんのために用意してたんだけど、いつまでたっても反省しなかったし、その上どっか行っちゃったから、余ってるコアがあるんだよね~。だからそれを更識機業に横流しして、お前らの誰かの専用機にしちゃおう! って案があるんだよね~。ちーちゃんとなっちゃん、それからいっくんのいるクラスの人間なら、それなりに技術もあるだろうから、模擬戦でもして最強を決めちゃおうってこと。理解できたか、屑ども」

 

「最後の言葉は聞かなかったことにしますし、横流しとは人聞きが悪いですよ。貴女が勝手にくれたんでしょうが。更識は独自にコアを造ることができますので、違法すれすれの方法で手に入れる必要はありません」

 

「えっと……それで一夏君。なんで私たちなの?」

 

 

 集められた理由は分かったが、何故自分たちなのかという具体的な説明がほしいと、静寐が申し出る。

 

「一年一組から出した方が、専用機の定期メンテナンスが楽というのもあるが、実技テストの結果を加味したからだけど、さっき束さんが言わなかったか?」

 

「実技テストの結果を加味した結果なのは分かったけど、それだと日下部さんが呼ばれた理由がイマイチ納得できないのよ。私じゃなく彼女が」

 

 

 そういって静寐が視線を香澄に向けると、ものすごいスピードで頷く姿が目に入った。

 

「彼女は人の本質を見抜く素質があるからな。ISにもそれが応用出来るのであれば、すぐに上達すると思って俺が呼んだ」

 

「更識君、なんでそのことを……」

 

「見ていれば分かりますよ。貴女程ではないですが、俺も全面的に人を信じられませんから。さて、今回はともかくとして、もし次回このようなことがあれば、日下部さんは間違いなく強敵になるでしょうね。そのこともよく考えて今回の勝ち抜き戦を戦ってください」

 

「日下部、お前はこっちで私たちと特訓だ。一夏に見込まれているお前なら、すぐにあいつらとそん色ない結果をのこせるだろう」

 

 

 香澄は織斑姉妹と碧に連れていかれ、別のアリーナでの特訓、なので専用機を手に入れられる確率が少し上がったことで、集められた面々のモチベーションはまた少し上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 特訓と称されてアリーナを移動している最中、香澄は織斑姉妹と碧の本音を探っていた。探る、といっても別に特別なことをするわけではなく、相手の言葉の裏に隠された本音を、彼女は聞いてしまうのだ。

 

「(更識君の言葉に嘘はなかった。でも、織斑姉妹や小鳥遊先生は別。指導しても上達しない私の事を呆れてるんだ……)」

 

「日下部さん、緊張してるんですか?」

 

「い、いえ! 更識君に高い評価をされてるなんて思ってなかったものでして……それに、元日本代表である先生三人に指導してもらえるなんて、ちょっと恐れ多いなって……すみません」

 

「お前の特殊能力を見抜いたのも一夏だ。あいつはとある事情で人を極端に恐れるからな……それで磨かれた観察眼をもって、お前が相手の本音を見抜くという特殊能力を持っていると知ったらしい」

 

「人の心を読む、とは別なんだろ? 聞きたくないことも聞こえてしまう。だからお前はクラスに馴染もうとしなかった。違うか?」

 

 

 織斑姉妹の今の言葉には裏を感じなかった香澄は、素直に本音を言うことにした。

 

「そうですね。最初の頃のオルコットさんやいなくなる寸前までの篠ノ之さん、転校してきたばかりのデュノアさんやボーデヴィッヒさん。言葉の裏に様々なことを隠していたのが怖かったのも確かにあります。でも一番は勉強も実技もダメな私が、エリート集団といわれる人とお友達になれるわけがないって諦めが一番でした」

 

「入学した時点で、お前とあいつらとにそれほど差があるとは思えんが」

 

「本当に偶然だったんですよ。実技試験で山田先生が操縦を誤って壁に激突しちゃったから……」

 

「あ、アイツは……」

 

 

 入学試験で摩耶がヘマをしたとは聞いていた織斑姉妹だったが、そのヘマをした時の相手が香澄だったとは知らなかったようで、二人は盛大にため息を吐いた。

 

「えっと……それじゃあ日下部さん。貴女はISの意志を感じたことはありますか?」

 

 

 気を取り直して、というわけではないだろうが、碧が一つ咳ばらいをしてから尋ねる。

 

「何となく、はありますけど……更識君みたいに声が聞こえるわけじゃありませんので、それがISの意志なのかどうかはっきりと分かるわけではありません」

 

「でも、何か感じるというわけですね?」

 

「はい……」

 

 

 碧が何を確認しているのかが分からない香澄は、少しびくびくしながら相手の反応を待った。特殊能力を以てしても今の碧の本音を聞き出すことが出来ない。これは香澄の人生の中で初めての事だった。

 

「貴女が特殊能力を持ってるって知れば、対処の仕方はあるわよ。これでも暗部組織の人間ですもの」

 

「……なんで私が驚いていることを」

 

「顔に出てるわよ。それに、心を閉ざす事自体は難しい事じゃないもの。まぁ、一夏さんが教えてくれなきゃ貴女の前で心を閉ざす事なんて無かったでしょうけども。それで、貴女が感じていたことがISの意志ならば、貴女は私たちではなくISに操縦方法を習った方が良いわね。そっちの方が確実だし、貴女にあった戦い方が身に付くわよ。私たちはそのお手伝いってわけ」

 

 

 碧にあっさりと種明かしをされて、少し肩透かし気味な気分を味わった香澄だったが、続けざまに言われたことを理解し、すぐに緊張を取り戻したのだった。




自分的にはモップさんよりこの子の絵が好きです

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