暗部の一夏君   作:猫林13世

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織斑姉妹がしっかり見張ってれば……


誘拐

 束が織斑姉妹と同じ病気だと判明した事で頭を押さえていた一夏だったが、すぐに頭を振って真耶に一枚のデータチップを手渡す。

 

「碧さんが不審なISの撮影に成功しましたので、モニターに表示お願いします」

 

「分かりました。ちょっと待って――って、何してるんですか篠ノ之博士!?」

 

「ドジっ子メガネに任せるより束さんの方が早いからね~、ほい映像出るよ」

 

 

 さすがは大天災と言うだけあるのか、束は数秒でモニターに映像を表示した。

 

「蜘蛛?」

 

「いやいや、ちゃんとISだね~」

 

「そう言えば、何処かで見たことあるような……気の所為か?」

 

 

 一夏が首を傾げるたタイミングで、銀の福音回収に向かっていた面々が作戦司令室へやってきた。

 

「ご苦労だったな。事後処理は大人の仕事だから、お前たちはもう休め」

 

「ん? 織斑、顔色が悪いがどうした」

 

「何で……どうしてそのISがモニターに映ってるんですか!」

 

「マドカ、知ってるのか?」

 

 

 一夏がマドカと目線を合わせるようにしゃがみこみ、そして落ち着かせるように肩に手を置いて問いかける。マドカは一瞬落ち着きを取り戻したが、今度は別の理由で緊張していた。だが、その事は今は気にしないように務め、一夏の問いかけに答える。

 

亡国機業(ファントム・タスク)……オータムが使っているIS――アラクネです」

 

「亡国機業……マドカが所属していた組織か」

 

「はい、兄さま。そこの上位に位置する実力者で、破壊行動を趣味とする危ない女です」

 

「でも、何でその組織が……ん? 千冬先生、千夏先生、篠ノ之は何処に行きました?」

 

「ほよ? 何かないっくん?」

 

「いえ、束さんでは無く……」

 

 

 辺りを見渡した一夏は、部屋の隅に蜘蛛の巣が張ってあるのに気が付く。

 

「こんな物、さっきありましたっけ……? これ、ISの武装か」

 

「何でこんな物が……」

 

「真耶、この部屋に監視カメラは付いているか?」

 

「いえ、この部屋にはカメラは付いていません。ていうか、篠ノ之さんはお手洗いに行ったはずですよ。紫陽花が付き添いで」

 

 

 真耶が不思議そうな顔で織斑姉妹を見つめる。一夏は二人が監視を怠っていたのではないかと疑い、織斑姉妹の正面に立った。

 

「まさかとは思いますが、篠ノ之の監視を五月七日先生に押し付けたのですか?」

 

「い、いや……トイレに行かせるくらいわたしたちじゃなくても出来るだろ?」

 

「それに、私たちだって他の教員に指示とか出さなきゃいけなかったので忙しかったんだ。バカ箒に感けてる余裕は……」

 

「お、織斑先生……」

 

 

 姉妹の言い訳が続く中、作戦司令室にボロボロになった紫陽花が戻ってきた。

 

「五月七日先生、どうしたんですか!?」

 

「な、謎のISに襲われ、篠ノ之さんを誘拐されました」

 

「それってこんなISですか?」

 

 

 一夏がモニターに映るISを指差すと、紫陽花はボロボロなのを忘れたように大袈裟なリアクションを取った。

 

「そう! それともう一機いましたけど、間違いなくそのISです! 糸のような物を巻き付けて篠ノ之さんを連れていってしまいました」

 

「……何が目的で篠ノ之を?」

 

「箒ちゃんの思考は犯罪者に近いものがあったからね~。ストーカー思考って言うのかな? いっくんの周りから他のすべての人間を排除して、そして自分だけがいっくんの側にいたいって」

 

「変態思考の間違いだろ。お前そっくりじゃないか」

 

「私はいっくんが悲しむ事は極力しないよ~」

 

 

 織斑姉妹と束のじゃれあいを無視して、一夏はアラクネの糸が何処に繋がっているかを辿る、すると屑かごに何か紙が捨てられている事に気付く。

 

「この紙屑は誰が捨てたものです?」

 

「わたしたちでは無い。真耶か?」

 

「いえ、私ではありません」

 

 

 一夏がくしゃくしゃに丸められた紙を開き中を確かめる。

 

「『不当な扱いから解放されたければ、トイレに立つふりをして監視から逃れろ』……指示みたいですね」

 

「だけどいっくん、何で箒ちゃんの監視にちーちゃんたちが付かないって分かってたんだろう?」

 

「この場所が観察されていて、篠ノ之より作戦だと言う事を織斑姉妹が考えると分かっていたのでしょう。拘束もしてなかったようですしね」

 

「お前らの戦いを見せれば、あのバカも改心すると思ったのだが……その隙を突かれるとは」

 

「相手の気配は碧さんでも掴み難いものでしたので、気配察知で劣る我々が気付けなかったのは仕方ないです。ですが、何故篠ノ之の監視に五月七日先生を付けたのですか? 束さんもフォローに回るとか言ってましたよね?」

 

 

 自分に矛先が向いた事に居心地の悪さを感じた束は、何も無かった空間からとあるものを取りだした。

 

「この箒ちゃん探知機があれば、今箒ちゃんが何処にいるかが分かるよ! えっと……反応なし……この旅館から半径二キロ以内には箒ちゃんの気配は無い」

 

「誤魔化そうとしても無駄です。そもそも二キロ以内なら碧さんの策敵範囲です。篠ノ之の気配はおろか、敵の気配もないんですからその結果は当然です」

 

「い、一夏……今は篠ノ之捜索より何故篠ノ之を連れ去ったのかを調べるのが先じゃないか?」

 

「理由は何となく分かりますよね? マドカが抜けたことで戦力ダウンしたその組織が、武力だけなら十分の篠ノ之を欲しても不思議ではありません。おそらく例の打鉄を篠ノ之に使わせたのも亡国機業でしょうし……篠ノ之に反応するISを使わせこちらと戦わせるのが狙いでしょうね」

 

 

 一夏の推測に、クラスメイトの専用機持ちたちは微妙な表情を浮かべる。箒の武力については、一応知っているからなのか、それとも戦いになった時やり難いと感じているのかは、一夏には分からなかったが。




ぐるぐる巻きから解放したらこれだ……

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