暗部の一夏君   作:猫林13世

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一夏がいれば機能します


生徒会の動き

 学園に戻ってきてすぐに、一夏は生徒会室を訪れた。帰りのバスの中で刀奈と虚には箒の一件を暗号メールで送ってあるので、対処の準備はすでに整っていた。

 

「おかえりなさい、一夏君。早速だけど日本政府への事情説明は済ませておいたわ」

 

「こちらも全世界に亡国機業について問い合わせましたが、今のところその全容は分かっていません」

 

「すみません、いきなりこんな事頼んでしまって。それで、アメリカとの交渉は?」

 

「そっちは問題ないわね。更識の名前だけなら兎も角、織斑姉妹と篠ノ之博士の名前が出たんだもん。逆らおうなんて思わないわよ」

 

 

 書類に目を通しながら刀奈の報告を聞く一夏の目は、普段より真剣味が増していた。

 

「この報告書、事実ですか?」

 

「多分嘘でしょうね。アメリカ側はイスラエルの裏切りとして処理したいんでしょうけども」

 

 

 銀の福音が暴走原因は、アメリカではなくイスラエルにあるという報告を読み、一夏は眉を顰める。そもそもアメリカとイスラエルが共同開発という手段をとった理由は、アメリカは資金はあるが技術がなく、イスラエルは技術はあるが資金が無い、というお互いの欠点を補うための共同開発だ。技術力で勝るイスラエルが、そのような事をして貴重な資金源を手放すとは一夏には考えられなかった。

 

「イスラエルから得た技術を使い、アメリカ独自の開発したISとして発表したいんだろうな」

 

「国際問題に学生を巻き込まないでほしいわよ……ところで、これだけ頑張って調べたんだから、お姉さん、何かご褒美がほしいかな~」

 

 

 甘えるようにすり寄ってきた刀奈を、一夏は視線で制して手近な書類に目を通し始める。

 

「お嬢様、一夏さんの邪魔だけはしないように」

 

「せっかく一夏君が帰ってきてるのに、甘えられないのは寂しいよ……虚ちゃんだってそうでしょ?」

 

「そういうことは、この問題が一段落ついてからです」

 

 

 虚に注意され、刀奈は不貞腐れながらも一夏にすり寄ることをやめた。

 

「銀の福音の件は、引き続き尊さんにお願いするとして、問題は篠ノ之の方ですね。在籍させたままにするのか、それとも除籍して、何か問題を起こす前に無関係にしておくか……生徒会長はどう考えます?」

 

「箒ちゃんは自分の意志で亡国機業に向かったのなら、早急に無関係にしておくのが正解かもね。ちょっと調べただけで相当やばい組織だってことは分かったもの」

 

「では、そのように手続きしておきましょう。篠ノ之の保護者には織斑先生から説明の連絡を入れてもらいましょう。束さんでもいいですけど、あの人だと説明にならないでしょうし」

 

 

 携帯を操作し、千冬に箒の件を一任するメールを送ると、すぐさま返信がくる。内容は了承を伝える旨と、報酬を要求するものだったが、一夏はそれを無視して話を続けることにした。

 

「銀の福音のデータ解析は俺がやりますが、場所を借りたいので生徒会権限で整備室を抑えられませんか?」

 

「それは問題ないですけど、いつも一夏さんが使ってる場所ではいけないのですか?」

 

「束さんが来るかもしれませんし、更識につながるものがある場所にあの人を近づけるのは避けた方が良いですからね。ただでさえ、あの人は知りすぎているんですから」

 

 

 束は一夏がコアを造れることも、一夏が実は『楯無』であることも知っている。この上VTSの仕組みやら更識の現状やらを知られると非常に面倒なことになりかねない。例えば、秘密を守る代わりにデートしろとか……

 

「整備室は問題ありません。夏休み直前ということで、普段より利用者が少ないですから。ですが、解析の後でアリーナを使われる場合は、追加で申請してもらうことになりますが、問題ないでしょうか?」

 

「それは構いません。いくら生徒会とはいえアリーナの使用は正規の手続きを踏まなければいけませんからね」

 

 

 整備室はある程度融通を利かせることができるが、アリーナはそうはいかない。ただでさえ訓練機使用許可を取るのが大変なのに、その時間帯に生徒会が割り込みでアリーナを使用していたから訓練が出来ないという問題が発生したらしいのだ。

 

「いったい誰が割り込みで……あぁ、刀奈さんですか」

 

 

 一夏が呟いた言葉に刀奈が気まずい顔をしたので、一夏は一人で納得して話を先に進める事にした。

 

「ナターシャ・ファイルスさんには更識所属ということになってもらいますが、表向きはIS学園の非常勤教師ということになりますので、そちらの手続きもお願いします」

 

「分かりました。お嬢様、轡木学長に連絡をお願いします」

 

「はいはい。それじゃあ一夏君と虚ちゃんは簪ちゃんと三人で銀の福音の解析をお願いね。そっちは私、手伝えないし」

 

「俺一人で問題ないですが……みんなとの時間を確保するために、手伝いをお願いします」

 

 

 特に刀奈と虚は臨海学校の間、一夏と一緒にいられる時間がなかったのだから、それくらいの時間を作る努力を一夏に強いても一夏以外から文句は出ないだろう。そして一夏はそれを強いられたとは思わない。

 

「では、各自迅速に作業を終わらせて一夏君の部屋に集合ね! そこで思いっきり甘えてやるんだから!」

 

「お手柔らかにお願いします。闇鴉からも頼まれごとがあるので……」

 

 

 マドカとエイミィを運んだ時に約束したことを、闇鴉は一夏にだけ聞こえるようにずっと呟いているのだ。いい加減ノイローゼになりそうなくらい言われているので、一夏としてはそっちも急いで片付けたいのだった。

 

「それでは一夏さん、簪お嬢様と合流して整備室へ行きましょう」

 

「そうしましょうか。本音と美紀にはナターシャさんの案内をお願いしておきましょう」

 

 

 簪へのメールに、他のメンバーへの指示も書き込み、一夏は簪へメールを送信したのだった。




どっちが会長か分からないな、これじゃあ……

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