暗部の一夏君   作:猫林13世

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いろいろと複雑に……


様々な問題

 ナターシャから聞きたいことを聞き出した一夏は、美紀にナターシャの面倒を見るように告げ部屋から出て行ってしまった。

 

「随分と落ち着いた子ね……あれが旧姓織斑一夏……ISに人生を狂わされた男の子」

 

「アメリカでも知られてるんですね」

 

 

 誰に聞かせるでもなくつぶやいた独り言に、美紀が合いの手を入れた。

 

「織斑姉妹、小鳥遊碧、篠ノ之束に並び、全世界で彼の名前を知らない人はいないわよ。まぁ、前者の四人と違うのは、顔をあまり知られていないって事かしらね」

 

 

 表向きの当主は尊が務めているし、一夏は別に国家代表でも候補生でもない。表の世界で顔を知っているのは、知人か昔なじみくらいなものだ。

 

「一夏さんは人前に出て何かをするタイプの人じゃないですからね」

 

「そうみたいね。あれだけ落ち着いて尋問できるんだから、参謀とか副官向きね、彼は。ところで、私が更識に匿われる事になったとして、貴女はいいのかしら? 更識に人間が増えれば、彼と一緒にいられる時間が減るんじゃないかしら?」

 

「……どういう意味でしょうか?」

 

 

 ナターシャが何を意図して質問してきたのが理解できず、美紀は本気で首を傾げた。

 

「だって、貴女と彼、付き合ってるんでしょ?」

 

「んなぁ……ち、違いますよ! 一夏さんは誰ともお付き合いしていません!」

 

「じゃあ片思い? 彼も貴女の気持ちは知ってるの?」

 

「ですから!」

 

 

 美紀は更識内の複雑な事情をナターシャに説明することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今までの生活から離れた箒は、まずスコールが拠点としてる場所へ案内された。

 

「随分と豪華な場所だな……亡国機業ってのは儲かってるのか?」

 

「別に儲かってるとかじゃないわよ。経営してるだけ」

 

「つまりコネだな」

 

 

 スコールとオータムがあっさりと種明かししたことに疑問を覚えた箒だが、細かいことは気にしないと決めたので深くは尋ねなかった。

 

「ここでは私たちは普通のお客さん。下の方には普通のお客さんもいるから、あんまり物騒なことはしないでちょうだいね。特に貴女、IS学園では猪武者扱いだったんでしょ?」

 

「あれは私が悪いんじゃない! 一夏が私を無視してほかのやつと……」

 

「別に付き合ってたわけじゃないんだろ? 無視とかじゃなく、お前に問題があったんじゃねぇの?」

 

 

 オータムの遠慮のない指摘に、箒が激昂した。

 

「何も知らない貴女にそんなことを言われる覚えはない! 一夏は私の幼馴染で将来を誓った仲なのだ!」

 

「それ、貴女の妄想でしょ? いろいろ調べたけど、貴女と一夏の関係はただの昔馴染み。あと少し関係が悪化してたら、ただのストーカーよ」

 

「そんなことはない! 一夏だってきっと私のことを……」

 

 

 痛々しい妄想を繰り広げる箒を、スコールとオータムは苦笑いを浮かべながら眺めていた。

 

「なぁスコール」

 

「何かしら、オータム?」

 

「本当にこいつでよかったのか? Mの方が使えそうだぜ?」

 

「自分の意志でこちら側に来たんですもの。洗脳とか調教とか、面倒な手間が省けたのよ。それでいいじゃない」

 

「だがよ……」

 

 

 まだ何か言いたかったオータムだったが、スコールに耳元で囁かれたせいで何も言えなくなってしまった。

 

「なんで貴女たちは抱き合ってるんです?」

 

 

 二人の関係を知らない箒は、目の前で抱き合っている――ように見える――二人に素朴な疑問を投げかけた。

 

「貴女には刺激が強すぎる世界かもしれないわよ?」

 

「お、オレはレズじゃねぇ……」

 

「はいはい。言い訳はベッドで聞くわよ」

 

「……人の趣味に口を挿むつもりはないです。趣味嗜好は人それぞれですから」

 

 

 物わかりのいいことを言う箒を前に、スコールは――

 

「(元の世界でもこれだけ物わかりが良ければね)」

 

 

――などと思っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 行方不明者一名は出たが、それ以外大きな問題もなく臨海学校は幕を下ろした。まだいろいろと手続きやら交渉やらは残っているが、一夏を除く生徒にはさほど影響はないことなので誰も気にした様子はなかった。

 

「まさか箒がいなくなるなんてね」

 

「篠ノ之さん、よっぽどIS学園での生活が嫌だったのかしらね」

 

 

 バスで隣に座るシャルロットと静寐は、失踪した箒のことを話し合っていた。

 

「まぁ、箒さんはIS学園にある訓練機から、もれなく嫌われていたと聞きましたし、織斑姉妹からも退学寸前だと言われていたようですしね」

 

「問題児だということだな」

 

 

 二人の前に座るセシリアとラウラも、失踪した箒のことを口にしていた。通路を挟んだ隣には、美紀や本音、マドカといった更識所属の面々が座っているが、誰も真相を聞こうとはしない。

 

「そういえば、お兄ちゃんはまだバスに乗ってないがどうしたんだ?」

 

「一夏さんなら織斑先生たちと何か話があるとかで、まだ旅館に残ってますよ」

 

 

 ラウラの質問に美紀が答えたが、その回答があまりにもスムーズだったことにラウラは疑問を抱いた。

 

「何かあったのか? 今の返答にかかった時間、あまりにも早すぎる。まるで用意されていた回答のようだ」

 

「……大したことではありませんよ。更識所属がまた増えて、一夏さんや刀奈お姉ちゃんの負担が増えそうで心配なだけです」

 

「所属が増える? あぁ、例の銀の福音の操縦者さんか。彼女も更識所属になるの?」

 

「いっちーにかかれば、アメリカ軍だろうが何だろうが交渉に応じるのだ~」

 

 

 まるで自分の手柄のように語る本音に、他の女子は呆れた視線を本音へと向ける。

 

「まぁ、そんなわけでして、一夏さんがバスに来るのはもう少し後になりそうです」

 

「一夏さんも大変ですわね……やはり更識家次期当主候補というのは大変なのですね」

 

「……そうですね」

 

 

 まさか現役の当主だとは言えない美紀は、先ほどより苦めの笑みを浮かべ誤魔化したのだった。




スコールの思った通りだな……

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