暗部の一夏君   作:猫林13世

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コアの声が聞こえるって便利…


銀の福音の意志

 一夏と織斑姉妹、そして束で立てた作戦に口を挟める猛者はいなかったが、不満を抱えている生徒はいた。だがあの作戦以上の考えが無かったので仕方なく動いている感じは他のメンバーにバレバレだった。

 

「セシリア、少しは機嫌直しなよ。これだって立派な任務だよ」

 

「分かってますわ、シャルロットさん。ですが、候補生である私に課せられた任務が撃墜したISとその操縦者の回収なんて……イギリス本国に知られたら笑われるかもしれませんのよ」

 

「別に笑われないだろうし、もし笑うやつがいたら一夏と篠ノ之博士が社会的に抹殺してくれるでしょうよ。あの博士、一夏の言う事は聞くみたいだし」

 

「センサーに不審船の反応あり。さすがお兄ちゃんだな」

 

 

 セシリアを慰めている横で、ラウラが現れた密漁船の反応に喜びの声を上げた。敬愛する一夏の心配が的中し、その為に人員を割いたのが間違いではなかったと証明されたからだろう。

 

「ラウラ、一夏の予想が当たったのが嬉しいのは分かるけど、一応任務中なんだから」

 

「そもそも密漁船なんて現れた方が迷惑なんだから、喜んじゃダメでしょ」

 

 

 シャルロットと鈴に注意され、ラウラは急に震えだした。

 

「ど、どうしたのよ?」

 

「お、織斑教官に怒られる……もう『アレ』は嫌だ……」

 

「アレ?」

 

「そう言えばラウラもトラウマ持ちだって一夏が言ってたわね……軍人であるラウラがここまで恐れるとは……さすがデビルシスターズ」

 

 

 ラウラのトラウマに興味を抱いている間に、美紀と簪と本音が密漁船を誘導し作戦ポイントから遠ざけ終えた。密漁船はそのまま海上保安庁へ引き渡される事になるだろう。

 

「後は銀の福音を一撃で撃墜して回収するだけね」

 

「一夏さんがカルラさんとマドカさんを運んでいるんでしたわよね。一夏さんに運んでもらえるなんて、羨ましい限りですわ!」

 

「でも、闇鴉越しだからね。実際に一夏に乗れるのはアタシくらいよ」

 

「……お前ら、無駄口叩く暇があるなら気を引き締めろ。私は織斑教官に怒られたくない」

 

「あっ、復活した」

 

 

 ラウラが復活したタイミングで、一夏からの通信が入った。

 

『聞こえるか? 後五分くらいで上空にターゲットが到着する。こちらも同じか少し早いタイミングでそちらに着くので、リラックスムードだったら気を引き締めておいてくれ』

 

「さすが一夏ね。何でもお見通し」

 

 

 完全にリラックスしていた四人は(ラウラは気を引き締めてはいたが)、一夏の通信を受けて身が引き締まる思いになっていた。そして、センサーに闇鴉と銀の福音を捉え、更に気を引き締めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ランデブーポイントまで後少しと言うところで、一夏は謎の少女の声を聞いた。

 

『お願い、誰か助けて! 私を停めて操縦者を助けて!』

 

「(? もしかして、君は銀の福音のコアかい?)」

 

 

 頭に直接聞こえてくる声に、一夏は心の中で声を掛ける。マドカとエイミィが反応しない時点で、この声は自分にしか聞こえていないと理解し、そうなると必然的にISの声と言う事になり、この状況で聞こえてくるなら銀の福音だろうとある程度断定しての返答だ。

 

『私の声が聞こえるの? だったらお願い! 暴走させられちゃった私を停めて、中に閉じ込められている人を助けて!』

 

「(暴走させられた? 君は誰に暴走させられたんだ?)」

 

『分からない。漸く完成して広い空を飛べるって喜んでたのに……』

 

「(自我は保てているのなら、自分で停まる事は出来ないのか?)」

 

『無理だよ……今だってギリギリで話しかけてるんだもん』

 

 

 銀の福音から情報を引き出せないと判断した一夏は、とりあえず福音と中に閉じ込められているであろうナターシャ・ファイルスを救助する事を伝える。

 

「(今から数分後に、君と俺たちは接触する。そこで君のSEをゼロにする。少し痛いかもしれないが我慢してくれ)」

 

『私たちは助かるの?』

 

「(海上に仲間が控えているから、君と操縦者――ナターシャ・ファイルスさんは必ず助ける)」

 

『お願い! 私はまだこの人と――ナターシャと飛びたい!』

 

 

 そこで声が途切れ、一夏は上に控えている二人に声を掛ける。

 

「福音からコンタクトがあった。どうやら何者かに暴走させられたらしい。アメリカの報告では突如暴走したとのことだったが、どうやら虚偽だったようだ」

 

「そもそも兄さま、無人機では無い時点であの情報は虚偽だと見抜けてましたよね?」

 

「全て疑うには情報が少な過ぎたが、無人機では無い事は分かってた。さて、後一分もすれば接触するぞ。エイミィもマドカも準備いいか?」

 

 

 一夏に問われ、エイミィもマドカも肯定の返事をし、それぞれ武器を構える。肉眼でも銀の福音の姿を確認し、マドカとエイミィはそれぞれ零落白夜の発動体制を取った。

 

「十秒前」

 

 

 一夏から告げられ、マドカとエイミィは集中する。

 

「五…四…三…二…一…」

 

 

 自分でもタイミングを計り、丁度真横を通り抜けるタイミングでマドカとエイミィはそれぞれ福音に一太刀浴びせた。

 

「当たった!」

 

「停まった?」

 

「……SEの消滅を確認。福音は所定の位置へ落下していくようだ。作戦は成功……いや『第二形態移行(セカンド・シフト)』しただと!?」

 

 

 福音の意思では無い事が分かっている一夏は、咄嗟にセンサーを確認する。

 

「微弱ながらISの反応……マドカ、上空に敵反応だ。こっちは俺がやる! お前はエイミィと今回の主犯と思われるISの捕獲に向かえ!」

 

「わ、分かりました! いきましょう、エイミィ!」

 

「う、うん!」

 

 

 一夏の怒号にはじかれるように、マドカとエイミィは上空へ向かった。

 

「(油断してた訳じゃない……今回は相手が上手だったな)」

 

 

 第二形態移行した銀の福音を相手に、一夏は反省をしていた。下にいるラウラたちにも指示を出し、福音を停める準備は既に完了していたのだった。

 

「悪いけど、大人しく僕たちと来てもらうからね」

 

「見せ場が来ましたわ!」

 

「はいはい、とっとと停めちゃいましょう」

 

「お兄ちゃんの指示通りだ!」

 

 

 マドカとエイミィに気を取られているのか、遠隔操作はされなかったので、福音は無事に一夏がSEをゼロにし、ラウラとシャルロットによって運ばれるのだった。




何故第二形態移行したのかは次辺りで…

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