暗部の一夏君   作:猫林13世

165 / 594
完全に闇組織の一員ですね…


闇落ちの箒

 作戦指令質から逃げ出した箒を待っていたのは、亡国機業の女幹部二人だった。

 

「ようこそ、篠ノ之箒さん」

 

「まさかMを見つけたと思ったら別の掘り出しもんがあるとはな」

 

 

 自分が掘り出し物なのだろうと理解しながらも、箒は一応の確認と抗議の意味を込めて問いかけた。

 

「おまえらが言う掘り出し物と言うのは私か? なぜこんなことをした?」

 

「戦力的にも、今の更識とやり合うのは厳しいのよね。そこでMを誘拐して洗脳しようと思ってたんだけども、Mより貴方の方が使えると思ったのよ。洗脳なんてしなくても私たちと一緒に戦ってくれそうだしね」

 

 

 Mと言うのが誰なのか、洗脳とは物騒だなと思いながらも、箒は女の説明をもう少し詳しく聞きたくなっていた。

 

「一緒に戦うということは、私にもISが与えられるということか?」

 

「与えられるんじゃなくって奪うんだけどな。今度イギリスの第三世代型ISを奪う計画があるから、それがおまえの専用機になるぜ」

 

「奪う……つまりおまえたちは犯罪組織だと言うことだな」

 

「そうね。だから貴女が私たちの仲間にならないと言うなら、殺すしかなくなるわよ?」

 

 

 ISの武装を展開し箒の喉元に突きつける女。

 

「おまえたちの目的は何だ? なぜ更識に対抗しようとする?」

 

「そんなの簡単よ。あの家にいる人間がほしいから」

 

「……生徒会長の更識刀奈か?」

 

 

 箒は一番可能性のある更識の人間を頭に思い浮かべたが、それは見当違いだった。

 

「そんなISに使われてる人間なんていらないわよ。たとえ現役の国家代表だろうと、私たちには必要ないわ」

 

「じゃあ誰だと言うんだ!」

 

 

 答えが分からない箒は、激高し突きつけられているISの武装を退け女に詰め寄る。その行動をもう一人の女が楽しそうに見ていた。

 

「すげぇな、お前。そんな動きが出来るのになんで捕まってたんだよ? 縄抜けだって簡単に出来るだろうに」

 

「織斑姉妹からは逃げられないからな。あの二人は一夏に逆らえないから、アイツが私を避けている間は不当な扱いをしてくるんだ」

 

「一夏……それって織斑一夏のことよね?」

 

 

 ISを展開したままの女が、箒に訪ねる。そこで箒は相手の名前を聞いていなかったのを思い出した。

 

「お前らの名前は何だ? それから、どこかの集団のようだが、その組織の名前も教えろ。仲間になるにしても殺されるにしても、お前らの名前くらいは知りたい」

 

「スコールよ。あっちの短気なのがオータム。そして私たちは亡国機業と呼ばれる組織よ」

 

「短気とは失礼だな! オレはさっさと答えないやつが嫌いなだけだ」

 

 

 それを短気というのでは、と箒は思ったが、名乗られたからには答えなければなと、律儀なことを考えていたのだった。

 

「篠ノ之箒だ。あと、お前らが言っていた織斑一夏はもういない。今は更識一夏だ」

 

「知ってるぜ。あいつが織斑じゃないこともお前の名前もな。まぁ、律儀に名乗るということは、オレたちの仲間になるって事でいいんだな?」

 

 

 ニヤリと笑うオータムに、箒はうなずいて肯定した。

 

「私を不当に扱うIS学園より、お前らの組織――亡国機業? とかいうところの方が自分を高められそうだ」

 

「ようこそ、篠ノ之箒さん。貴女もこれで世界中から追われる身になったわね。とりあえず拠点までは私のISに掴まってなさい」

 

 

 スコールに持ち上げられ、箒はIS学園から亡国機業へと身を落としたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦指令室では、篠ノ之箒をみすみす連れ去れた罰として、織斑姉妹と篠ノ之束が正座させられていた。その前には一人の少年が仁王立ちしている。

 

「万が一篠ノ之が遺体で発見された場合、貴女たちは保護責任問題を問われても仕方ありませんからね」

 

「「「はい……申し訳ありませんでした」」」

 

「亡国機業の狙いが何なのかまだ分かりませが、篠ノ之を攫った理由があるのでしょう。いずれ何かしらのコンタクトがあるかもしれませんので、山田先生にはその対応をお願いしたいと思います」

 

「分かりました。何かしらのコンタクトがあったら更識君に報告します」

 

「碧さんにはこの馬鹿三人の監視と生徒への説明をお願いします。篠ノ之がいなくなった事で不安になる生徒もいるかもしれませんし」

 

「分かりました」

 

 

 大人たちに的確に指示を出していく一夏を、紫陽花は呆気にとられた表情で眺めていた。

 

「五月七日先生はまず傷を癒してください。それが済みましたら複数人の有望な生徒の指導を碧さんと一緒にお願いします。性格に難がありましたが、篠ノ之は有望株でしたから、その代わりを育てないといけませんし」

 

「は、はいっ!」

 

 

 候補者としては、鷹月静寐、相川清香などが頭に浮かんだが、それよりも一夏に命令されることにまったく違和感を覚えない自分に驚いていた。

 

「(なんでだろう……更識君、すごく人に指示を出すのに慣れてるような気が……)」

 

「一夏、救出したナターシャ・ファイルスさんが意識を取り戻したよ」

 

「分かった。こっちが終わったら会いに行くと伝えてくれ」

 

「了解なのだ~」

 

 

 簪と本音にも軽く指示を出し、一夏は再び正座している三人に向き直った。

 

「織斑姉妹には小鳥遊先生と五月七日先生が指導している間の山田先生の補佐、および日本政府への説明をお願いします。篠ノ之博士には衛星を駆使して篠ノ之箒の行方を捜索してもらいたいと思っていますが――何か不満はありますでしょうか?」

 

 

 あえて慇懃無礼にいう一夏に対し、織斑姉妹と束は無言で首を左右に振った。つまり異存なしということだ。

 

「では、事後処理はお任せします。俺は意識を取り戻したナターシャ・ファイルスさんの今後について話し合ってきますので」

 

 

 それが一生徒の仕事では無いと、誰もが分かってはいたが、誰もそれに反論できる大人はいなかったのだった。




一夏が一番立派っぽいな……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。