暗部の一夏君   作:猫林13世

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前からあった気はしますが…


新たな病気

 一夏の指示で上空を目指していたマドカとエイミィの横を、何かが高速で通り過ぎて行った。

 

「今、何かとすれ違いませんでした?」

 

「分からない……何か風が吹いたとは思ったけど」

 

 

 互いに不思議そうな顔を浮かべたが、とりあえず上空を目指そうとした二人に、上から声がかけられる。

 

「あれ? マドカちゃんにエイミィちゃんじゃないの。どうしたの? 作戦は終わったの?」

 

「碧さん? 兄さまが上空に不審なISの反応があるからって……」

 

「逃がしちゃった……追いつめたと思ったんだけど、自爆まがいな事で目晦ましされちゃって」

 

「じゃあ、さっき私たちの横を通り過ぎて行ったのって……」

 

「多分今回の事件の主犯――というか、裏で糸を引いてた組織でしょうね」

 

 

 悔しそうに唇を噛む碧に、マドカは素朴な疑問を投げかけた。

 

「何故碧さんがここに? 本部で姉さまのフォローをしていたのでは……」

 

「一夏さんの命令でね。もしこの前の訓練機暴走と同じ犯人なら、近くで見てるかもしれないからって」

 

「さすが兄さまですね。でも、私たちに確認させに行かせようとした意味は?」

 

「私が苦戦してるのに気づいてたんでしょうね。追いつめはしたけど、こうして逃げられてるわけだし」

 

 

 悔しがってるのを隠そうともしない碧の態度に、エイミィが顔をひきつらせる。

 

「元世界一の小鳥遊先生でも苦戦する相手って、いったいどんなIS乗りなんですか……」

 

「見た事無いISだったわ。木霊の案で映像録画してあるから、後で一夏さんと篠ノ之博士に解析してもらおうと思ってるけど」

 

「操縦者は確認出来てるんですか? 銀の福音のように、完全に操縦者が見えないタイプのISでは無かったんですよね?」

 

「ヘルメットとバイザーで人相は分からないけど、結構鍛えてる感じの体型だったわよ」

 

 

 とりあえず合流しようと、碧が視線で提案すると、マドカもそれに合意し、エイミィも遅ればせながらアイコンタクトに気付き頷いた。

 

「一夏さんの方はとっくに片付いてるみたいだしね」

 

「第二形態移行するとは思いませんでしたよ……」

 

「さっきのISに遠隔操作で無理矢理させられたっぽいわね。そんな研究が行われてるなんて報告は無かったはずだけど」

 

 

 ISの研究の第一人者は篠ノ之束で、それに匹敵するのは一夏くらいだと碧は理解している。その二人がこの事件に解決する方で関わっているのを考えると、その二人に匹敵する研究者がまだいる可能性が出てくるという結論に行きつき、慌てて頭を振った。

 

「どうかしたんですか?」

 

「いえ……何でも無いわ」

 

 

 そんなわけあるはずが無い、と否定しようにも、先ほどの考えが頭から離れなくなってしまった碧は、一夏と合流するまでの間、ずっと不安そうな表情を浮かべていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銀の福音の回収を確認した千冬たちは、こっそりと逃げ出そうとしていたうさ耳を無遠慮に掴み、地面にたたきつけた。

 

「いた~い! 何するの、ちーちゃん! なっちゃん!」

 

「貴様、二重スパイだったのか」

 

「アメリカ側の黒幕に銀の福音を強制的に第二形態移行させられる装置か何かを渡し、それを一夏に喰いとめさせようという計画だろ」

 

「カッコいいいっくんが見れて、ちーちゃんもなっちゃんも満足でしょ? それに、銀の福音暴走には手を貸して無いからね。私はあくまでも第二形態移行させられるように命令出来る信号を開発しただけだもん! 何で敵の手に渡ってるのかは分からないけど……」

 

「……お前が渡したんじゃないのか?」

 

「何で見ず知らずのカスにあげなきゃいけないのさ。あれは白式の第二形態移行の為に開発したんだもん! 何で銀の福音にまで作用したのか、束さんは今からそれを調べるので忙しいのだよ!」

 

 

 それらしい理由を付けて逃げ出そうとした束を、千冬と千夏はもう一度地面にたたきつけた。

 

「へぶっ!? 二回目は酷いんじゃないかな~」

 

「解析ならこの場所でも十分出来るだろ。どうせお前のヘンテコラボが近くにあるんだろうし」

 

「……な、何の事かな~?」

 

「惚けても無駄だ。お前が一夏の水着姿を生で見に来るだろうと言う事はお見通しだったからな。お前のラボの位置は既に特定済みだ」

 

「……ちーちゃんとなっちゃんって、普段怠けてるのに凄いよね。それじゃあ束さんのラボにちーちゃんとなっちゃんをご案内しよう! いっくんの隠し撮り写真も沢山あるからさ。それで許してくれない?」

 

 

 束の提案に気持ちが揺れかけた姉妹だったが、束の背後に現れた少年の姿を確認して、返事はしなかった。

 

「隠し撮りって、いったいいつからやってるんですかね?」

 

「そりゃいっくんが小さかった頃から……って、いっくん!?」

 

「人のプライバシーとか考えないんですか、貴女は?」

 

「だ、だって……いっくんが可愛すぎるからいけないんだぞ! 束さんだっていっくん成分を吸収しないと死んでしまう生き物なんだから!」

 

「……またその成分ですか。何なんです、それは?」

 

 

 織斑姉妹も定期的に『一夏分』を吸収しなければ暴走すると言われているのだが、一夏本人がその成分の事を理解していない。だが束の背後では千冬と千夏が納得したような顔をしているのだ。

 

「一夏分の為なら仕方ないか」

 

「どうやら束もわたしたちと同じ病気らしいな」

 

「病気? なんですか、その病気は……」

 

「「一夏溺愛症候群だ。一夏と定期的に触れ合わないと発狂して最悪死に至る」」

 

「……わざわざ声を揃えて説明ありがとうございました」

 

 

 織斑姉妹のユニゾンに、一夏は頭を抑えながらお礼を言ったのだった。




三人目の発症者、このまま感染が拡大しそうな病気だ…

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