暗部の一夏君   作:猫林13世

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考えるの面倒だったので…


コードネーム

 亡国機業の拠点で生活している箒には、一つ疑問があった。

 

「これは更識が開発したシステムだろ? なんでここにもあるんだ」

 

「一般販売されてるんだから、あってもおかしくないだろ」

 

「そうじゃなく、システムが高度に設定されてる気がしてな……」

 

「へぇ、脳筋かと思ってたが意外と鋭いんだな、お前。IS学園に潜んでる奴がハッキングしたデータだぜ。まぁ、一夏って餓鬼が入学してからは、ハッキング出来なくなってるんだが」

 

「そうなのか。ところで、何故私はさっきから遠距離の練習をさせられてるんだ! 私は近距離戦闘が得意なんだ」

 

 

 オータムの説明に納得したところで、箒はもう一つの疑問を爆発させた。

 

「何故って言われてもな……今度奪うISが遠距離射撃型のISだからに決まってるだろ。お前が動かせるISは限られてるからな」

 

「学園のISじゃなきゃ動くだろうが! あれは一夏が嫌がらせで……」

 

「そんな事、あの一夏がするわけないでしょ。あれは単純に、貴女がISに嫌われてるだけよ」

 

 

 箒の妄言をスコールがぶった切る。箒は未だに一夏とスコールの関係がどのようなものなのか聞いていないが、あまり深い部分まで聞く関係でもないので踏み込めずにいるのだ。

 

「だいたい、貴女にISを使わせないようにして、一夏に何のメリットがあるっていうのよ」

 

「その一夏って餓鬼、お前と大して親しいわけでもなければ、興味も持ってない感じなんだろ? 自惚れもそこまでいくと滑稽だな」

 

「……で、貴女が来たということは、何かあったんですか?」

 

「そうねぇ……アメリカの企みが一夏にバレちゃったぽいのよねぇ……これで、アメリカから技術提供してもらおうって上層部の考えは破談ね」

 

「そもそもなんでアメリカなんだよ。あそこは金だけだろ」

 

「イスラエルの技術力は馬鹿にできないでしょ。だからアメリカがイスラエルから奪った情報で、組織もIS産業に参入するつもりだったんじゃないの。いつまでも更識の独壇場なのが気に入らないんでしょうよ」

 

 

 呆れてるのを隠そうともしない口調で言うスコールに、オータムも全面的に同意した。

 

「それで、例の作戦の決行は?」

 

「SHがもう少し遠距離射撃に慣れてから、かしらね……使えないのに奪っても邪魔なだけだし」

 

 

 SH――篠ノ之箒の頭文字だが、亡国機業では箒はそう呼ばれることになった。冗談でオータムが――

 

「箒ってモップの親戚だろ? だったらMでいいんじゃね?」

 

 

――と言ったら箒は立てかけてあった鉄パイプを振り回したので、さすがのオータムもそれ以上冗談は言えなくなっていた。

 

「それじゃあ、訓練頑張ってね。私は上層部の顔色伺いをしてこなきゃ」

 

「オレも暴れたいぞ」

 

「なら、SHの対戦相手でもしてなさいな。VTSを搭載した機械は五台あるんだから」

 

「相手にならねぇよ。肉弾戦なら兎も角、射撃戦じゃこいつはまだまだだからな」

 

 

 歯噛みをしながらも言い返せない実力であると自覚している箒は、いつか見返してやると心に決めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鷹月静寐、相川清香、谷本癒子など、一年生の中でも織斑姉妹や小鳥遊碧などに指導されている一組の面々は、他のクラスと比べて技術面での成長が著しい。その代り、座学の面では芳しくないのだが……

 その面々が急遽アリーナに呼び出されたのが夏休みに入る数日前。臨海学校から戻ってきて一週間も経たないくらいだ。

 

「なんで呼ばれたんだろうね? 相川さんは何か聞いてないの?」

 

「聞いてないわよ。癒子は?」

 

「私も何も……そもそも、更識君と一番親しいのは、この中じゃ鷹月さんじゃない。鷹月さんこそ何か聞いてないの?」

 

「今回の呼び出しは一夏君じゃなくって織斑先生だからね。さすがに何も聞いてないわよ」

 

 

 一年一組には、専用機持ちが多いのもあって、それぞれの技術力向上に役立っている。だがやはり一番の理由と考えられるのは、一夏にいいところを見せたい、という乙女心だろう。

 

「ところで……彼女も呼ばれてるんだね」

 

「更識君の隣の席の子だよね……名前何だっけ?」

 

「貴女たち……クラスメイトの名前も覚えてないの?」

 

 

 静寐に呆れられ、清香と癒子は苦笑いを浮かべる。普段から交流があれば別だが、一夏の隣の席というだけであまり話した記憶はない。むしろ、その反対側の席が箒だったために、なるべく近寄りたくなかったというのが本音なのだが。

 

「彼女は日下部香澄さんよ。私もあんまり話したことはないけど」

 

「あの子って、確か実技も座学も赤点ギリギリだったんじゃ……」

 

「じゃあこの集まりって、補習なの!? 私赤じゃなかったよね!?」

 

「随分と騒がしいな、小娘ども」

 

「わたしたちが来ると分かっているのに騒いでるとは……よほど命を捨ててもいいと思っているようだな」

 

 

 三人の背後に、冷たい空気が流れた。ゆっくりと背後を確認すると、そこには出席簿を構えた『悪魔の姉妹(デビル・シスターズ)』が立っていた。

 

「千冬先生、千夏先生も。私たちが来たのは今さっきなんですから、おしゃべりくらい大目に見てあげましょう。一夏さんもそう思いますよね?」

 

「そうですね。いきなり現れて理不尽に罰則を与えるなんて、減給ものですね。轡木学長に報告しておきましょうかね」

 

 

 そのさらに背後で、一夏が携帯を操作しだすと、織斑姉妹は振り上げていた出席簿を下ろし、一夏に懇願するように頭を下げた。

 

「えっと……それで一夏君。これってなんの集まりなの?」

 

「ん? 聞いてないのか?」

 

「うん。千冬先生に『放課後アリーナに来るように』って言われただけ」

 

 

 静寐からそのことを聞いた一夏は、背後で逃げようとしていた織斑姉妹に最高の笑顔を向けて呼び止めた。

 

「千冬先生、千夏先生、後程お話がありますので寮長室でよろしいでしょうか?」

 

「「は、はい……」」

 

 

 元世界最強のこんな姿を見ても、生徒たちが憧れを抱くのは変わらない。そのことが一夏は不思議でならないのだった。




オータムもビビる箒の逆鱗……

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